「ジョブチェンジ」し続けるための自分への先行投資法

鈴木悠司×浅羽祐樹「クロストーク」

 

試行錯誤を始めるか

 

浅羽 鈴木さん、示唆に富んだお話をありがとうございました。「マチマチ」という言葉が印象的でした。みなさんの事前課題への取り組みで、「私はこういうことをやりたいんです」という、あくまでも「私」目線にとどまっている人もいれば、自分がその大学に留学に行くことでその大学や新潟県立大学にもどういうメリットがあるのか、顧客目線を織り込んでいる人もいて、この教室の中にも差がすでに生じているわけです。大学の外、あるいは世界中をベンチマークにすると、それは雲泥の差かもしれません。

 

今日の話は、まさにステージ0からステージ1に変わるキッカケになったと思うんですね。私が知らなかったことを「知った」という段階ですよね。多くの人にとって、「できないことに気づいていない」から「できないことに気づいた」という転機にはなったと思います。問題は、最後に鈴木さんがおっしゃった「始めてみるかどうか」ということですよね。できなかったことを知った。それをできるようになりたいと思った。そのときに、最初の行動を一週間以内にするかどうか。今日、何かやってみるか、たとえばオフィスアワーに先生を訪ねてみるか、それが決定的な差につながる。「マチマチ」という4文字には、この授業をキッカケに、「そういうことがあるんだ、ふーん」でとどまる人と、行動までつながる人に分かれるということのニュアンスが込められていました。

 

鈴木 まず事前課題に取り組んでくださってありがとうございます。この場で紹介したくなる見事な回答もあれば、本当に「簡単な」回答もあって、わずか7か月でここまで差が生じるのか、というのが正直な感想でした。とはいえ、それで絶望的かというとそうではありません。7か月で生じた差というのは、数か月で挽回することもありうるわけなので、ここからどうしていくかが決め手です。

 

私の話には、具体的に何をしなさいという内容はなかったと思います。それを物足りないと思う人もいるかもしれませんが、具体的に「何をやりなさい」という話は、外れることが多いんですね。私自身、みなさんより随分年上で、長期の変動は見通せない。みなさん自身が考えて、何をするかを模索していかなくてはいけない。それに、正直、やろうとしていることが結果的にあまり役に立たなかったり間違っていたりしても全然いいと思うんですよね。役に立たなかったと分かっても、何かを身につけようとした経験自体、何かを学習するプロセス自体が役に立つのだと思います。

 

浅羽 みなさんが私や鈴木さんよりも有利なところが3つある、とまとめてくださいました。確かに体力は圧倒的にあると思います。私は最近、毎日8時間ぐらい寝ようと思っていますが、42歳にもなると寝て起きても、HP(体力)やMP(気力)が全快していないという感じがあります。私も20歳ぐらいの頃は、徹夜しても翌日ピンピンしていましたし、一晩寝ると完全に回復していましたが、だんだんそれができなくなりました。30歳、35歳、それから40歳の頃で局面が変わると思います。それは圧倒的に違います。

 

あと、失敗が許されるというのも、ものすごく大きいですね。仕事をしているうえで、失敗してしまうと、ペケがついてしまいます。その評判が広がってしまう。みなさんの場合は、ネットで失敗してしまうとログが残ってしまうので取り返しがつかないかもしれませんが、大学の中で失敗しても全然OKですよね。試行錯誤、トライアル「ズ」&エラー「ズ」を繰り返すことができます。それはとてもありがたいことで、そこを最初におっしゃってくださったのは嬉しかったです。

 

鈴木 本当にそのとおりで、経営の世界ですと、何時間ぐらい寝ると効率が落ちないのかとか、CEO(最高経営責任者)の一日の過ごし方を多くの会社で分析した研究があるぐらいです。体力は重要で、ジムに行ったりしている経営者が多かったり、睡眠を何時間以上とるのがオススメですよ、という研究があるぐらい大切なんですね。みなさんの場合には、そういう制約要因をあまり気にしないで、今したいということをすることができるわけです。

 

もっと年をとってくると、睡眠をいっぱいとらないと回復ができないとか、持病が出てきたりするとか、いろいろなことが起きます。そうすると、できることの範囲が外的要因、自分でどうにもならない健康上の理由などで制約されてくるかもしれないんですね。ですから、体力もそうですし、時間もそうだし、さらに上位の概念として、制約要因がまだまだ少ないというのが、みなさんの一番有利なところではないでしょうか。

 

それを利用しているか利用していないかは本当にみなさん次第で、利用していない場合には、我々側からすると「怖くない」。利用している方は、正直ちょっと怖いなというふうに思いますね。

 

 

どのように参照項をとるか

 

浅羽 学生のみなさんにとって、最大にしてほぼ唯一のリソースは「時間」だと思うんですよね。時間をすぐに換金しないといけない、授業料を払わないといけないし生活費も稼がないといけないとなると、今だと803円にしかならないと思うんですね。新潟県だと、最低賃金が803円ですので。

 

その803円をぐっと我慢して5年、10年先にリターンがとれればいいと思うと、まとまった時間を、自分の勉強やスキルアップのために投資できますよね。でも将来の価値は、「経済学入門」をとっている人は分かると思いますが、割り引いてしまいますよね。現在における将来の価値、今日すぐにもらえる803円と、5年後まで待っていると2000円になるときに、5年を待てるかということですよね。ですので、その割引率、若い時は将来の価値を割り引いてしまいがちではないですか。それはどう考えればいいですか。

 

 

 

 

鈴木 人間の心理で、今のことを優先するっていうのは当然あるんですね。時間もそうですし、お金もそうです。効果的な方法は「積み立て」です。時間の積み立てを決めてしまう。授業もそうですし、一定の時間を外国語学習なら外国語学習に使うと決めてしまうわけです。

 

もう一つ有効だといわれているのが、ピア・プレッシャーですね。ただ問題は「ピア」が、昔だと同級生でよかったんですが、いまピアが世界中になっているということです。どういうことかというと、世界中の学生がどのくらい勉強しているのか、調べてみてください。

 

今日キャンパスツアーをさせていただいて、図書館や自習室を見ました。図書館や自習室が埋まっていないのは日本の大学の特徴ですよね、と浅羽先生と話しました。私も先生も留学していたソウル大学では、図書館の席が取り合いになっていました。夜も開いているという事情もあるのですが、布団を並べて勉強している人がいたくらいです。

 

昔は関係なかったかもしれませんが、みなさんの世代は、そういう人たちがピアなんです。ですから、ピア・プレッシャーというのは重要です。ピアをどこに設定するかでまた差が出ます。

 

浅羽 とはいえ、なかなか見えにくいわけじゃないですか。ふだん接するのは、この教室の中の人であり、へたをすると同学年、同姓だけで固まってしまって、他大学、新潟大学の学生さんともなかなか出会わないときに、そのピアの範囲、参照項を世界大に広げるっていうのは、どんな具体的な工夫がありえますか。

 

鈴木 とりあえずは「SALC(新潟県立大学の語学学習支援施設)」が一番いいのではないかと思いました。「SALC」の教材をいろいろ見たんですが、英語はすごくいいのが揃っていました。訊いてみると専門家の方が教材を選んでいるんですね。私が外務省でイギリスに行く前と行ってからも使っていた教材と同じものがあったので、私が知りうる限りではすごく良いものが選ばれていると思いました。

 

ピアを広げるといっても、やみくもにやってもなかなか難しいと思います。ですから、まずは先生に訊いてみましょう。そのあとに大事なのが、その先生が言っていることが正しいかどうかを検証するということです。その検証方法は、その先生の業績や社会的評価などを調べてみるというのが一番いいでしょう。

 

他の大学と比べるときは、どの先生がいいとか個別名よりも、全体のカリキュラムを調べることが大事だと思います。残念ながら、英語で書かれているもののほうが日本語よりも圧倒的に多いので、情報を得るときには一つは英語のソースに当たった方がいいのではないかと思います。

 

浅羽 もう一つ、自分よりも人生の一つ、二つ、三つステージを先に歩んでいる人を参照項にとることが大切だと思います。学生のみなさんがとりあえずやりやすいのは、二つ年上の先輩とか、せいぜいバイト先の店長ですが、それにとどまらない参照項って何があるでしょうか。鈴木さんがその一つだとは思いますが…

 

鈴木 参照項のとり方というものは、みなさんがいま接している世界を広げることが一番の目的だと思います。どう広げるかというと、一つは地理的に広げること。もう一つは時間的に広げることです。

 

地理的に広げるということは、日本全国、世界にいちど出てみるということです。手近でオススメなのは、いちど東京に行って、東京の大学4年生、あるいは社会人1年目ぐらいの人と交流する機会を持つことでしょう。たとえばTED Talksなどを東京でやっているときに興味ある分野を見学してみるのはどうでしょうか。地理的には、新潟から一番近いのは東京でしょうから。東京は世界の都市ランキングでは2位か3位ぐらいに入っているので、それなりに説得力があると思います。

 

時間というと、未来という意味と、過去という意味があります。未来でいうと、未来のことを知るために新しいことをやっている若手経営者やベンチャーの人を探すという方法があります。一方、過去から学ぶのも大事なんですね。歴史上の偉い人の伝記には、いろんな意思決定をしている場面があります。その時々の意思決定の瞬間にどういうことを考えていたのか、いろんな仕事を切り抜けたり、あるいは修羅場を潜り抜けた経験が書かれている本を読むのはいい方法です。そうすると、自分の経験以外の世界から学ぶことができます。

 

 

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