「ジョブチェンジ」し続けるための自分への先行投資法

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ポートフォリオ戦略を持て

 

浅羽 当初、投資できるものが時間しかないとき、うまく投資することで金に化けたり、ネットワークに変えていくために、いつリターンを回収するか、その見通しによって、いま803円で売る場合と、将来、時間給1万円でとりたいというのは、どういう組み合わせでアプローチしていますか。

 

鈴木 難しい問いですね。人によります。短期と長期があって、私自身、長期は予想できないと諦めているので、数年先までで役に立つスキルや知識にしか投資はしないですね。2~3年ぐらいで重要だと思うことはそれなりに分かりやすいので、それぐらい絞っています。

 

一方で、本当にしたいことが決まっているという人は、10年後に役立つと信念を持って進んでもいいのですが、その分リスクは高い。私のオススメは、5年以内くらいに役に立つと思うことからしていくことです。それを全部学び終わったら、さらにその先を視野に入れるのもアリかもしれませんが、現状のみなさんの場合、まずは今すぐ役に立つスキルから学ぶことの方が重要なのではないかと思います。

 

浅羽 組み合わせの配分比率、ポートフォリオはどのぐらいですか。いま宿題をやらないといけないとか、バイトでとりあえず学費や生活費を稼がなければいけないということと、3年後、あるいは10年後を見通して投資するということの間で、現時点の24時間の使い方として、それぞれ何パーセントずつぐらい配分するといいのでしょうか。

 

鈴木 それはジョブによって異なります。私が今やっている戦略や組織は、中期の方がかなり多めになっていて、6~7割ぐらい中期のことを考えています。一方で、企業でも、たとえば営業ですと、短期の業績が9割ぐらい、3か月後までのことを考えて動いていることが多いと思います。

 

いちばん重要なのは、ポートフォリオ配分をまず持つということです。どれかに10割全部賭けるというのはリスキーです。それから、組み合わせを選ぶこと。3か月、1~2年、3年の異なる「尺」で組み合わせを考えてみてください。最後に、考えて決めた後に、誰かと突き合わせることです。仕事であれば自分の上司なりに訊いて、期待値をすり合わせるのがいいでしょう。

 

浅羽 私は、金融という意味での投資はしていないんですね。すべて現金、しかも日本円だけで持っています。韓国ウォンは少し持っていますけど。本当は、株式などに投資してトータルでリターンを考えた方がいいのでしょうが、そういうところに関心を持つと勉強ができなくなるので、もういいやと思って最初から諦めています。

 

いま「ポートフォリオ」という言葉が出てきましたが、みなさんにとって一番なじみ深いのは、成績表ですよね。クリエイターの人の作品集もポートフォリオです。投資用語だと、そもそも現金で持つのか、株で持つのか、貴金属で持つのか、株もどの株を持つのか、現金も日本円だけで持つのか、ドルも持つのか、その組み合わせで、金融資産を目減りさせず、長期的には増やしていくということですね。

 

そういうふうに、みなさんも自分の時間を、どれに何分ずつ使うか、すぐにリターンが欲しいもの、これは売らずに持っておくもの、これは10年後にお金やネットワークや信用に換えるもの、といった「分散投資」の発想を持つことが大切です。

 

鈴木 ポートフォリオは組み合わせが大事ですね。一見平凡だし、そんなにレアではないものでも、掛け算の組み合わせですごいレアになって、オンリーワンになることがあります。

 

 

 

 

私自身の仕事のポートフォリオでいうと、戦略、組織、オペレーションのような、いわゆるコンサルティング的なことをやっている人はゴマンといます。一方、交渉や外国語ができる人もゴマンといます。ところが、交渉をやった経験があって、コンサルティング的な経営ができて、かつ韓国語と英語と中国語ができるっていう人は多分いません。一つ一つはどれもかなり平凡なスキルですが、それを組み合わせるのが大事です。

 

弊社HMT、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズの技術も似たようなところがあります。CE-MSという解析技術があるのですが、これはCEとMSどちらも汎用性の高い製品なんですが、それを組み合わせる技術がオリジナルなんです。それによってオンリーワンになるわけです。何と何を組み合わせるのかが重要です。

 

まれに、単体でレアになるスキルも確かにあります。しかしそれはかなり習得が難しいので、平凡なスキルをどう組み合わせるかで、レアになっていくというのが大事です。

 

浅羽 まさに私のことを指摘さているような気がします。政治学もsecond-tier、二番手層だし、韓国政治もそうだし、英語も韓国語もそうなんですが、組み合わせでできるのはお前しかいない、みたいな感じですよね。

 

鈴木 まさにそうですよ。たとえば先生の場合、私が僭越ながら申し上げると、韓国政治、韓国語、英語は他の人もいますけど、そこに「司法政治」が入ってくると一気にレアになると思いますね。それによって、全然違う分野の人から声がかかったり、私のようなビジネス界の人と韓国つながりでコラボしたりとかできる。そういう組み合わせで一気にレアになるわけですね。

 

 

組み合わせ方を「刷新」する

 

浅羽 イノベーションって、「新結合」、新しい組み合わせ方だといわれます。両方、汎用的なスキルだけども、その組み合わせ方を見つけ、バリューを生みだして提示したのは初めてだという定義がありますよね。

 

鈴木 そうですね、イノベーションはおっしゃるとおりで、誰も想像だにしていなかったものというよりは、想像はできたけれどもコレとコレを組みわせるのはソレが初めてだというものが多いですよね。よく挙げられるのはiPhoneの例です。i-modeもありましたし、日本には別のショート・メッセンジャーもありました。しかし、iPhoneはそういったものをうまく組み合わせて、アプリという形で展開可能性を切り拓いたわけです。

 

ちなみにイノベーション研究でいうと、多様な環境、多様なチームで作った方が、イノベーションは起きやすいですね。これもおそらく、いろんな発想を組み合わせることが重要だということです。

 

浅羽 鈴木さんはジョブチェンジ、狭義の「転職」という意味でも、広義の「役割やアビリティの組み合わせを変えていく」という意味でも、ものすごいスピードでいろんなことをされていると思います。大学1年生、2年生の頃に、どういうジョブチェンジを意識すればいいでしょうか。単に高校生から変っただけではなく…。

 

鈴木 大学生の場合には、成人を迎えますので、レポートの出し方などについては、一人前の大人とまではいかなくても、0.8人前ぐらいの大人であることが前提として求められます。高校生の場合は先生が付きっ切りで、水準に達していなかったら引き上げてくれると思いますが、大学にはそれがない。求められる準備、あるいは顧客目線をもう少し持たなくてはいけないというところがあります。

 

それと、大学一年生になると、大学によってはもう専攻が決まっています。その分、他の人とやっていることの内容も違ってくるし、今日の授業もそうですが、各自どう受け止め、行動につなげていくかで、同級生の間でも差がついてくるでしょう。これは高校との大きな違いですので、そこは気をつけてほしいと思いますね。

 

浅羽 今回みなさんに出してもらった事前課題とか、私が授業のたびに毎週見ているリアクション・ペーパーも相当差があるんですね。技術的には「manaba(新潟県立大学のLMS)」でも可能なんですが、もし学生の間でも互いに見せ合うと、同じものを受けても隣の人とこんなに違うんだと、アクションする段階まで進んでいる人もいれば、まだ意識すらできていない人もいる。その差に気づくかどうか、ですよね。気づいたことで、「やばい!」と思ったら、ようやく「動こう」というキッカケになります。それがなかなか「見える化」されていないんですけれどね。

 

鈴木 本当にそうですよね。私はいろんなところで採用を担当したことがありますが、書類選考で、一人の書類を見るのはたった数分なんです。それでも書いたものの段階で如実に差が出るというところは覚えておいてほしいということです。今日の課題も、明らかな差が出ていたのは驚きで、私にとっても発見でした。

 

浅羽 率直に、会ってみようと思った回答は何枚ぐらいありましたか。

 

鈴木 全体の1~2割ぐらいですね。

 

浅羽 私も鈴木さんと一緒に見たんですが、最初の10秒ぐらいで「これ面白いね」ってなるんですよね。みなさんの前ではいいものしか伝えにくいのですが、マチマチなので、両極、本当はあるんですよね。実際は、同時にそういう判断が下されているんですが、見えないようになっているので、怖いですよね。

 

鈴木 内容自体もさることながら、体裁もあってですね。たとえば手書きとパソコンだったらパソコンの方が見やすい。また、項目ごとに段落を分けるなど構造化して書いてあるか、前提を相手に説明しようとしているか、これだけでも、顧客志向の有無を読み取れます。ほんの10行のレポートでも、こういうところはシビアに評価されます。

 

別に就職アドバイスをしに来たわけではないですけれども、みなさんに言いたいことは、5分でできることを埋める努力すらせず、たとえいいものを持っていても、形式面で落とされるようなことは絶対に避ける方がいいですよ、ということです。

 

 

stop to thinkのタイミング

 

浅羽 顧客意識を持つ、自分が稼ぐという感覚を持つのは、大学生の頃ってなかなか難しいと思うんですが、どういうブレイクスルーがありえますか。

 

鈴木 経済活動における「顧客」の考え方の基本は、相手は「自分と違う立場や利害を持つ他者」ということだと思います。学生レベルでは、たとえばディベートをして、肯定、否定の立場に分かれて相手のことを考えるのが勉強になります。ディベートの場合、肯定、否定に分かれて相手を議論で負かすことが目的で行うこともありますが、ビジネスでは、相手に勝つことが目的の場合もあれば、アグリーメント、合意を作っていくのが目的の場合もあります。勝ち負けではなく、説得をしなければいけないことがある。そういう時に、打ち負かすだけではなくて、どのようにすれば合意をとれるのかというところまで考えなければならないというところが交渉事ではよくあります。

 

一番いいのは、たとえば大学のレポートであれば、自分が書いたものを印刷することです。そして印刷したら広げてもういちど読んでみてください。さらに、大丈夫だと思ったら誰かにお願いして、自分の書いたものが果たして意味が通っているのか確認してもらいましょう。意外に通じない日本語になっていることがあります。自分だけで見るとそういうことになっていても気づきませんから、書いたものを第三者に見てもらうのは、有効な方法だと思います。

 

浅羽 ジョブチェンジに話を戻すと、自分が望んで移る場合と、あるいは周りから組織の中で求められて変わらざるをえない場合の両方があると思うんですが、自分が決められる範囲で、今の場に踏みとどまろうとするのか、あるいは別のところに移ろうとするのかという意思決定において、どういう要素を考慮に入れてこれまでチェンジしてきましたか。株式と一緒で、売らずに持っておく「hold」するのか、この瞬間にどれを「sell」するのか、どういう計算式になっていますか。

 

鈴木 一概に言うのは難しいかもしれません。自分で変えようと思う場合は、結局、自分のしたいこと、私の場合、中期でしたいことは戦略や組織、経済的な領域で役に立つことというのは一貫しています。一方で、一年に1回ぐらいは、今していることを考えてみて、自分の幸せのレベルが100点満点で何点ぐらいかを客観的に見てみるといいと思います。したいことが50点以下、60点以下になってきたら、ジョブチェンジを検討する。これは、転職という意味でもあるし、役割、職務という意味でもありますよね。社内にあるか社外にあるかというだけで、結果としては転職ということもありますし、社内での配置転換の場合もありますけれども、そうやって「立ち止まって考える」時間を作るのは大事だと思います。

 

浅羽 あの時、外務省にずっと勤めていたらどうなっていただろうかとか、あの時、もし自分がセンター試験でもうちょっと頑張っていたら今どうなっていただろうかといった「ありえたかもしれない『いま、ここ』」、仮定法過去って無限にありますよね。僕も大学受験に二回落ちたのでいっぱいあります。当初は外交官になりたかったですし。そういう想像に苛まれたりはしませんか。

 

鈴木 私はありません。みなさんにもオススメしません。端的に、過去は変えられないからです。私も外務省にいる間は通訳学校に通っていて、今の総理通訳とは同期です。そのまま勤めていたら、今頃、首脳会談や外相会談で通訳をしていたかもしれませんし、首席事務官になっていたかもしれません。

 

一方で、冷静になって、投資対効果を考えてみてほしいですね。過去について考える投資対効果はゼロです。一方、機会費用はかなりあります。過去を考えて後悔している時間はそれだけでは無駄です。過去は変えられないので、現状と未来を考えた方がいいと思います。もちろん、そうはいっても感情的に過去を思い出して後悔することはあるかもしれません。ただ、一つだけ覚えていてほしいのは、反省から学んで現在に生かすレビューは必要ですが、あの時こうしていたらよかったとアレコレ悩むのは投資対効果がゼロということです。

 

浅羽 今は克服したのでいいですが、私も30代半ばくらいまでウジウジ言っていましたし、大学の1~2年生の時は、他大学に編入学しようとしていました。苛んでいる人もこの中にいるかもしれないので、あえて訊いてみました。

 

鈴木 本当に苛んでいるのだとしたら、みなさんであれば、まだやり直しが効きますし、夢を諦めずにジョブチェンジするという人もいます。ただ、それは過去に苛んでというよりは、いろいろ経験したうえでもう一回戻ってくるということです。その場合には、仮にみなさんがここにいて、もう一回、別の大学を受け直そうと思っていることがあるとしたら、当時に戻るではなくて、ここでの経験を生かして、どういうふうにするかという、より高次元で考えた方がいいと思います。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

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