セクシュアルマイノリティと自殺リスク

HIV感染者について

 

荻上 それでは、この10年の調査研究で明らかになったことについて伺っていきたいと思います。まずは、HIV感染者と同性愛者の関係について教えていただけますか。

日高 国に報告されているHIV/AIDSの発生数は右肩あがりに年々あがってきています。感染爆発が起こるといわれながら30年が経ちましたが、欧米の流行国のような感染爆発は、今のところ国全体でみれば起こっていないと言えるかもしれません。

 

 

※資料1「日本国籍HIV感染者の年次推移」

※資料1「日本国籍HIV感染者の年次推移」

 

 

しかし、感染経路別にグラフを色分けしてみると、男性の新規感染者の7割強は男性同性間での感染であることがわかります。年齢階級別に見ると20~30代が多いです。最近では10代での感染も報告されるようになってきました。

 

 

※資料2「性別・感染経路別」

※資料2「性別・感染経路別」

 

感染者に「若い人が多い」と報道されるときに、テレビでは出会い系サイトや女の子の映像が流れ、あたかも若い女の子に感染が広がっているような印象を与えてしまうことがあります。他の性感染症と同じくHIVも感染が拡大していると誤解されてしまいがちです。そうなると、流行が起こっていない集団にばかり対策を打ってしまうことになり、現在流行が起きているゲイ・バイセクシュアル男性に対しては、注目も対策もされないまま放置してしまうことになります。

実際に、ゲイ・バイセクシュアル男性を対象にした調査によれば、「学校で男女間でのHIV感染に関して教育を受けた人」は7~8割いますが、「男性同性間での感染の可能性について教育を受けた人」は1~2割に下がります。日本の疫学状況とは違うことが教育現場で情報提供されているということです。ただ、初期の頃には、エイズ=同性愛というようなスティグマになってしまったことがあるので、それゆえに報道のあり方にも慎重にならなければいけない、だから逆にブレーキがかかってしまってきた側面もあるかもしれません。

ともあれ、特定の集団に病気が流行しているということは、何か理由が存在する訳です。そのリスクファクターをデータとして示す必要がありますが、研究を進めていくと、リスクファクターのひとつに、セルフエスティーム(自尊心)の低さやメンタルヘルスの関与があることがわかってきました。

 

1 2 3 4
シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

・荒木啓史「遺伝か環境か?――ゲノム科学と社会科学の融合(Sociogenomics)が教育界にもたらすイノベーション」
・神代健彦「道徳を「教える」とはどのようなことか――「押しつけ」と「育つにまかせる」の狭間を往く教育学」
・中里透「財政のことは「世の中にとっての」損得勘定で考えよう!」
・伊藤昌亮「ネット炎上のポリティクス――そのイデオロギー上のスタンスの変化に即して」
・穂鷹知美「マルチカルチュラル社会入門講座――それは「失礼」それとも「人種差別的」? 」
・福原正人「戦争倫理学と民間人保護の再検討――民間人殺害はなぜ兵士殺害より悪いのか」