セクシュアルマイノリティと自殺リスク

自殺対策のリスク群


【自殺未遂経験の割合】

日高 ゲイ・バイセクシュアル男性を対象に、2011年度に実施したインターネット調査によれば、自傷行為(刃物などでわざと自分の身体を切るなどして傷つけた経験と定義)の生涯経験割合は全体の10.0%、30代で9.2%、20代で11.8%、10代で17.0%と、年代が若いほど高くなる傾向がみられています。

首都圏の男子中学生における自傷行為の生涯経験割合は7.5%であり、それを比較しても10代のゲイ・バイセクシュアル男性における自傷行為の生涯経験割合(17.0%)は2倍以上高くなっています。

荻上 とても高い数字ですね。自殺対策に取り組んでいるNPO「ライフリンク」の清水康之代表も、以前お会いした時、この実態について懸念していました。

日高 アメリカのコロンビア大学の研究者は、HIV感染症は氷山の一角であり、ゲイ・バイセクシュアル男性が抱える健康問題のうちで、最も予算がついて注目された疾患でしかないといっています。これまでに実施されてきた研究によって、HIV感染に至るまでの背景要因として、いじめ、自殺、性被害、アルコール薬物、といったメンタルヘルスの課題があることが数多く示されています。

日本のゲイ・バイセクシュアル男性においては、全体の65%が自殺を考えたことがあり、15%が自殺未遂をしているという結果が出ています。1999年(1,025人から有効回答)と2005年(5,731人から有効回答)に行ったインターネット調査、またその他のサンプリング手法によって行った160人規模の調査でも、ほぼ同じような割合が出ました。新聞やテレビなどのマスメディアでも、この結果が大きく取り上げられました。

 

 

※資料3「これまでに自殺を考えたこと・自殺未遂」

※資料3「これまでに自殺を考えたこと・自殺未遂」

 

また、2001年に厚生労働省のエイズ予防研究の一貫で大阪ミナミのアメリカ村で実施した若者の健康リスクに関する街頭調査(http://www.health-issue.jp/suicide/)では、性的指向を分析軸に自殺未遂経験割合の実態を明らかにしています(15~24歳の男女2,095人からの有効回答)。自殺未遂の生涯経験割合は全体で9%(男性6%、女性11%)であり、自殺未遂経験に関連する要因を男女別に、ロジスティック回帰分析によって分析しました。

その結果、男性のみ他の要因の影響を調整してもなお、性的指向が最もリスクの高さを示し、ゲイ・バイセクシュアル男性の自殺未遂リスクは異性愛者よりも5.9倍高いことが示唆されました。同じく、いじめ被害にあったことのある人は被害を経験していない人に比べて自殺未遂リスクは5倍、薬物使用経験のある人はない人の3倍高いという結果でした。

 

 

※資料4「自殺未遂経験に関連する要因」

※資料4「自殺未遂経験に関連する要因」

 

国内で性的指向を分析軸にした自殺未遂に関連するデータは、今のところこれが唯一だと思います。これらのデータをもとに、ゲイ・バイセクシュアル男性を自殺のリスク群として、国や自治体がきちんと認識し、救える命のためにどのような対策ができるかを真剣に考えていく必要があります。

 

【抑うつ傾向について】

荻上 「同性愛者である」ということに、苦悩を抱かざるをえない社会状況があるということですね。こうした実態が明らかにされた後に、年齢にあわせた、教育的なアプローチやバックアップが必要になってくると思います。調査では、同性愛者の方が、いつ、どのような傾向に陥りやすいと出ているのでしょうか。

日高 研究に参加してくださったゲイ・バイセクシュアル男性の二人に一人がうつや不安のリスク群にあり、年齢階級別にみれば、明らかに若年層に抑うつ傾向が顕著です。また、気分の落ち込み・不安などの症状に基づく、心理カウンセリング・心療内科・精神科の生涯受診歴はゲイ・バイセクシュアル男性の約27%であり、過去6ヶ月間では約9%です。受診時に自分の性的指向を話した経験のある者は8.5%と低い割合でした。

メンタルヘルスはどの指標においても若年層のほうが悪いです。また、ゲイ・バイセクシュアル男性は30代ぐらいになって、他の集団の平均値(メンタルヘルスの状況を客観的に測定する心理尺度の平均値)と同じぐらいになるということが、99年の調査でわかっています。

荻上 思春期以降、自分の性の形に折り合いをつけるのに、時間がかかっているのですね。

日高 異性愛が前提とされる社会において、ゲイ・バイセクシュアル男性は生きづらさを抱えていることが容易に推測できます。これまでの調査でも、異性愛者を装う心理的葛藤が強い者ほど抑うつや不安、孤独感の強さや自尊心の低さなど、メンタルヘルスに不調があることもわかっています。

しかしながら、心理カウンセリング・心療内科・精神科の受診歴は抑うつ割合の高さに比較すれば概して低く、仮に受診に辿りつけたとしてもその場面においてでさえ、自身の性的指向を話すことに躊躇する現状があることが調査から示されています。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.vol.271 

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