何が日本男性の育児参加を妨げているのか――稼ぎ手役割意識からの脱脚と男性の育児参加

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まだまだ重要な意識改革

 

この点と関連して、近年の研究は、男性の性別役割分業意識と育児参加の関連について、既存の研究とは異なる結果を報告していることに注意したい。例えば、1998年から2008年までの10年間における、父親の育児参加の変化を分析した松田(2011)は、男性の労働時間が彼らの育児参加を強く規定していることには変わりがないことを確認しながらも、1998年の時点においては男性の育児参加を規定しなかった男性の性別役割分業意識が、2008年になると有意な効果を及ぼすようになっていることを明らかにしている。

 

具体的には、革新的性別役割分業意識を持っている男性の場合は、子どもの世話の頻度が高くなり、保守的な性別役割分業意識を持っている男性の場合は、世話の頻度が低くなっていた。松田は、1998年から2008年までの10年間、男性の育児参加の全体平均に変化が少なかった理由を、革新的な性別役割分業意識を持つ男性と保守的な性別役割分業意識を持つ男性において、育児参加の頻度が相反する方向に動いているからだと解釈している。

 

また、性別役割分業意識の多元性(注1)に着目し、育児参加との関連について検討した筆者の分析でも、男性の性別役割分業意識と育児参加の間には有意な関連性がみられた(裵、2014)。まず、男性の性別役割分業意識を、「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」という狭義の性別役割分業意識と、「家族を(経済的に)養うのは男性の役割である」という男性の稼ぎ手役割意識の二つの意識を軸とし、以下のように分類した。

 

(注1)一般的に、「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」という、性別役割分業に対する考え方は、革新的な方向に変化しているといわれている。実際に、内閣府の男女共同参画に関する世論調査をみると、性別役割分業に賛成する人は減少し、反対する人が増加しているという長期的な傾向を確認することができる(内閣府、2019)。だが、男性が「一家の稼ぎ主」の責任を果たすべきであるという、男性の稼ぎ手役割についての意識の場合は、依然として保守的な意見が多数を占めている。例えば、内閣府(2012)の「男性にとっての男女共同参画意識調査」 によると、「(結婚したら)夫は家族のために、仕事は継続しなければならない」という考えについて、肯定する回答(「とてもそう思う」+「そう思う」、以下同様)をした者の割合は、男性では77.0%、女性では80.2%をも占めている。さらに、「(結婚したら)家族を養い守るのは、自分(夫)の責任である」という考え方についても、肯定する回答は女性で57.3%、男性では74.5%に至る。

 

①狭義の性別役割分業意識に賛成し、男性の稼ぎ手役割意識にも賛成

②狭義の性別役割分業意識に賛成しながら、男性の稼ぎ手役割意識には反対

③狭義の性別役割分業意識に反対しながらも、男性の稼ぎ手役割意識には賛成

④狭義の性別役割分業意識に反対し、男性の稼ぎ手役割意識にも反対

 

 

図3.男性における性別役割分業意識の多元性

 

 

それぞれのカテゴリー別に育児参加の程度を調べた結果、狭義の性別役割分業意識と男性の稼ぎ手役割意識をともに肯定する、保守的な性別役割分業意識を持つ男性(①)よりも、稼ぎ手役割にこだわりながらも女性の社会進出や男性の家族役割参加を肯定する男性(③)の方が、加えて、このように性別分業と男女共同参画の間で揺れ動く男性よりも、一貫して革新的性別役割分業意識を持っている男性(④)の方が、明らかに育児に参加していた(裵 2014:34)(注2)。

 

(注2)各カテゴリーの割合は、①が51.1%(307人)、②が1.0%(6人)、③28.8%(173人)、④19.1%(115人)であった。②の狭義の性別役割分業意識に賛成しながら、男性の稼ぎ手役割意識に反対している場合は、全体の1.0%で6人しかいなかったため、分析から除外している。

 

要するに、かつてよりも男性の育児参加への社会的期待が⾼まるなかで、男性の育児参加を規定する要因としての男性自身の性別役割分業意識が、その力を発揮するようになったのである。松田(2011)が指摘したように、今後の日本男性における育児参加の行方は、労働時間の適正化とともに、やはり男性の意識改革にも依存するということである。すなわち、男性の育児参加を促進するためには、職場環境の整備だけではなく、男性の性別役割分業についての意識を啓発する必要がある(注3)。性別役割分業意識の多元性を考慮するならば、こうした意識啓発において重要なのは、単純に男性の家族役割参加への必要性を訴えるようなものではなく、男性は一家を経済的に養い、大黒柱としての役割を果たすべきだという、稼ぎ手役割意識そのものを問い直すことであるだろう。

 

(注3)そもそも、男性の長時間労働はそれ自体が強固な性別役割分業意識を表す特徴の一つである(永井、2004)。したがって、労働時間の再考には、すでに保守的な性別役割分業意識についての意識を問い直すという意味が含まれているともいえる。

 

 

「父親である」ことを超え、「父親をする」ことで「父親になる」 

 

「育児をしない男を、父とは呼ばない」。1999年、厚生省が少子化対策の一環として展開したキャンペーンで使われたキャッチフレーズである。積極的に子どもにかかわらない男性は、たとえ血が繋がっているとしても父親にはならないという強烈なメッセージは、まだ「イクメンブーム」が起きる前であった当時、大きな反響を呼んだ。それからちょうど20年を経て、「イクメンの時代」ともいわれる今日を生きている男性たちにとって、このキャッチフレーズはどのように響いているのか。

 

大野(2016)は、発達心理学、精神医学などにおける先例を取り上げながら、「家族である」ことと「家族をする」ことについて、次のように比較、説明している。

 

「家族である」ということは、夫婦である、親子である事実認識さえあれば、あえて関係解消の手続きを踏まない限り、特別な努力なしでもその関係が自ずと維持される関係のことを指す。「家族をする」ということは、「夫婦である/親子である」という事実だけではその関係が維持されず、つねに能動的な行為によって関係を再構築しつづける努力のことを指す。

 

すなわち、「家族をする」場合は、家族であるという事実を超え、具体的な⾏為としてどのように家庭にかかわっているのかが重要になってくるのである。このような先例を参考に、⼤野は、「家族する=主体的、応答的、⽣成的な家庭関与」と定義する(2016:153)。この定義からみれば、「⽗親をする男性」とは、性別役割分業などにかかわらず、主体的に⼦どもにかかわり、⼦どもの発達状況やニーズに応じて、柔軟に育児を実践する男性だといえるだろう。   

 

ふりかえれば、このような「⽗親をする」男性こそが、20年前の「育児をしない男を、⽗とは呼ばない」というキャッチフレーズがイメージした「⽗」の姿であり、今でいう、「イクメン」の本質ではないのか。冒頭で紹介した、『そして⽗になる』のストーリーは、⼦どもの取り違えといった⼤きな事件をきっかけに、「⽗親である」ことに⽌まっていた主⼈公が、「⽗親をする」ことを通じ、やがて「⽗親になっていく」過程を描いた作品だともいえる。

 

しかし、本稿でここまで調べてきたように、現実の社会では、男性たちが日常生活において「父親をする」ことはそれほど容易なことではない。

 

⽇本の男性たちに「⽗親をする」機会を与えるためには、どうしたら良いのか。まず彼らがおかれている労働環境の改善が必要であることはいうまでもない。⽯井(2018)が指摘しているように、社会全体――政府、地⽅⾃治体、企業、地域社会、NPOなど――が協働し、男性の育児参加をサポートする「しくみ作り」も必要である。

 

しかし、働き⽅改⾰や社会全体のしくみだけでは不⼗分である。もう⼀つの重要な要因として、当事者である男性の意識改⾰も重要である。保守的な性別役割分業意識、とくに男性が働くことで家族を扶養する責任を持っているという稼ぎ⼿役割意識から脱却し、より積極的に、そして能動的に育児などの家族役割にかかわっていく姿勢が求められる。

 

労働環境の改善、男性の育児をしっかりサポートする社会全体のしくみ、男性自身の意識改革、これらの要因が出揃ってこそ、男性たちが今よりも一層「父親をする」ことが可能となり、それは「父親になる」ことに新たな意味を付け加えるのではないだろうか。

 

 

参考文献

・石井クンツ昌子、2018,「育児・家事と男性労働」『日本労働研究雑誌』699: 27-39.

・大野祥子、2016,『「家族する」男性たち―大人の発達とジェンダー規範からの脱脚』東京大学出版会.

・国立女性教育会館、2004-2005,「平成16年度・17年度家庭教育に関する国際比較調査」.

・佐々木昇一、2018,「ワーク・ライブ・バランス時代における男性の家事育児時間の規定要因等に関する実証分析」『生活経済学研究』47: 47-66.

・総務省統計局、2018,『平成28年社会生活基本調査―生活時間に関する結果―結果の概要』.

・内閣府、2016,『男性にとっての男女共同参画意識調査』.

・内閣府、2018,『平成30年版男女共同参画白書』.

・永井尭子、2004,「男性の育児参加」渡辺秀樹・稲葉昭英・嶋崎尚子編『現代家族の構造と変容―全国家族調査[NFRJ98]による計量分析』東京大学出版会,190-200.

・裵智恵、2014,「性別役割分業意識の多元性と男性育児参加」渡辺秀樹・竹ノ下弘久編『越境する家族社会学』学文社,20-36.

・松田茂樹、2004,「男性の家事参加―家事参加を規定する要因」渡辺秀樹・稲葉昭英・嶋崎尚子編『現代家族の構造と変容―全国家族調査[NFRJ98]による計量分析』東京大学出版会,175-189.

・松田茂樹、2011,「父親の育児参加の変容」稲葉昭英・保田時男・田渕六郎・田中重人編『日本の家族1999-2009』東京大学出版会,147-162.

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

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