移民受け入れと社会的統合のリアリティ――現代日本における移民の階層的地位と社会学的課題

・ジェンダー

 

ジェンダーというのは、海外の移民研究においても比較的、新しい視点である。しかし、そこで明らかにされつつあることは、非常にダイナミックである。

 

移民に占める女性の割合は最近、世界のどこの地域でも上昇しつつある。その背景には、先進各国においていずれもジェンダー平等が進み、女性が従来ほど家事、出産、育児などのケア役割を積極的に引き受けなくなってきた結果、その空隙を埋めるかたちで移民女性が流入しているということがある。これを移民研究の権威であるサスキア・サッセンは「再生産活動のグローバル化」と呼び、世界的な現象であるとしている。またその結果、移民女性は移民であるということと、女性であるということの「二重の障害」の下にあるとされてきた。

 

日本においても90年代、東北の農村部を中心とした「ヨメ不足」に端を発した「外国人花嫁」の導入や同時期に都市部を中心に見られたフィリピン人エンターテイナーの増加や結果としての日本人男性との結婚件数の増加、あるいは最近では一部の自治体における外国人メイドの受入れの開始といったことが、こうした事例として挙げられるだろう。

 

しかしながら、こうした現象をエピソードベースではなく、定量的なデータから確認した研究は稀であった。本書では日本における移民女性の階層的地位について、日本人女性とも比較しつつ「二重の障害」仮説の妥当性について検証した。

 

その結果、日本における移民女性については、その階層的地位から見て、二重の障害というべき状況は部分的にしか妥当しないことが明らかにされた。例えば、移民女性は結婚している場合や小さな子どもを育てている場合、夫が日本人であるか移民であるかにかかわらず、日本人女性よりも専業主婦になりやすい、つまり性別役割分担を引き受けやすい傾向が見られた。

 

しかしながら、働いている女性に限ってみれば、諸外国で見られるような福祉や医療、あるいはメイドといったケアワークにつく傾向は見られなかった。むしろマニュアルワーカー(工場労働者)等、男性が多く就くタイプの仕事に就く傾向が強いことが明らかになった。さらに、高学歴中国人女性に限ってみれば、同じハイスキルの仕事でも、管理職や専門職、とりわけ、エンジニアや大学の教員といった専門職の中でもステータスの高い職業に就くことが日本人女性よりも多いという結果が得られた。

 

これは移民女性が既存の女性役割=ケア役割を担うことが多いのは主に家庭内であって、労働市場においてとくにそういった傾向は見られないということを意味する。それどころか、高学歴層では若干ながら日本人女性を凌駕する地位の仕事に就く傾向が見られたことは、私たちの社会の別の問題を浮かび上がらせるものでもある。

 

こうした結果は、日本人女性の階層的地位があまりに強くジェンダーの影響を受けてきたことの裏返しでもある。つまり、日本人女性は学歴が高くても、管理職ではなく専門職に就く傾向が高く、また同じ専門職でも、例えば医師ではなく看護師、あるいは大学の教員ではなく、小中学校の教員といったように、同じ職種でも、待遇や地位において相対的に劣る職業に就く傾向が強いとされる。また、こういった職業の多くは国家資格によって守られており、移民が就くことは容易ではない。その意味で日本におけるジェンダー関係の不均衡さは制度的に保障されたものでさえあるといえる。

 

その結果、逆説的ではあるものの、移民女性はこういった構造から排除されているが故に、かえって労働市場においては日本人男性に近い地位達成のパターンを示すものと考えられる。これが移民女性の二重の排除について検討した結果、反照的に浮かび上がってきた私たちの社会の姿である。

 

移民について考えることは、自分たちについて考えることでもあるということを、これ以上クリアに示す結果はないといえよう。

 

 

・世代、教育

 

最後に世代の問題として、移民第二世代の教育達成について、高校進学を軸に分析した。高校進学は現在、同問題を語る上で大きな注目を浴びているものであり、政策的な関心も高い。しかしながら、移民第二世代の高校進学をめぐる議論においては、主に学校内におけるスクールカルチャーへの適応が焦点となり、親の階層的地位との結びつきといった社会構造から論じたものはまれであった。

 

その一方で、アメリカを中心とした海外の移民研究では親世代の階層的地位の差異が移民第二世代においてより拡大したかたちで見られるとする「分節化した同化理論」が妥当することが明らかにされてきた。

 

本書ではこうした問題意識から、中国、フィリピン、ブラジル及び日本国籍の母親を持つ子どもを対象に、親世代の学歴を中心とした階層的地位とその子どもの高校進学の有無との関連を分析した。これはとりもなおさず、移民の階層的地位の世代間移動について「分節化した同化理論」の観点から分析することを意味する。なお、本書でいう移民第二世代とは、少なくとも両親のいずれかに外国籍の親を持つ子どもと定義される。また、以下の分析は母外国籍である場合に限定したものである点にも注意されたい。

 

その結果、移民第二世代の高校進学率の決定に当たっては、(母)親の学歴の影響は日本人の両親を持つ子どもと比べても相対的に小さく、またひとり親世帯であるといった状況からのネガティブな影響も日本人の母親を持つ子どもより小さいという結果が得られた。一方、子ども自身の日本での居住期間が長い(5年以上)の場合でも、日本語能力の不足や適切なロールモデルの不在といった移民第二世代に固有の問題のマイナスの影響は消えないことも同時に示された(図3)。

 

つまり、このことは、移民第二世代は親の学歴の低さやひとり親世帯であること、及びそれに伴う有形無形のリソースの不足といったことからは相対的に影響を受けにくい反面、移民第二世代であるということのハンディキャップ自体は居住が長期化し、日本社会に適応する中でも解消しきれないことを意味する。その意味で、分節化した同化理論は日本には妥当しないということができる一方、スタンダードな同化理論も妥当しないということができるだろう。

 

こうした結果は、日本語能力の向上やまた日本語が上達した後も、進路情報やその後の人生設計をどうするかといった点において、移民第二世代が的確な指導を受ける機会を保障することが必要であることを示唆するものといえよう。

 

 

図 3 母の国籍、学歴、及び本人の5年前の居住地別に見た高校在学率(モデル推計値)

出所:是川(2019)

注:推計に当たっては母国籍、母国籍*母子世帯、本人の5年前居住地別に月齢(204か月)、男性、東京在住、父高卒、きょうだいなしの条件で推計した。S及びLは本人の5年前居住地に対応しており、S=国外、L=海外を意味する。

 

 

5.緩やかな社会的統合――さらなる探求へ

 

本研究で明らかになったことは、現在の日本において、移民の緩やかな社会的統合が見られるということである。ここでいう社会的統合とは、移民第一世代の移民男性の労働市場への統合、ジェンダーの影響を踏まえた移民女性の社会的統合、及び移民第一世代と第二世代の階層的地位の世代間移動の三つの領域における状況を踏まえたものである。また、「緩やかな」とはこれらの領域における社会的統合がいずれも日本人との階層的地位の差を完全に埋める程ではないものの、それを縮める方向にあるということを踏まえた表現である。

 

もちろん、移民の社会的統合を判断する上で検討すべき論点はこの他にもあるし、また緩やかな社会的統合といったときのその「ゆるやかさ」の幅や判断基準といったことについては、より詳細な検討を加えていく必要があることは言うまでもない。また、今後さらに移民受け入れが進んだ場合、このように観察された構造がどのように変化していくかといったことも注視していく必要があるだろう。

 

しかしながら、ナショナルレベルのデータを用いて社会的統合の状況について検証し、それが緩やかなかたちであれ妥当することを明らかにした本書の意義は小さくないと考えられる。

 

なぜなら、我々はこれまで移民受け入れについて語るとき、日本社会の同質性、あるいはそのネガとしての排他性を(無意識に)前提とすることで、移民の社会のメインストリームからの構造的分断ばかりを強調してきたからである。しかしながら、それらの分析の多くはエピソードベースのものが中心であり、ナショナルレベルのデータからマクロに検証された結論ではなかった。今、本書のような分析が行われることで、そういった個々のエピソードから導き出された結論がどの程度妥当するのかを、客観的に検証することが可能になったといえる。

 

もちろん、本書の結論は移民受け入れに関する日本社会の現状を肯定するものではない。分析によって明らかになったのは、むしろこれまで事例研究を中心に行われて来た研究結果の正しさであり、そういった問題が存在しないことを主張するものではない。ただし、同時に明らかになったのはそれがすべてではないということである。全体としてみれば日本における移民は緩やかな社会的統合の過程にあるといえるし、それは個々の問題状況の存在と矛盾するものではない。

 

今後、さらなる移民の流入が進み、彼女/彼らは新たな隣人として位置づけられていくにつれ、このようなきめの細かい議論が必要とされていくだろう。現実はかようにいつもグレーであり、我々社会科学者はそういったあいまいさを丁寧かつ明確に切り分けていくことを期待されているのである。現下の情勢において、移民の社会的統合について、さらなる探求が求められているといえる。

 

 

 

 

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