ひきこもりはロスジェネ世代に多いのか――ロスジェネ仮説を検証する

調査法の解釈

 

内閣府の調査と朝日新聞で取り上げた調査が一致していない理由は、先に述べたように、調査方法の違いから生まれていると考えられる。

 

実際に民生委員調査を検討している民選委員の会議に参加したことがあり、そのときに民選委員さんから偏る理由を直接聞いたことがある。その地域は都会ではなく地方の過疎地域を抱える市町村であり、民生委員による把握も比較的できている地域であった。

 

参加した民生委員の会議では、多くの民生委員は高齢化している。60代後半から70代の民生委員の方が多かったように思う。彼らと、40代のひきこもりの親がだいたい同世代なのだ。ひきこもりの親が同級生であったり、少し年齢が違っていても、地域でのつながりや、兄弟姉妹の同級生であったりと、何かと接点があり、40代のひきこもりは把握がしやすいと民生委員の方からは聞いていた。

 

しかし、その下の世代、つまり、子どもの年齢が30代、20代となると、親の年齢も10歳くらいは違っていて、つながりが少なく、把握できているケースも限られるということだった。

 

民生委員調査で40代のひきこもりが多く発見される理由は、民生委員と40代のひきこもりの親が同世代だからだと考えられる。

 

 

ロスジェネ仮説

 

新聞の落としどころとしては、現在の40代は就職氷河期・ロスジェネを経験していて就労環境に問題があり、ひきこもりの多さにつながっているという可能性を示唆している。明確に書いているわけではないが、社会世相の犠牲者、経済政策の失敗の犠牲者としてひきこもりを描く、というのは社会運動の好きなロジックでもある。

 

しかし、そのロジックが正しいのであれば、40代は他の世代よりも被害を受けているということだから、「割合」として40代のひきこもりが多くなければ支持はできない。よって、ロスジェネ仮説は棄却できる。ロスジェネを団塊世代と限定した場合、彼らは45歳から19歳と、40代後半にあたる。ひきこもり者数のグラフを見てわかるように、全世代を通して、統計学的な差はないものの、どちらかといえばひきこまりが少ない世代である。

 

割合で多いのは20代であり、本稿では示さなかったものの、2010年調査でも同様の傾向が見られる。20代のひきこもりが多いことは、構造的な問題と捉えた方がよいだろう。

 

ひきこもりの世代別の特徴は就職氷河期・ロスジェネといった時代効果(もしくは政治的な失敗)で説明するのではなく、日本社会に根強く構造化された現象だと捉えるのが妥当な捉え方である。

 

 

行政によるひきこもり支援は39歳まで

 

40代が多いという新聞の報道は行政施策の問題も視野に入れたものだと考えられる。あまり知られていないことかもしれないが、現在の行政施策では、基本的にひきこもり支援はおおむね39歳までが対象となっている。

 

ひきこもりの現在の所管官庁は内閣府で、「子ども・若者育成支援推進法」という法律の下、子供・若者育成支援として行われている。都道府県の管轄は青少年問題として位置づけ、青少年課などが担当している。

 

日本政府の若者の定義は39歳以下なので、青少年課が扱えるのも39歳までの問題となる。39歳までのひきこもりであれば青少年課でも問題ないが、40歳以上への支援を考えると、現在の担当部署では問題が生じる。

 

ひきこもりの家族会などもこの点は以前から批判してきた点であり、行政側も課題としてきた点である。そのような状況をうけて内閣府は、2018年に40~65歳までのひきこもり実態調査を実施した。この調査に基づくかたちで、これから行政側も40歳以上のひきこもり支援に手をつけるようになると考えられる。

 

 

行政のひきこもり支援の貧弱さ

 

ただ、行政のひきこもり支援の対象者が40歳以上になったとしても、支援が40歳以上にまで行きわたるわけではない。なぜなら、39歳以下の支援体制をとっている現在でも、支援がまったく足りないからである。

 

ひきこもり地域支援センターなど、国が予算を一部負担する部分はあるが、ひきこもり支援の予算はほとんどないと言ってよい。ひきこもり支援は自治体の裁量に任せるかたちになっている。ほとんどの自治体では支援体制を整えておらず、相談窓口を設置している自治体でも、年400万円程度を支出して非常勤職員を2名雇ったり、民間NPOに支援を委託するという形態が多く、決して支援にかけている予算が多いとはいえない。

 

15~65歳を対象とした調査から100万人程度のひきこもりが日本には存在していることがわかっている。その規模の社会現象に対して、一市町村年400万円程度の予算で、非常勤職員を2名が相談を受けるという支援体制はまったく足りていないと言えよう。行政が40歳以上の者もひきこもりとして支援対象にしたとしても、予算が用意されない限り、ひきこもり支援に大きな動きがあることは望めないだろう。

 

時代の影響で変動せず、構造的に数十万人から百万人規模で存在するひきこもりに対して、支援をする必要があるだろう。別稿でも書いたことだが、ひきこもりはただ一方的に援助の対象となる人たちではない。ひきこもり状態から抜け出せば、その人たちは働き、消費をし、税金を納める。彼らの援助をすることは一時的には出費にはなるだろうが、中長期的にみれば日本を支え、出費以上の利益を社会に還元してくれるはずである。

 

ひきこもり支援の予算を増やしていくには、福祉から投資へと支援を位置づけ直すことも必要になってくるだろう。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.vol.271 

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