復旧を目指しても、水産業は元に戻らない  

東日本大震災によって、三陸地方の基幹産業である水産業が壊滅的な打撃を受けました。「一日も早く漁を再開したい」「船さえあれば魚は捕れる」という漁師の声が連日のようにメディアで取り上げられています。先がみえない状況で、仕事を再開したいという漁業者の気持ちは痛いほどわかります。しかし、筆者にはインフラ整備をすれば、水産業が復興できるとは思いません。その理由は以下の4点です。

 

(1) 被災前の状態に戻すために十分な予算がない。

(2) 被災前の状態に戻しても、日本漁業には未来がない。

(3) 加工・冷蔵が復活しなければ、魚の値段はつかない。

(4) 一度失ったシェアは、前と同じ価格・品質では取り返せない

 

 

被災前の状態に戻すために十分な予算がない

 

日本の沿岸漁業は、これまでも幾度となく、地震やそれにともなう津波の被害を受けてきました。これまでの災害復旧の基本的な考えは以下のようなものです。

 

(1) 漁業組合が被害の調査をして、被害金額を積み上げる。

(2) 政治力を駆使して、公的資金による補償を勝ち取る。

(3) 得られた補償金を、被害金額に応じて、平等に配分する。

 

過去の災害では、このような方法は一定の効果を得ることができました。被害地域が比較的狭く、保障の対象が漁業をはじめとするいくつかの業種にかぎられていたために、十分な費用を得ることができたからです。ところが、今回の災害では、がれきの撤去、道路や住居などの生活インフラの整備に、莫大な費用がかかります。漁業を、元通りに復旧するための十分な予算は得られないでしょう。

 

 

被災前の状態に戻しても、漁業に未来はない

 

三陸にかぎらず、日本の漁業は、何十年も衰退の一途をたどっています。50代60代の漁師が「若衆」と呼ばれている漁村もあり、高齢化も行き着くところまでいってしまったような様相です。被害の中心となった岩手・宮城では、漁業従事者の約半数が60才以上で、後継者はほとんどいません。宮城県の漁業就業者の年齢分布は次の図のようになります。被災前の状況に戻したとしても、その先に明るい未来はありません。

 

 

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水産業の復興には、最低でも5年はかかかりますから、60歳以上の漁業者に投資をしても、長い目でみて、地域活性化にはつながりません。漁業が抱える構造的な問題を明らかにした上で、世代交代を進める必要があります。現在、漁業に従事しているお年寄りのことだけを考えるなら、産業政策ではなく、福祉政策で対応する方が妥当でしょう。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.vol.271 

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