復旧を目指しても、水産業は元に戻らない  

後方設備の重要性

 

水産業は、魚を捕る人だけで成り立っているわけではありません。魚を加工したり、冷蔵したりする人がいて、はじめて魚の値段がつくのです。今回の災害では、被災地の加工場、冷蔵・冷凍施設を含む後方施設が、壊滅的な打撃を受けました。加工流通分野はすでに負債を抱えている上に、設備を失い、自力での再建は困難です。加工流通分野が消滅すれば、魚を水揚げしたところで値段がつかず、産業として成り立ちません。

 

水産加工業の雇用も地域にとって重要です。被災地域では、宮城、福島、茨城ともに、加工業者の方が漁業者よりも多くなっています。この地域の雇用に対しては、漁業よりもむしろ加工業の方が重要なのです。

 

 

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失われたシェアは取り返せない

 

これまで、被災地の水産物を購入していた商社や小売業者は、現在、新しい購入先を必死で探しています。彼らは、足りなくなったものを、世界のどこかから、引っ張ってくるでしょう。

 

こうして被災地の水産物に代わる、新しい購入ルート・購買実績ができてしまうので、仮に、被災地の水産業が元の状態に戻ったとしても、失ったシェアは元には戻りません。時間の経過とともに、新しい取引先との関係は強化されていくので、できるだけ早く、以前よりも競争力のある水産業を育てる必要があるのです。

 

 

ビジョンを欠いた補助金行政

 

水産庁は5月6日に復興プランを発表しました。「漁業は漁船があれば操業可能」「漁港・市場の本格的な復旧に先立ち応急措置が必要」と書かれているように、漁業分野のインフラさえ設備すれば、それでよいという考えです。

http://www.jfa.maff.go.jp/j/yosan/23/pdf/20110506sinnsai_eikyou_taisaku.pdf

 

水産関係補正予算 2153億円の内訳は次のようになっています。

 

1.漁港 308億円

2.漁船保険 940億円

3.海岸・海底清掃 123億円

4.漁船・共同定置  274億円

5.養殖施設  267億円

6.漁協が所有する市場・加工施設 94億円

7.金融支援 223億円

 

漁業組合(魚を獲る人)を手厚く保護する一方で、加工・冷蔵・流通分野には何の補助もありません。きわめてかぎられた復興費用を、魚を獲る人だけに薄く配分しても、地域の水産業は生き残れません。

 

 

インフラを整えても、漁業は発展しない

 

漁業インフラに投資したからといって、水産業が発展するわけではありません。そのことは被災前の日本の状況をみればわかります。日本の水産予算は世界一であり、その大半を漁港などのインフラ整備につかってきました。

 

わたしは、世界のさまざまな漁業をみてきましたが、日本のように立派な漁港が、無数に存在する国はありません。日本は世界一の水産土木大国ですが、肝心の水産業は衰退の一途をたどっていました。高度経済成長期以降は、「水産土木栄えて、水産業滅ぶ」というようなありさまです。今回の震災復興でも、同じ失敗を繰り返そうとしています。

 

被災前には、世界一の漁業インフラがあったにもかかわらず、日本漁業は衰退をしていました。構造的な問題を放置したまま、旧態依然の補助金行政でインフラを再整備しても、被災地の水産業に明るい未来はないのです。

 

では、漁業の復興はどうあるべきなのか。稿を改めて論じてみたいと思います。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

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