2011.05.26

地域水産業を復興するためのアクションプラン  

勝川俊雄

社会 #漁業規制#キャッチシェア制度#地域水産復興評議会

前回のエントリーでは、公的機関によって適切な漁業規制がなされていないために、日本漁業の現状は「持続的に儲かる漁業の方程式」とは正反対の状態にあることを説明しました。

日本漁業の問題点が理解できれば、解決策は自明です。まず、ノルウェーと同じ個別漁獲枠制度を導入し、十分な親を残したうえで、大きな魚を狙って獲れるようにします。その上で、加工によって、付加価値をつけられる体制をつくるのです。

これは言葉にすると、簡単に聞こえるのですが、実際の漁業に適用するためのハードルは高いです。ノルウェーにしても、コンスタントに利益が出るようになるまで、10年近い歳月を要しました。われわれは、短期的に、被災地の漁業をゼロから再建しなくてはなりません。諸外国の成功例を参考にした上で、しっかりとした計画を立てる必要があります。

被災地支援特別キャッチシェア制度(個別漁獲枠制度)の導入

常磐・三陸沖の乱獲の主役は、日本各地から集まってくる大型の巻き網船団です。大型巻き網船は、津波がくる前に、船を沖に出して難を逃れたので、被害は軽微でした。一方、三陸の沿岸漁業の小型船は、根こそぎ津波で失われてしまいました。これまで通りの無規制な早い者勝ちで魚を奪い合えば、被災地漁業に勝ち目はありません。かぎりある海の幸を、被災地漁民と、非被災地漁民で、平等に分け合う必要があります。

ノルウェーなどの成功している漁業国を手本に、日本も個別漁獲枠制度を導入すべきです。現在の資源量に見合った水準まで漁獲枠を減らした上で、沖合の大型船は船ごとに、沿岸漁業は漁港ごとに実績に応じて漁獲枠を配分します。そうすれば、大型の魚がコンスタントに水揚げできるようになり、漁業の利益は跳ね上がります。

重点漁港の選定

日本の沿岸には、バス停毎にコンクリートの大きな港があります。漁業者はピークの100万人から現在は20万人を割り込み、その半分以上が60歳以上です。漁業者が減少したにもかかわらず、漁港の数は維持されてきました。

現在では、ほとんど利用されていない漁港も多く存在します。バブル期の潤沢な予算を使うために、不必要なまでに大きな漁港をつくったのです。あり余る原資を消化するために、漁港の整備を行ってきたという背景があります。現在の国家財政で、ゼロからすべての漁港を元に戻すのは、非現実的です。地域水産業の存続を考えると、魚に付加価値のつけられる(=後方の加工冷蔵設備のある)拠点漁港に重点的に投資をすべきです。

山のようにあるバス停漁港のすべてをなくすわけにはいきません。集約化をした上で、残す港は残す必要があります。その際にも、バブル期のように無用なまでに大きな箱物にするのではなく、最小限の施設を目指すべきです。

地域水産復興評議会の設立

今回の災害は、被害が大規模かつ深刻なので、民間が独力で復興をするのは、困難です。地方自治体の取り組みでも、限界があります。国がイニシアチブを発揮しなくてはなりません。一方で、水産業は、地域によって特色や強みが異なります。国のトップダウンでは、地方のニーズに応じた、細やかな計画をつくることは不可能です。地域の特色を生かした細かいプランニングは、地方の当事者にしかできません。

国と地方の役割分担を明確にした上で、それぞれが緊密な連携を取り、復興に当たる必要があります。まず、その地域に根ざした復興の主体をつくる必要があります。地元の水産関係者(漁業者、加工業者、冷蔵業者、小売業者、行政)が集まって、復興計画を議論する場が必要です。

地域評議会は、具体的な再建プランの作成、タイムテーブルの作成、および、その実行について責任をもちます。一方、国は、地域水産復興評議会の招集、復興プランの確認、財源の支援を行います。国は、評議会での議論の内容の確認し、PDCAサイクルの導入、経営アドバイスなど、必要に応じておこないます。国と地域の役割分担を明確にした上で、緊密な連携をとれる体制作りが必要です。

地域水産業復興特別公社(5年間の時限対応)

 

地域の特色を活かした復興を地元も評議会が主導で計画し、それを国がバックアップするという青写真が描けました。しかし、本格的な復興を目指すとなると、最初に2年ぐらいは、利益を出すのは難しいでしょう。水産業の復興に専念してもらうには、生活の安定が欠かせません。被災地からも、国有化などを望む声もあるようです。

その一方で、安易な国有化を危惧する声も存在します。とくに永続的な公的組織をつくると、利権の巣窟になりかねません。公的機関が関わると、小回りがきかなくなり、日本屈指の競争力を持っていた、三陸の加工業の強みが損なわれる可能性があります。こういった弊害を避けるためにも、公社は5年程度の時限措置とするのがよいでしょう。赤字だろうと黒字だろうと、5年後には公社は解散し、元の状態(漁業は組合、加工は私企業)に戻すのがよいと思います。

漁業の再建には、あまり時間をかけるわけにはいきません。予算をだらだらと逐次投入するよりも、短期集中的に投資をしたほうが効率的です。とはいっても、加工業は、本格的な再稼働には、最低でも数年はかかります。「東北地方の漁業を地域の基幹産業として復興・再生し、5年後の自立を目指す」というぐらいの目的が妥当だと思います。

地域公社は、水産業の垂直統合を漁業部門、加工部門、流通部門がそれぞれ独立の公社をつくるのではなく、漁獲から販売までを統合すべきです。これまでのように、漁業者、加工業者、流通業者が、ばらばらに行動をするのではなく、漁獲、生産、販売を一本化して、全体の最適化を目指します。加工流通と経営を統合することで、「獲ってなんぼの漁業」から、「売ってなんぼの漁業」へと、意識改革を行うことで、競争力をつけます。

漁業の未来を担う人材の育成

水産公社の使命は、これからの地域の基幹産業としての水産業の骨組みをつくることです。そのための人材育成が重要な課題です。ベテラン漁業者が培ってきた技術を継承しながら、5年後、10年後の漁業の担い手を育成しなくてはなりません。ベテラン漁業者を技術指導員として雇用し、地域の未来を支える若手漁業者に技術の継承を行うのもひとつのアイデアです。

水産業の復興で重要なことは、地元の雇用を確保することです。これまで水産業に従事していた人たちの雇用の受け皿が必要です。中長期的に地域経済を支えていけるような事業にこそ、公的資金を投資すべきです。50歳以下の地元の水産業者が、安定した生活を今後も送れるような産業政策がもとめられているのです。

改革か、消滅か。今が水産業の分かれ道

明確なビジョンにもとづき、構造改革を進めていけば、日本の漁業は確実に利益を生む産業になります。逆に、構造的な問題をうやむやにしたまま、その場しのぎをしているかぎり、漁業の衰退は続きます。残念ながら、水産業の復興は、後者の路を歩みつつあります。

日本の水産業は構造的な問題を抱えて、長期衰退傾向でした。何も考えずに、元通りに戻しても、その先に明るい未来はありません。これまで、水産関係者は「いまのままで良いとは思わない」と口を揃える一方で、既得権にしがみつき、変化の芽をつぶしてきました。

問題意識はあっても、明日の生活がかかっている状況で、抜本的な改革は困難だというのは、わたしにもわかります。1000年に一度ともいわれる大災害で、産業の基盤が失われてしまいました。このタイミングで軌道修正ができないなら、いったい、いつ改革を行うつもりなのでしょうか。

日本は恵まれた海の幸を自国のEEZにもっています。また、世界一ともいえる魚食文化があり、国内市場の規模も世界屈指です。ノルウェー漁業のように、持続的に利益を出している他国の事例から謙虚に学び、自国の漁業を改革していけば、日本の水産業は世界の頂点に返り咲くだけのポテンシャルを持っています。

被災地漁業の抜本的改革を進めることは、日本漁業全体の方向性を示すことにも繋がります。未来志向で、上向き、前向きに、被災地漁業を復興し、日本漁業が浮上するきっかけにしなくてはなりません。

プロフィール

勝川俊雄

1972 年、東京生まれ。三重大学生物資源学部准教授。東京大学海洋研究所助教を経て、2009年より現職。専門は、水産資源管理、水産資源解析。日本漁業の改革のために、業界紙、インターネットなどで、積極的な言論活動を行っている。

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