動き始めた「生活支援戦略」をひも解く

「ワンストップ」は天使か悪魔か

 

また、ここで謳われている「総合相談支援事業」は生活支援戦略において根幹をなす事業である。地方自治体と民間の協働でワンストップの総合相談窓口をつくり、生活困窮者の最初の相談先としてアセスメント(その方の状況の整理と問題点の把握)と、適切な支援機関へのつなぎ(他の各事業へのつなぎ)、継続してのフォローアップを行うことが狙いだ。

 

もちろん、ワンストップ型(窓口をたらい回しされることなく、ひとつの窓口でさまざまな支援を受けられること)の相談窓口は必要だ。また、そこを経由して一人ひとりへの「よりそい・伴走型(支援する人・される人が二人三脚で一緒に考えながら進んでいくこと)」の支援を行うことができるのはとても大きな利点だろう。

 

しかし、ひとつの窓口に「集約する」ということは、支援の効率化や実効性を向上させるものの、そこで上手くいかなかったときに「次の相談先がなくなる」というリスクがある。実際に現在、全国各地の「福祉事務所」が担っている役割は、実質上の「ワンストップ窓口」に近い。しかしここでは「水際作戦(本来必要な支援を受けられる人を違法に窓口で追い返すこと)」と呼ばれる制度利用への違法な「受給抑制」の手法が取られるなど、必ずしも万全の「ワンストップ窓口」として機能しているとは言い難い。

 

そういった既存の問題がレビューされることなく、「民間と協働」で総合相談窓口を設置するということは「臭いものにふたをする」的な発想だ。それこそ新たな担い手としての民間からの「風」を有効活用できないばかりか、既存の枠組みの代替を担わせることにしかならない恐れもある。

 

そして体制に関しては、「委託」というかたちにおいてこれまでも「新しい公共」の問題点として如実に出ていた課題である「権限の範囲」の問題や「情報管理」の方法、担い手である民間団体の人件費や待遇等の格差などを忘れてはならない。実際に特別部会の議論の中でも、既存の福祉事務所における専門職の増員などをまず行うべきとの意見も多かった。その辺りの既存の枠組みとの役割の整理や連携方法についても丁寧な設計が必要だろう。

 

また、相談に関しても「ワンストップ窓口」という重責はとても大きい。この窓口での相談員は「水先案内人」である。相談に来られる方の最初の窓口として、その方がどういった方法を取ることによって力を取り戻していくのか、適切な案内をして一緒に歩んでいくことが求められる。すなわち、ここでの「働ける/働けない」の判断や、その人に必要だとみなされた支援方法の指針によって、その後のその方の支援の方向性がある程度決定されてしまうという事でもある。

 

本来、その人に必要な支援を考えるときには、上からアセスメント(本人の状況の整理や問題点の把握)を行うのではなく、本人の希望を踏まえて一緒に方法を考えていくことが望ましい。そして、それを行うためには相談に来られた方と相談員の「対等性」が担保されていなければならない。「水先案内人」が「天使」になるか「悪魔」になるか。また、専門的な「伴走者」になるかは大きな違いがある。

 

実際に平成25年度の予算に「生活困窮者に対する新たな支援体制の構築」が新規事業(モデル事業)として30億円計上されている。

http://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/13syokanyosan/dl/shuyou-03-04.pdf(2ページ目)

 

どういった体制で、かつ、どのような人たちがどのような方法でそれを担っていくのか目が離せない。

 

 

「虚像」にしないために

 

ここまで駆け足であるが、「生活支援戦略」の、まだ検討段階の各案について一部をフォーカスして簡単に見てきた。ここでは触れていないが、中間的就労など議論を呼ぶであろう論点はまだたくさんある。

 

全体として言えるのは、利点もあるが、問題点(心配な点)も多いということだ。すべての案に諸手をあげて賛成することはできないが、画期的で斬新なアイデアや、これまで必要とされていながら実現されてこなかった案など、さまざまな施策がパッケージ化されようとしている。呉越同舟という印象も受ける。

 

もちろん、実際にどのようなかたちで具体化させていくかは、これからさまざまな方法でモデル事業等にて試行錯誤され、構築されていくことであろう。それについては正直、まだ何も始まっていない今の段階では、何とも考察し難い部分も多い。しかし、この新しい「生活支援戦略」が「虚像」に終わってしまわないように、より実効的で利用者・当事者目線の施策にすることができるように、これからの7年間は一つひとつの事業を丁寧にレビューしていかなければならない。

 

 

一人ひとりを支えるために

 

国が生活困窮者支援を構築していくことは評価されるべきだし、恒久法化し制度化していくことは必要なことだ。しかし、再三触れてきたように、その中身については画一的なものではなく、一人ひとりにあった支援の在り方を包摂した柔軟なものでなければならない。新しい枠組みを作るというのは、とても難しいことだ。「横断的な」「包括的な」「総合的な」などの言葉は、用いるのは簡単だが実際に体系化していくことは大変だ。

 

もしかしたら、現在行われている取り組みは、さまざまな支援の在り方を全国的に「フォーマット化」し、ベースアップしていく動きなのかもしれない。さまざまな支援の在り方や視点、ノウハウが全国的に共有されれば、必要な人へ必要な支援をより届けやすくなる仕組みを作っていくことができるかもしれない。しかもそれを「官民の協働」で行うとすれば、それは革命的なことだ。

 

とはいえ本来、一人ひとりの「いのち」を支えていくということは、それだけでとても途方もないことで、正解もマニュアルもない暗中模索を繰り返していくことしかできない。「フォーマット化」していくということは、一人ひとりへの視点が弱くなってしまったり、対象から外れていく、零れてしまう存在を看過してしまうことにつながる恐れもある。

 

今こそ、制度の谷間を新たに産んでしまうことがないように、対象から外れる、包摂されない人が生まれないように、丁寧にかつ慎重に、現場の声、当事者の話を聞いて、今後の支援体系の創設をおこなっていくべきではないだろうか。これからの7年間で取り組まなければならないことは、あまりにも多い。今後も「生活支援戦略」の動向について注目していきたい。

 

 

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vol.2019.4.15 

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