入会なんて聞いてない ―― 父親たちの語るPTA

【シノドスに参加しよう!】

▶メールマガジン「αシノドス」

 https://synodos.jp/a-synodos

▶セミナー「シノドス・サークル」

 https://synodos.jp/article/20937

▶ファンクラブ「シノドス・ソーシャル」

 https://camp-fire.jp/projects/view/14015

恐怖の役員決め

 

木村 入ったらいよいよ役員決めが行われると。それもかなり大変なようです。私の美容師さんから聞いた話なのですが、入学式の時に入り口を閉められて、役員が決まるまでここから出さないと言われてしまったということです。

 

川端 よくある話ですよね。役員決めというのはすごく過酷な作業なんです。

 

そもそも「役員決め」って外からみると本当に分かりにくいんですよ。年度のはじめに決めるのは、広報委員や学級委員や、もっと負担の軽い運動会係といった当日だけ働けばいいものです。

 

でも、それだけでは動けないので、ちゃんと執行部が必要なんですよ。いわゆる「本部役員」ですね。会長、副会長、書記、会計をさすことが多いです。

 

会の執行部を選ぶために「役員選出委員」というのがあり、年間を通して、どうやったら平等に選べるのかという議論からはじめて、できるだけ不満がでない方法を考える。そして、早くて2学期、遅くても3学期には、次年度の新執行部を選出するんです。ですから、4月の役員決めと、本部役員決めというのは別のルーティーンなんです。

 

どちらかというと、本部役員決めのほうがより過酷です。悪い意味ですごく民主的なんですよ。例えば、「互選会」というのをやって、「あなたがふさわしい」とか言い合うわけです。コンクラーベってやつですよね(笑)。まず、クラスから互選会に行く人を選ぶという会がまずあって、その段階からバトルが始まります。

 

木村 (笑)。

 

川端 そして、そこで勝ち残った人が、バチカンにいけるわけです(笑)。そこでは、各クラスから選ばれた人たちが集まって、「あなたがやるなら、私もやるわ」と平和に決まることもあれば、最後までギスギスしてしまう場合があります。

 

クラスから選ぶ段階で5、6時間に及ぶ場合もあるんです。みんななにも語らない。ぼくはそれを「無言地獄」と名づけています(笑)。あるいは、不必要な自己開示が行われる場合もあります。介護がどうしたとか、私は心の病ですとか。わざわざ診断書を自主的にもってくる人もいますし、「もってこい」と言われた人もいます。その空気に耐えられず役員を引き受けてしまう人もいるほどです。

 

会議が終わった瞬間廊下にへたり込む人や泣き出す人、やっと帰れると自転車に乗った瞬間にこけちゃう人とか、ぼくは目の前で見てきました。

 

木村 すごい疲労ということですね。

 

川端 緊張の糸がプツリと切れちゃうんでしょうね。しかも、いざ本部役員となったらすごく大変です。本にも書きましたが、ぼくが副会長になった時は、年間400時間PTA活動に費やすことになりました。これ、学校に行ったり他の場所で行われる会議に出たり、純粋に外での拘束時間です。

 

木村 400時間はかなりの負担ですよね。

 

川端 ぼくが極端に多いわけではありません。ぼくいままで取材や講演を通じて、200以上のPTAの方たちと会ってきましたが、「年間400時間拘束された」という話をしても、「そんなに多いの?」とびっくりした人は少なかったですね。

 

 

PTAってなんだろう

 

木村 過酷な役員決めがあり、役員になってしまったら多くの時間拘束されてしまうこともわかりました。そもそも、PTAってなにをしている団体なのでしょうか。

 

川端 PTAって戦後レジームの最たるものだとおもうんです。日本の親や教師が民主化されていないからとGHQがもってきたものです。

 

もともとの趣旨としては、先生と教員と保護者が協力し学びあうことで、教育に還元するというものです。ですので、親と教師が学びあう場、というのが、教科書的な回答です。

 

ですが、実際には時々思い出さないと普段は忘れているような理念になっています。現在は「保護者代表団体」になっているといっていいのかもしれません。行政が保護者に対してアクションを起こしたい時に、受け皿になるのがPTAなんです。

 

例えば、教育委員会が意見を求める、警察や消防が訓練や勉強会を行う時に参加をお願いする、自治体から家庭教育に対する学習会を請け負ってもらうなど、保護者の窓口としてPTAは機能しています。これが外からみたPTAの姿です。

 

木村 さらに、学校内業務もあると。

 

川端 そうですね。PTAの関心は時代ごとに変遷しています。戦後間もないころには子ども達の衛生や栄養の問題がすごく大事だったんです。PTAが働きかけ、学校給食が開始された地域も多いそうです。「PTAなくして、学校給食なし」ともいわれていたそうですよ。

 

でも、社会が豊かになってくると、学校給食はほとんどの地域で実現して、しっかり確立しました。そこで目が向けられたのが「環境浄化」というジャンルです。

 

木村 「環境浄化」ですか、すごい名前ですね(笑)。

 

川端 例えば、エロ本自販機があればそれを撤去したいとか、競艇場や競輪場ができるのを阻止したいとか。とにかく教育環境をよくしたい、と。その系譜が、日P(日本PTA全国協議会)が続けていた「子どもに見せたくない番組・見せたい番組」です。「見せたくない番組」に「クレヨンしんちゃん」などの番組が挙がり、話題になりました。今年はなくなったんですが、去年まで文部科学省からの委託事業として行っていました。

 

そして、2000年代になってまず池田小の事件、さらに小学生の連続連れ去り事件が起きたり、学内外の不安が出てきました。そこからパトロールに取り組むPTAが増え、結果、不審者情報が多くなる逆説的な現象も起きました。不安が不信を呼び、それによって怪しげな人が逐一報告されてさらに不安が増幅されるループですね。近くの養護学校のPTAが「うちの子達は一見不審な行動をするかもしれませんが、みなさんのお子さんと同じく、守られるべき存在です」とアピール文を出さなきゃいけないくらいの盛り上がりをみせました。

 

そして、2011年以降からは防災についての意識が非常に高まったと。いざ、地震や津波が来た時に、PTAになにができるのか。その時々の関心によって変わってきます。

 

木村 日Pというのはどういう団体なんですか。

 

川端 連合組織の頂点、ですね。本家アメリカのPTAとはまったく性質が違うので要注意です。アメリカのPTAはまず全国組織があって、賛同する人たちが全国組織に加入します。ある学校ではPTAに入っている保護者が多い場合もあれば、ある学校ではほとんどいないということもあります。そういうところでも、Parentと、Teacherの関係はあるので、そういう会は「PTO」と呼ばれたりします。OはOrganizationの略です。PTAはある特定の団体名なので、そう名乗れないんですね。

 

で、日本のPTAは、むしろ「PTO」的に、個々の学校で組織される「単位PTA」が基本なんですね。それぞれが自立して独立した団体です。そういった個々のPTAが集まり、区や市と交渉しようとなってできたのが市区町村の「PTA連合会」ですとか「PTA協議会」。さらに、都道府県単位のPTA連合会ができて、全国組織もつくろうということになって「日本PTA全国協議会」、通称「日P」ができました。日本のPTA会員は、まず自分の子の学校のPTAに属するわけですが、そうすると、そのまま自動的に日Pまでのヒエラルキーに取り込まれることになるわけです。

 

木村 アメリカの場合は、個人の意思で参加しているということですね。日本の場合には「単位PTA」という集まりで作っているんですか。

 

川端 一保護者が属するのは、まずは「単位PTA」ですね。個々の学校で結成されたPTAという意味です。でも、連合組織の会員がだれなのかは、結構、曖昧です。世田谷区の「小学校PTA連絡協議会」は世田谷区の小学校PTAに参加している会員をそのまま会員として扱っています。どこかのPTAに入ったら、必然的に区のPTAにも入ると。世帯会員という考えで世帯ごとに80円の会費が、単位PTAに払った会費から納められます。

 

 

1 2 3
シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

・畠山勝太「こうすれば日本の教育はよくなる」
・穂鷹知美「マスメディアの将来――マスメディアを擁護するヨーロッパの三つの動きから考える」
・大賀祐樹「リチャード・ローティ」
・西山隆行「学び直しの5冊〈アメリカ〉」
・知念渉「「ヤンチャな子ら」とエスノグラフィー」
・桜井啓太「「子育て罰」を受ける国、日本のひとり親と貧困」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(8)――「シンクタンク2005年・日本」第一安倍政権成立」