「当てずっぽうな議論」を疑う作法を――『夜の経済学』おわりに

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本書は、変わった本だ。ちょっと話したくなる小ネタ集のようでもあり、経済学の思考法を学んでいく指南書のようでもある。現代風俗の記録書でもあり、社会について考える力を鍛えていくドリルのようなものでもある。

 

評論家と経済学者のコンビである僕たちは、普段はそれぞれ別のスタンスで論評活動を続けてきた。けれど、年齢も専門も異なる二人ではあるが、取材や調査に基づいた「より確からしい情報」をもとに、議論を積み重ねていくことの重要さを説いてきたという点で共通している。そしてもちろん、「マジメなことばかり考えていても窮屈だよね」という「思想」も一致している。恋愛観とか思想の左右とかはそれほど一致はしていないけれど、ノリと目的さえ合えば、だいたいなんとかなるものだ。

 

調査企画は、荻上が思いついたり、飯田が思いついたり、二人で会話をしているなかで浮かんだりとまちまち。でも、どの調査も、二人が相談をしながら行ったもの。自分でいうのもなんだけれど、ふたりとも好奇心旺盛なアイデアマンであることから、「こんなのどう?」「やろうやろう !」というやりとりが何度となく交わされ、多くのユニークな調査が行われてきた。

 

例えば個人売春=ワリキリ調査。あるとき荻上が調査企画を思いつき提案。飯田が「統計学的に意味のある質問項目やサンプル数」を提示。荻上が手当たり次第に全国取材を行いアンケートを回収。そしてそれを飯田が統計分析。結果をみてあれこれ議論を交わし、原稿を二人で執筆。役割分担と共同作業で、一人だけでは深められない領域まで議論をすることができた。

 

幸福度調査や吉原調査を飯田が提案したり、災害流言調査や寛容度調査を荻上が提案したりと、相互に関心の幅を拡げあってきた。そして互いに資料や仮説を持ち寄り、考察を深めてきた。一冊に書くほどではないけれど面白い発見もしてきたので、それらはコラムという形で記すことにした。アダルトメディアの制作秘話など、本書にしか掲載されていないルポも多い。なんとお得な! もちろん、もっとあれこれ読みたくなったという方がいれば、荻上&飯田の本をさらに読み漁っていただければ幸いだ。

 

ここしばらく、経済学あるいは統計学ブームのようなものが続いてきた。コンピュータの発達によって計算が楽になったということもあるし、調査やデータ収集が容易になったというのもあるだろう。いろんな理由がブームを支えていると思うけれど、「当てずっぽうな議論」を疑う作法こそが重要なのだという意識が、もっと定着してくれればいいなと思っている。

 

もちろん、ダメな議論を仕分けして、確からしい情報にたどり着くための方法は、経済学や統計学だけではない。むしろ経済学などは便利な道具であるからこそ、他の学問や調査方法とセットになってこそ、より一層の効力を発揮する。政治や差別といったテーマもそうだし、歴史や教育といったテーマだってそうだ。

 

そうしたテーマのなかには、いまだに集められたことのないデータもたくさんあるし、経済学的に考えようという発想が軽視されてきた分野だってある。だからこそ、今までになかったデータを集めたり、既にあるデータを今までとは異なる計算で考えたりすることが重要になる。

 

読めばわかっていただけたと思うけれど、本書ではたっぷりとオリジナルデータが提示されているが、あえて、結論だけを提示するスタイルはとらず、思考の過程を残すことを重視した。調査や議論の弱さもそのまま載せ、「ああでもないこうでもない」とうんうん唸る姿を見てもらった。世の中、簡単に答えが出せる問題なんてほとんどない。データの解釈だって一つだけじゃない。だいたいは、うんうん唸って、それでようやく「よりマシな結論」にたどり着くものだ。

 

本書はいつでも、「さらにマシな結論」に塗り替えられることを待ち望んでいる。だからこそ、思考の経緯を記すことで、「失敗学」としても読めるようにしたかった。もちろん、本書執筆中も、二人は新しい調査を進めている。今まで通り、売春調査も継続していくけれど、もっと特殊で誰もやりたがらなかったような調査も行っている。いずれまた、二人の調査を発表する機会が得られたらとてもうれしい。おそらくその時は、さらにパワーアップした姿を見せられることと思う。楽しみにしていてほしい。続編もよろしく。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.268 

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