「いつもの自分とは違う」と感じたら――若年性認知症の実態と支援

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本人と家族の交流会モデル事業

 

これは平成20年度から始めたことであるが、当時、若年性認知症はまだ十分に認識されておらず、本人にとっては社会的な居場所が不足しており、家族にとっては同じ悩みを持つ人と交流する機会がなく、孤立感を抱きやすい状況であった。そこで、本人の居場所作り、家族の交流の場を作ることが目的となった。

 

認知症の人と家族の会愛知県支部の協力を得て呼びかけたところ、若年性認知症の人13人とその家族が参加し、作業療法士、ソーシャルワーカー、介護福祉士、臨床心理士、医師などの専門職をはじめ多職種のスタッフが集まった。

 

内容は、本人には、カラオケや公園の散歩、お抹茶体験、クラフト作りなどから好きなものを選んでもらい、家族は家族同士で交流した。

 

参加者の人数を制限しなかったので、子供や孫までのさまざまな世代が集まり、賑やかな会になるとともに、子供世代同士の交流ができるなど、広がりをもつようになった。4回のモデル事業を終えた時点で、参加者が継続を希望し、「元気かい!」と名付けて現在も月1回活動中である。

 

 

精神障害者授産施設(現:就労継続支援B型事業所)での福祉的就労モデル事業

 

若年性認知症に対する支援の中で、認知症高齢者との大きな違いの1つは就労に関することである。現在の職場に継続して勤務できるのが理想であるが、現実には困難な場合が多く、退職した後に再び働きたい場合の行き先として就労継続支援事業(障害者授産施設)が挙げられる。

 

若年性認知症の人の就労に関して、大府センターで行った地域包括支援センターの調査では、相談のあった事例への対応で最も多かったのは、就労継続支援事業(障害者授産施設)への就労であった。大府センターでは、国立長寿医療研究センター(認知症疾患医療センター)のソーシャルワーカーと連携して、若年性認知症の人の福祉的就労を支援した。

 

施設における精神障害者と若年性認知症の人を比較すると、共通点としては、後天性疾患であり、病気の受容や認識が困難であること、現時点の自分に自信が持てないことなどがあり、相違点としては精神障害者には自立を促すために意図的に責任を課すようにするのに対し、若年性認知症の人の場合は認知機能低下によることに対しては責任を課すことができない点が挙げられる。

 

したがって、現時点の自分を受容し、自信を回復するような共通の支援に加え、若年性認知症の人に対しては、繰り返し声をかけて確認することや、出勤簿の記入などできないことは職員がサポートするなどの柔軟な個別対応が必要となる。

 

このため、施設では家族や医療機関との連絡を密にし、連絡事項は本人だけでなく、家族にも伝えたり、覚えることが必要な作業はさせないなどの配慮をした。

 

最初の1人が成功例となり、計4人の男性(いずれもアルツハイマー病)が、福祉的就労を体験した。

 

 

若年性認知症デイケアモデル事業

 

愛知県の若年性認知症実態調査の結果、介護保険サービスを利用している人が最も多く利用しているのはデイケア・デイサービスであった。しかし、本人や家族からは、高齢者ばかりで行きたがらないとか、プログラム内容が不満という声があり、職員からは、若年性認知症に対する対応法がわからないという声があった。

 

若年性認知症向けのデイケアプログラムの特徴として、

 

1)身体機能が保たれているので、簡単なプログラムでは満足できない

2)職歴により、好ましい作業と好ましくない作業がある(特に男性の場合)

3)認知症の特性として新しいルールを覚えるのは困難である

4)実行機能が低下しているので、手続きが少ない作業が望ましい

5)短時間であっても、作品が完成するなど達成感が得られる作業が望ましい

 

などがあげられる。

 

大府センターでは、男性4人、女性4人の若年性認知症の人とともに3年間、デイケアモデル事業を行い、その結果をまとめた「若年性認知症デイケア実践的プログラムの紹介:ほのぼのデイケア」を作成した。

 

このようにして大府センターを中心に、若年性認知症の人やその家族を支援する地域のネットワークが自然に出来上がっていった。大府市やその周辺には、医療、福祉・介護関連の施設や機関が多く、若年性認知症の支援に熱意のある人や実際にかかわっている人が集まっていたということも幸いした。

 

次は、若年性認知症支援に関する全国的な規模の事業を2つ紹介する。

 

 

若年性認知症コールセンター

 

すでに述べたように、厚生労働省では、平成20年7月、「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」をまとめ、認知症対策の5つの柱を掲げ、若年性認知症対策もその1つに挙げられた。

 

その短期的対策の1つが、全国で1か所の若年性認知症相談窓口(若年性認知症コールセンター)の設置であり、平成21年10月1日に大府センターに開設された。若年性認知症コールセンターの目的は、

 

1)誰でも気軽に相談できる

2)早期に認知症疾患医療センターや地域包括支援センター、障害者就労支援機関等へのつなぎ役になる

3)定期的な情報提供

4)利用促進のための普及・啓発、である。

 

相談員は、看護師、准看護師、中学・高校教員、介護支援専門員、認知症介護指導者などで専門的な研修を受けた10名からなり、3~4名が交替で相談に対応している。開設後も、随時、研修や現場見学を行い、若年性認知症に関する知識や情報収集に努めている。

 

若年性認知症電話相談の特徴として、1)男性からの相談の割合が多い(28.4%~39.1%)(平成22~24年若年性認知症コールセンター報告書より:以下同様)、2)本人からの相談も多い(26.8%~40.0%)、3)傾聴するだけでなく、情報提供や経済的な問題に関する相談が多い、4)介護対象者も男性が多い(52.6%~61.0%) ことが挙げられる。

 

 

若年性認知症ハンドブック

 

厚生労働省認知症対策検討プロジェクトチームによる「今後の認知症施策の方向性について」に基づいたオレンジプランでは、若年性認知症施策の強化が大きな柱の1つに挙げられた。

 

若年性認知症ハンドブックは、病気の発症初期の段階から、本人や家族がその状態に応じた適切なサービスを利用できるようにするために作成したものであり、医療機関や自治体窓口など若年性認知症の人や家族が訪れやすい場所で配布することを目的とした。

 

内容は、診断直後の相談窓口、雇用継続のための制度、退職に関連する制度やサービス、若年性認知症の医学的理解、本人・家族の心理状態、日常生活における工夫、医療機関の選び方、車の運転、介護保険制度、成年後見制度、相談窓口、サービス等の申請先など、具体的でわかりやすい記述になっている。

 

 

若年性認知症支援ガイドブック

 

ハンドブックを配布した機関で、若年性認知症の相談業務を行っている担当者等が、本人や家族から相談を受けて対応したり、支援をしたりする際に、ハンドブックの内容に基づいて、きめ細かく対応することが重要である。

 

そのために、平成25年度には、ハンドブックに盛り込んだ内容をさらに詳細に解説した、担当職員向けの「若年性認知症支援ガイドブック」を作成した。これにより、ガイドブックを活用して、若年性認知症の相談に対応する職員等に対する研修を行うことが可能となった。

 

これらの冊子をはじめ、若年性認知症への理解を深め、本人や家族、支援者のために作成したパンフレットは、若年性認知症コールセンターのホームページ (http://y-ninchisyotel.net/) で閲覧、ダウンロードが可能である。

 

 

おわりに

 

65歳未満で発症する若年性認知症に関しては、医療・介護分野のみならず、一般市民からも少しずつ認識されてきつつある。しかし、実際に診断された本人や家族にとっては初めての経験であり、戸惑いや将来に対する大きな不安がある。

 

若年性認知症の人は、適切な環境で生活することで安定した状態を維持でき、家族の不安や負担も軽減される。そのためには、医療機関、介護保険制度だけでなく、雇用、障害者福祉などのさまざまな既存の制度の活用とそれらの間の密な連携が必要である。

 

特に診断直後の支援は重要であり、必要な情報の提供と適切な助言、本人や家族の不安の軽減、今後の生活の方向性を示し、それにより、本人と家族の生活を再構築することが求められる。

 

 

【参考文献】

・朝田隆:総括研究報告.厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究)「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究」平成18年度~平成20年度総合研究報告書.2009; 1-21.

・小長谷陽子, 渡邉智之, 小長谷正明.若年認知症の発症年齢、原因疾患および有病率の検討 ―愛知県における調査から― 臨床神経 2009;49(6):335- 41.

・小長谷陽子, 渡邉智之, 小長谷正明.若年認知症の行動と心理症状(BPSD)の検討 ―愛知県における調査から― 神経内科 2009; 71 (3): 313-9.

・小長谷陽子、柳 務.企業(事業所)における若年認知症の実態 ―愛知県医師会認定産業医へのアンケート調査から― 日本医事新報 4456: 56-60, 2009

・小長谷陽子編著.本人・家族のための若年性認知症サポートブック.中央法規出版、2010

・小長谷陽子、渡邉智之.愛知県における若年認知症の就業、日常生活動作および介護保険利用状況.厚生の指標 57(5): 29-35, 2010

・小長谷陽子、高見雅代、朝熊清花.若年性認知症に対する就労支援の実際.日本医事新報 4494: 60-64,2010
・小長谷陽子、田中千枝子.障害者福祉施設における若年性認知症の受け入れに関する調査研究.厚生の指標 61(1); 9-16, 2014
・小長谷陽子、鈴木亮子.若年性認知症電話相談の実態 ―若年性認知症コールセンター2年間の相談解析から― 厚生の指標 61(12); 36-42, 2014

 

 

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