「自殺」を「生き抜く」。

進行性筋ジストロフィーをかかえる詩人の岩崎航さんと、お母さんがダイナマイト心中した末井昭さんが、仙台の書店で語り合いました。死のうと思った時に湧き上がってきたもの。表現すること。生きる手応え、祈りとは何か。2冊のロングセラー、『点滴ポール 生き抜くという旗印』(ナナロク社)と『自殺』(朝日出版社)をめぐる対話をお届けします。あゆみブックス仙台一番町店にて開催「笑って脱力して、きっと死ぬのがバカらしくなります。末井昭さんと岩崎航さんの「自殺」の話」より載録。(司会・構成/ナナロク社 村井光男、朝日出版社 鈴木久仁子)

 

 

少年のような目に釘づけに

 

司会 おふたりは、初対面でしょうか。

 

末井 ワタリウムで開催された齋藤陽道さんの写真展「宝箱」のオープニングのとき、齋藤さんがスカイプで岩崎さんとつないでくれて、パソコンを通してお話ししたのが最初です。お話といっても、周りにお客さんもいっぱいいたし、いきなりだったのであわてて「あっどうも」みたいな感じで、せっかくつないでくれたのに一瞬で終わってしまって。その節は失礼しました。

 

岩崎 私も初対面の人がちょっと苦手という性格でもあり、せっかくなのに言葉がうまく出てこなくて、失礼ながらあまりご挨拶もできなかった記憶があるんですけど。

 

末井 ぼくは『自殺』という本を2013年の11月に出しました。ブログで2年近く連載したものをまとめた本ですが、それを書き直すという作業をその年の6月ごろからやっていて、『点滴ポール 生き抜くという旗印』に出会ったのはその作業をやっていたころです。担当編集者の方が、参考になればということで送ってくれたんです。

 

 

岩崎航写真1

 

 

その本を見たとき、まず人工呼吸器をつけてベッドで横になっている岩崎さんの写真が目を引きました。人工呼吸器が顔を覆っているので、やはりちょっとギョッとしましたね。しかし、その視線が少年のような澄んだ目で、その視線にしばらく釘づけになりました。その写真を撮ったのが齋藤陽道さんで、本のなかにも何点か写真が入っていて、その写真をまず全部見て、それから文章を読んでいきました。

 

岩崎さんが書かれている詩の形式は、五行詩といっていいんでしょうか?

 

岩崎 五行で書く短い詩型で、五行歌といいます。

 

末井 その形式をはじめて知ったんですが、岩崎さんと五行歌という形式がすごく合っているんじゃないかと思いました。五行に収めるということ以外は自由な形式で、岩崎さんにとって、そのときの感情や想いを表しやすい形なんじゃないかと。

 

岩崎 ありがとうございます。短歌や俳句も書いてみた時期があったんですが、そのときには自分の思いが言葉の器にのせきれていない感じがあったんです。でも、その後、五行歌に出合って書き始めたら、一気に何十編も形になったんですね。溢れるような感じで。それは今までになかったことだったので、自分でも驚きました。ぼくにとって最もしっくりくる表現方法が見つけられたのは幸運でした。

 

 

「生き抜く」という決心が伝わってくる歌

 

末井 もちろん形式じゃなくて、そこに表現されていることに心が引かれたんですが、どの歌も「生き抜く」という決心が伝わってくるんです。それは、岩崎さんがギリギリのところで生きているからじゃないかと思ったんです。

 

ぼくらは、普段「生きている」ということを意識しながら生きている訳じゃないんですね。なんとなくダラダラ生きているんですけど、岩崎さんの歌から自分が「生きている」ということを再認識させられ、ちゃんと生きなきゃいけないと思ったんです。

 

ぼくはガンになったことがありますが、病気になったりするとどうしても「死」ということを考えますね。それから年をとると、あと何年生きられるんだろうとチラッと思うことがあるんです。そういうときに、生きているってことを大事にしたいと考えるんですが、岩崎さんはそれを毎日考えている。それはすごいことだなと思いました。そこから出てくる五行歌が命の輝きのようで、ほんとに素晴らしいんです。

 

昨年『自殺』が出版されてすぐ、吉祥寺のブックス・ルーエさんという本屋さんで『自殺』の選書フェアのお話があったんです。ぼくが『自殺』に関わるいろんな本を10冊集めるという企画だったんですけど、真っ先に『点滴ポール』が頭に浮かびました。

 

選書フェアでは選んだ10冊の本にそれぞれメッセージをつけたんです。『点滴ポール』には「3歳で筋ジストロフィーを発症。呼吸も食事も動くこともできなくなった岩崎さんが、絶望の中で見いだした希望。岩崎さんが書く五行歌は、どれも生きる決意に満ちあふれています。齋藤さんの写真も透明で素晴らしい」というメッセージをつけさせてもらいました。

 

今日、写真家の齋藤陽道さんも来られていますが、齋藤さんの写真は、写っている風景や事象を通り越してそのときの気持ち、その先にある魂をとらえているように思うんです。この本の写真も、岩崎さんの気持ちが伝わってくるように思いました。青空をバックにしだれ桜が咲いている写真がありますが、「ああ、光が満ちてるな」「きれいだな」「気持ちいいな」と、岩崎さんの気持ちになって歓びました。

 

岩崎 ありがとうございます。齋藤さんが撮られる写真を見ていると、そこに写されているのは、それは私たちが今生きている世界の一部なんですが、ああ自分はこんな輝きのある世界の中で生きているんだな。素晴らしいなって思わせてくれるんです。「嗚呼僕も 生きているんだ」と詠った気持ちとも響きあうような。

 

齋藤さんの写真は、目の前に存在する命や、世界の、明暗とかも突き抜けた最も深いところにある光源を見せてくれているようにぼくは感じています。

 

 

自殺者が愛おしい

 

岩崎 末井昭さんの『自殺』に出合ったのはツイッターで、紹介されている方がいて、はじめて末井昭さんと本のことを知りました。そこで、惹かれるものがあって、読みました。

 

タイトルが「自殺」ということで、はじめはやっぱり胸を突かれました。だけどその本を開いて読んでみると、なぜそういう風にストレートに「自殺」というタイトルにされたのか、思いが伝わってきました。

 

末井さんが本の中で、世の中の風潮として、自殺ということを話題にすることを避けるといいますか、直視しないで目を背けているんじゃないか、ギリギリに自分で自分を追い詰めてしまって、一生懸命がんばったのだけど死を選んでしまった人に対して、まずは悼む気持ちを持ってほしいと書かれているのを読んで、はっとさせられたんですね。

 

『点滴ポール』にも書きましたが、ぼく自身も今こうやって生きていますけど、以前に、自分の将来を悲観して、死のうと思った時期がありました。追い詰められてしまって、生きるか、死んでしまおうかという境目にあるときというのは、本当に紙一重のところで揺れ動いているんだと思うんです。

 

この『自殺』という本は、そういう人に寄り添ってくれる言葉がある。太陽のギラギラとしたものに照らされるというより、日なたのあたたかさを持って、心が弱ってしまって苦しんでいる人の傍に立ってあたたかく声をかけてくれるような、おしきせでなく、生きようとする方向に静かに風を送ってくれるような。ぼくのなかでは心を動かされた本なんです。

 

末井昭さんが『点滴ポール』を読んでくださったことを知りまして、私の本の感想を書いてくださったり紹介してくださって、本を通じて、こうしてつながることができてとてもうれしく思いました。

 

末井 いや、もう、そう言っていただけると嬉しいです。

 

ぼくは自殺未遂をしたことも、自殺をしようと思ったこともないんです。そういう人間が「自殺」について書いていいのかという疑問もあったんですね、自分のなかに。でも、自殺をする人に対して愛おしいと思う気持ちがあるんで、書いてもいいかなと。

 

世の中、いろいろと大変じゃないですか。人を蹴落としたりしないと、なかなか這い上がっていけないような競争社会のなかで、やっぱりそういうことをしたくないというか、人を傷つけたりしたくないという人は、優しくていい人です。そういう人は精神的に過敏な人ですから、そういう人が心を病んだりして社会からこぼれて、その先に自殺が待っているというイメージがあるんです。

 

ぼくのなかのイメージですから、全部が全部そうとは言えませんが、そういうケースも多いと思いまして。そういう人の人間らしさに対して、ぼくはコンプレックスを持っているような気がするんです。ぼくは図太いですから、すごく。

 

まあ、自分で自覚はないんですけど、知らないうちに人を蹴落としたり、人を傷つけたりしたこともあるんじゃないかと思ったりするんです。反省ではないんですけど、自分の図太さや無神経なところに対する罪悪感があって、自殺まで思い詰めてしまう人に対してのコンプレックスがあるんです。

 

だから、自殺をして亡くなった人を悼む気持ちがあるし、これから自殺しようとしている人には、「ちょっと待ってください」ってお願いしたいんです。

 

さきほど岩崎さんもおっしゃっていましたが、死のうかどうしようか紙一重のところで揺れている人に、できれば自殺を思い留まってほしいと、そういう人にこそ生きていてほしいという気持ちで書きました。

 

 

死のうと思ったとき、湧き上がってきた気持ち

 

司会 末井さんは自殺をしようと思ったことがないとおっしゃいましたが、岩崎さんは先ほどおっしゃったように自殺を考えられ、十代のときに自殺をしようと思われたと、本にも書かれていますね。

 

岩崎 はい。私は17歳のときに死のうと思ったことがあるんです。私はこのような身体で、進行性筋ジストロフィーという病をもっています。幼いころから、3歳には症状が現れていたので、この病気とはずっと一緒に生きてきました。

 

筋ジストロフィーにはいろんなタイプがあるんですが、基本的には、正常な筋肉がうまく作れなかったり壊れたりして、筋力が低下していきます。それで、だんだん身体の自由が奪われていくというものです。徐々に進行していくので、最初は階段をのぼったり、座ったり立ちあがったりできたのが、年を重ねるにつれ、走れなくなり、歩けなくなり、車いす生活となり。

 

そんな中、十代後半には、身体の不自由さもあって、外出もあまりできなくなり、自然と家の中に閉じこもるような暮らしになりました。そうした状況でいろいろと思いつめて、同世代の友達や知り合い、みんなの姿を思って、自分と違って楽しい高校生活を送っていたりするんだろうなとか、どうしても人と自分の境遇を比べてしまったんですね。

 

そうすると、本当に気持ちが沈んで暗くなるんです。人と比べている間は、本当に苦しかったです。なにかにつけても涙が出てくるんですね。なんで自分だけがということと。自分はできないけれど、周りはできると。そういうふうにどんどん自分で自分を追い込んでいって、ついには、この病気の体をもったまま生きていても将来はない、希望はないと思い込んでしまったんです。そのときにはじめて、自分で死のうと思いました。

 

末井 そのつらい気持ちはよくわかります。

 

岩崎 ですが、死のうと思ったときに湧き上がってきた気持ちというのは、このまま自分が死んでしまったら、自分はなんのために生きてきたんだろうという問いでした。そうしたらすごい、心の奥底から、このままでは死にたくないという気持ちが湧いてきたんです。

 

本当になんて言ったらいいかわからないんですけど、命の奥底、存在の奥底から湧き上がってくる、怒りというと語弊があるかもしれないけれど、そういう突き上げるものが、このままで死んでたまるかというような気持ちがふっと湧いてきたんです。

 

それがきっかけになって、自殺するのをやめました。だけどそこで自分の気持ちがすっかり整理されたわけではなくて、そこからもいろいろ葛藤があって、苦しんだり悩んだりしたんですけど、やっぱり最後には自分、病をもちながら生きる病気を含めての自分なんだ。そのままの自分で生きればいい、人生を生きればいいんだって心から思うことができたんです。

 

そうすると、人と比べて嘆いてばかりいることがなくなっていったんです。ようやく病を含めての自分として、生きるという気持ちが固まった時に、はじめて私は、自分の人生を生き始めたんだと思うんですね。

 

末井 よかったですね。体が健康な人でも、自分の人生を生きている人って少ないんじゃないでしょうか。みんな人と比べて、人を気にしながら窮屈に生きているように思うんですけど、そういうことから抜けられてよかったと思います。

その時は、まだ詩を詠んだりはしてなかったんですか?

 

岩崎 はい、まだ今のような形で詩を詠んだりはしてなかったです。  【次ページにつづく】

 

 

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