離別父親の実態と養育費施策のありかた

教育費施策への示唆

 

以上を踏まえて、養育費施策への示唆を考えてみよう。

 

まず、離別父親からの養育費徴収を強化することが必要である。離別父親は低所得の傾向にあるとはいえ、裏返せば離別再婚父親の7割、離別単身父親の4割は年収350万円以上を得ているわけである。対照的に、母子世帯のうち世帯年収が350万円を超えるのは2割未満にとどまる。子どものウェル・ビーイングを高める上でも妥当な金額の養育費を確保することは重要である。厚生労働省が普及を進めている「養育費算定表」(*3)では、年収350万円の場合は月2~4万円の養育費支払いが可能とされている。

 

付け加えると、養育費の徴収を強化することは、男性の性行動を変えるという面でも重要な意味を持つ。たとえばアメリカでは個人責任就労機会調停法(PRWORA)のもとで養育費徴収強化が図られたが、Huang and Han (2007)は、これによって若年男性の性行動に変化が生じたと報告している。具体的には、不特定多数の女性との交際よりも特定のパートナーとの関係を重視するようになり、避妊具を使用する割合も増加した。

 

アメリカの養育費徴収は大変厳しく、未婚女性が出産する場合には子どもの父親を特定することが病院側に義務として課され、ときには遺伝子検査も用いられる。父親として特定されると、子ども1人当たりで所得の17%(ウィスコンシン州の場合)が養育費として徴収され、不払いの場合は連邦データベースの情報を用いてどこまでも追及される。Huang and Han (2007)によると、貧困地域ではとくに、意図せずに父親となり、養育費支払いに苦労している若い「先輩」男性を頻繁に見かけるので、同じ轍を踏まないように若年男性が自重するようになったという。

 

前述したように、日本の離別父親には早婚傾向が見られる。いわゆる「でき婚」は今日、嫡出第1子の4分の1を占めるようになったが、母親の年齢別にみると10代出産の8割、20代前半における出産の6割が「でき婚」である。つまり、早婚であればあるほど、「でき婚」の可能性が高い。子どもを育てる十分な準備がないままに「でき婚」をしたことが、その後の離婚につながっているのだとすれば、アメリカの例にみるように、養育費徴収を強化して意図せざる妊娠をしないようなインセンティブを若年男性に与えることは、社会的にも意義があるだろう。

 

つぎに、養育費徴収強化が母子世帯の貧困を解決する上での万能薬とはなりえないことも、十分に認識しておく必要がある。本稿の分析で明らかにしたように、離別父親は一般の父親よりも低所得である。さらに、離別再婚父親には生計を維持しなければならない現在の家族があり、離別単身父親のうち少なからぬ割合は、不安定な就労状態にあるワーキングプア層で、健康不安に直面している。こうした状況では、たとえ養育費の取り決めがなされたとしても母子世帯が貧困から脱出するのに十分な金額が確保されるとは限らない。

 

支払いが滞るリスクも常に存在する。養育費徴収強化を図るからといって、ひとり親世帯に支給している児童扶養手当などの公的な支援を縮小させるべきではない。とくに、現在の児童扶養手当法では、児童扶養手当の受給期間が5年を超えると給付額を半分まで削減できることになっている(この措置は現在停止中である)が、この措置自体の見直しも検討すべきである。政府は、児童扶養手当はあくまでも母子世帯となった直後の家計急変期に対応するものと位置付けている。しかし、筆者が最近行った実証研究(*4)では、母子世帯になってからの年数が経っても、貧困リスクは軽減されないのである。

 

さいごに、離別父親に対しても、母子世帯の母親に対して講じているのと同様の職業訓練プログラムなどを提供することが望まれる。母子世帯の母親に対しては、様々な自立支援施策が講じられつつあるが、離別父親に焦点を当てた施策というのは全くといっていいほど見当たらない。養育費を確保するには、離別父親の稼得能力向上が不可欠であり、彼らに対する職業訓練の強化が必要である。

 

離別父親の実態については不明な点も多く残されている。たとえば今回の分析に用いたデータでは、養育費を送っているかどうかやその金額は分からない。また、今回の「社会保障実態調査」のような比較的大規模かつ全国を対象とする統計調査を用いても、過少申告となっている可能性は高い。母子世帯の貧困問題のもう一方の当事者として、離別父親について、さらなる研究を進める必要がある。

 

 

参考文献

阿部彩・大石亜希子(2005)「母子世帯の経済状況と社会保障」国立社会保障・人口問題研究所編『子育て世帯の社会保障』東京大学出版会、143-161.

大石亜希子(2012)「母子世帯になる前の就労状況が現在の貧困とセーフティ・ネットからの脱落に及ぼす影響について」労働政策研究・研修機構『シングルマザーの就業と経済的自立』労働政策研究報告書 No.140, pp.79-98

大石 亜希子(2012)「離別男性の生活実態と養育費」西村周三監修・国立社会保障・人口問題研究所編『日本社会の生活不安 自助・共助・公助の新たなかたち』慶應義塾大学出版会、221-246.

Cherlin, A., J. Griffith and J. McCarthy (1983) “A Note on Maritally-Distrupted Men’s Reports of Child Support in the June 1980 Current Population Survey,” Demography,  20(3): 385-389.

Huang, C.C. (2011) “Child-Support Enforcement: Does Policy Make a Difference?” mimeo.

Huang, C.C. and Han, W. (2007) “Child Support Enforcement and Sexual Activity of

Male Adolescents,” Journal of Marriage and Family, 69 (August 2007): 763?777.

 

(*1) http://www.amazon.co.jp/dp/4766419189/

(*2) http://www.amazon.co.jp/dp/4130511238/

(*3) http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/shien_05.pdf

(*4) http://www.jil.go.jp/institute/reports/2012/0140.htm

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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