精神病棟転換型施設を巡る「現実的議論」なるものの「うさん臭さ」

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では、どうすればいいか?

 

こう書くと、必ず受ける反論がある。「そんなの理想論だ。現実を見よ!」「学者は勝手な事を言えるが、現場は霞を食って生きてはいけない」という主張である。「やってもいないものが、口出しするな」という恫喝である。

 

だが、そういうことを言う人が見ている現実は、「事業経営」の「現実」である。冒頭の比喩で申し上げるなら、ワープロという時代遅れの、古いパラダイムにしがみついて離さない人々の「事業経営」の「現実」である。一方で、私やこの病棟転換型施設構想に反対する人々[*10]が見ている現実とは、このような「事業経営」優先の論理は、時代遅れの生産様式だ、という現実である。患者を収入源にして「事業経営」の維持を引き出す補助金を取る作戦を「時代遅れだ」と喝破するリアリティである。さらに言うなら、一度こういう「有効活用」を認めてしまうと、現在入院中の患者がその施設を使わなくなったあと、今度は認知症の「収容施設」と早変わりする可能性がきわめて大きい。そういう「施設収容」の論理を21世紀になってもの残してはならない、というリアリティである[*11]。

 

[*10] http://blog.goo.ne.jp/tenkansisetu

 

[*11] 同じ厚労省が、政務官をトップに据えた局横断の認知症施策検討プロジェクトチームをつくって2012年にまとめた「今後の認知症施策の方向性について」という報告書の中では、「『認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない』という考え方を改め、『認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会』の実現を目指している」とはっきり宣言している。http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/dl/houkousei-02.pdf

 

ワープロ事業者には、再就職トレーニングをほどこし、パソコンが当たり前の現場で働き直してもらう。あるいは、それが無理なら、その業界から撤退してもらう。同じように、民間精神科病院の経営者・職員は、本気で地域支援が展開出来るよう、再トレーニングを受け、仕事のやり方を180度転換する。入院中の精神障害者に「社会復帰トレーニング」を施す前に、まず自分たちが「古い生産様式」に固執しているという事実を認め、地域支援というグローバル・スタンダードに合わせる「社会復帰トレーニング」を受ける。そのためにこそ、国の税金は使われるべきだ[*12]。

 

[*12] この点については、2011年にまとめた、内閣府の障がい者制度改革推進会議総合福祉部会の「骨格提言」でも具体的な方策が示されている。また、上記の内容については、筆者のブログでも一部、紹介している。「社説が暴露する「病院の論理」」

 

繰り返し言う。精神科病院という隔離収容された場所で、諦めさせられた生活を続けてきた長期社会的入院患者にとって、病院も、病院内の居住施設も、「強いられた暮らし」の場である事実は変わらない。たとえ敷地内の「居住の場」で、外出の自由が認められ、外部からの自由の訪問が可能であり、プライバシーが尊重されても、「学習性無力感」に陥った人にとっては、「統計数字上の退院」のための「退院」であり、「希望を取り戻すための退院」ではない。利用者の権利擁護を第一に考えるなら、これまで十分稼いでこられた精神科病院経営者の既得権益を守るより、地域で暮らしたい患者の希望こそ、優先すべきである。患者を「事業経営」の「財源」にする「収容ビジネス」には退場を迫らねばならない。

 

本気で「患者さんの希望を取り戻すための退院」を考えるなら、「事業経営」への踏み込み方を、見誤ってはならない。既得権益者の保護という「現実的議論」なるものの「うさん臭さ」を見抜き、その既得権益保護とは裏腹に、自らの「当たり前に地域で暮らす権利」を奪われた、長期に入院する精神障害者のまっとうな暮らしへの「転換」をこそ、支える必要がある。諸外国では、40年以上前から、どんなに重度の障害がある人でも地域で支える居住支援や地域生活支援が展開されている。日本でも、地域で重度の精神障害者を支える仕組み作りが、各地で展開されている。厚労省も、それらの実践を、よく知っている。ならば、不必要な「病院・施設収容主義」を終わらせ、真っ当な地域支援政策への「転換」にこそ、貴重な消費税財源は投入されるべきである。

 

私の払っている消費税は、既得権益者保護ではなく、強いられた暮らしからの解放のためにこそ、使われたい。一納税者として、心から願っていることである。

 

サムネイル「Scratched Blue and Gray Wall Surface」Sherrie Thai

http://www.flickr.com/photos/shaireproductions/5719277410

 

 

 

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