地球で生きる宇宙飛行士――『宇宙兄弟』はなぜALSを描いたのか?

大人気漫画『宇宙兄弟』(現在22巻まで刊行。3月21日23巻発売予定)では、ふたりの登場人物がALS(筋萎縮性側索硬化症)として描かれている。筋肉が委縮し、呼吸器なしでは生きられなくなり、いずれは身体が動かなくなるALS。そんな難病をなぜ『宇宙兄弟』は取り上げたのか。『宇宙兄弟』(講談社)の編集担当の佐渡島庸平氏と、ALSを罹患した母親について書いた『逝かない身体』(医学書院)の川口有美子氏が、宇宙兄弟について、ALSについて語り合った。(構成/金子昂)

 

 

きっかけは『逝かない身体』

 

川口 対談が決まってから、今日をずっと楽しみにしていました。佐渡島さんにお聞きしたいことがいっぱいあります。

 

佐渡島 こちらこそよろしくお願いします。

 

宇宙兄弟は、幼少時代にともに宇宙飛行士になることを約束した兄弟の話です。先に弟が夢をかなえ、兄は後から追いかけます。宇宙と家族がテーマなのですが、ALSも作品で重要な要素です。

 

川口 そう、『宇宙兄弟』は、主人公の南波六太(ムッタ)と日々人(ヒビト)に大きな影響を与えた金子シャロン、そして六太の同期で憧れの人でもある伊東せりかの父・凛平のふたりがALS患者として描かれているじゃないですか。「作者の方は親戚にALSがいるのかな?」って思いながら読んでいました。描かれ方にもリアリティを感じてます。

 

シャロンは六太と日々人にとって、とても大切な人ですよね。漫画の中の重要人物です。いろいろな難病がある中で、どうしてALSを選ばれて、なんでシャロンがALSになったのかとっても気になっています。

 

佐渡島 シャロンがALSになるのって途中で小山さんが思いついたんですよ。

 

川口 えー! そうなんですか!

 

佐渡島 最初は小山さんが「せりかのお父さんは、なにか難病に罹っている設定にしたいんだけど、それはガンじゃないと思う。漫画に出して説得力のある難病ってありませんか?」と言っていて。そこで昔からいろいろとアドバイスを貰っている、以前ぼくが『ドラゴン桜』を担当していたときに、彼の勉強法を紹介したこともある医者に相談に行ったんです。

 

その医者がALSの患者さんと接していて紹介してもらったので、さっそくALSについて調べてみようとNHKのドキュメンタリー番組を見て、川口さんの『逝かない身体』を読んで、ALSを提案したのです。

 

川口 私の本を!? 嬉しいなあ。

 

佐渡島 それから小山さんに『逝かない身体』を読んでもらったら「ALSにしましょう」と。

 

川口 小山さんも読まれているんですね! とっても光栄です。どうしよう、涙が出てきちゃった。

 

 

日々人(左)と六太(右)

日々人(左)と六太(右)

 

 

佐渡島 『宇宙兄弟』を描くとき、宇宙に関する取材はとことんできるところまでやるって決めていました。でもALSを描くと決めたときは、ALSの名前を出すべきなのか、それとも「難病」だけにしてぼんやりさせるべきなのかは、小山さんと一緒にずっと悩んでいたんです。だからせりかのお父さんがALSだってことはすぐには描かなかったんですよ。

 

ガンの場合、その大変さはある程度想像できると思います。でもALSの場合は、患者さん、そして家族の方がすごい大変だということはわかるんだけど、ぼくたちには想像しきれない。そして想像できていないことをフィクションの中で描くことは、関係者を傷つけてしまうかもしれない。だからALSの名前を出してからも小山さんは悩んでいました。その戸惑いはシャロンがALSになったことを描写してからなくなられたようですが。

 

川口 いまのところ大丈夫ですよ。患者さんもヘルパーさんたちも読んでいますが、上手に描かれているって話しています。

 

佐渡島 それを聞いて安心しました。ぼくたちも『宇宙兄弟』の宣伝にALSを使っていると思われたくないですし、どうすれば話題の仕方が難しいんですよね。幸いなことにご家族から「漫画でALSのことを広めてくださってありがとう」というお手紙もいただいているので誤解は招かずに済んでいると思うんですけど。

 

 

佐渡島氏

佐渡島氏

 

 

 

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