「パリ同時テロ」をめぐる誤解――「テロ」「移民」「極右」の連鎖を打ち切るために

悲しいことに2015年は、1月のパリのテロに始まり11月のパリのテロで終わろうとしている。もっとも、その間には紛争地以外だけでも、アメリカ、タイ、チュニジア、レバノン、デンマーク、イギリス、中国、インド等々で、イスラム過激主義が関連したとみられる数々のテロが起きている(例えば2014年まで、こうしたテロはアメリカ国務省の報告書で確認できる)。また今年は、フランスやイギリスだけでも、10件前後のテロ事件が未然に防止されているとされている。ただ、テロをいくら防いでも1件でも成功すればその目的は達せられるのだから、その成否がもつ意義においてテロ行為は非対称性を特徴としている。

 

 

「みせる」テロ

 

国際政治学者の中村研一は、テロリズムの本質は「みせる効果の暴力」だと定義している。つまり、テロとは「テロを行う者」、「テロの被害にあうもの」、そして「テロを見せられるもの」という、3者の間の関係を本質にしているのだという(「テロリズムの定義と行動様式」日本比較政治学会年報『テロはいかに政治を変えたか』)。

 

言い換えれば、ジョージ・オーウェルがかの「1984」でいわせたように、テロは幾人の犠牲者を出すかではなく、「テロ(恐怖)」をどれほどみるものに与えることができるのかを意識している。中村の論文でも指摘されているように、テロと無縁の政治運動や宗教運動はほとんど存在しない。テロは思想や属性に還元されない、純粋な行為そのものなのだ。

 

そうであれば問われているのは、イスラム過激派や中東情勢の本質的理解だけでなく、いかにしてテロ=恐怖は受け止められるのかという、私たちの見識や認識、解釈であるはずだ。テロをどのように解釈し、認識し、受け止めるのか――それ自体がテロとの戦いの重要な一環をなしている。

 

限られた側面と論点となるが、以下では2015年1月のシャルリ・エブド襲撃事件を受けて展開した「移民、宗教、風刺」のトピックを踏襲しつつ、11月のパリ多発テロを素材に論じてみる。

 

 

「11.13」は「9.11」ではない

 

11月13日のパリ多発テロは、欧州にとっての9.11であるとの指摘がある。解かりやすい比喩かもしれないが、これは正しい解釈とはいえない。フランスの「11.13」はアメリカの「9.11」ではない。その理由は2つあげられる。

 

まず、9.11同時多発テロはアメリカ社会にとって心理的な衝撃を与えるものだった。それは、それまでにアメリカによる中東への軍事力を含む介入があったとしても、それが遠い地の話であり、海外でアメリカ人がテロの標的にあうことはあっても、本土攻撃を受けることは予想だにされてなかったためだ。

 

9.11を受けてアメリカの国際政治学学者ホフマンが「なぜ彼らは私達を嫌うのか」という記事で指摘したように、アメリカ人はそれまで嫌われる対象としての自己意識に乏しかった。

 

しかし、フランスはそのような状態にはない。まず、フランスは自らが主体となって2012年に英国とアメリカともにリビアに介入し、カダフィ政権を崩壊に追いやった。翌2013年には、リビア内戦で紛争が激化したマリに5000人規模の軍事力を派兵し、さらに2014年にはイラク空爆、今年2015年9月にはシリア空爆を開始した。フランス政府は2012年11月に、主要国の中では最も早く反アサドのシリア国民連合を正当な政権として認め、これにEUとイギリスが追従するなど、積極的な介入姿勢をみせていた当事者だった。

 

アラブの春以降に強化されたフランスのこうした積極的な介入は、IS(イスラーム国)を含むイスラム過激派と敵対する交戦主体として当事者化していくプロセスでもあった。つまり、実際のテロ計画がいつなされたのかという問題を脇におけば、フランスはISによる軍事的な標的となるのは十分に予想されたことであり、現に未遂のものを含め、フランスはすでに幾度かのテロを経験していた。

 

その中には、2015年6月に起きた、イスラム原理主義をかたって職場の上司を惨殺したというテロなどもあるが、そうした「個人の生活での不条理の原因を社会に求め、復讐のためにイスラム原理主義が触媒となるテロ」とも、パリの多発テロは性格を大きく異にしている。

 

フランスのバルス首相が指摘したように、多発テロが「シリアで考案され、計画され、組織化されたもの」なのだとすれば、対テロ戦争に連なったフランスへのISによる反撃という性格が強くなる。それは1月の『シャルリ・エブド』編集部やユダヤ系商店への襲撃によって文化的衝突を演出しようとしたテロとはもちろんのこと、テロを引き起こすことに無自覚だったアメリカが経験した9.11とも異なる。

 

 

限界ある空爆

 

テロが起きたこうした初期条件の違いは、そのまま対応の差異となっても表れている。フランスのオランド大統領はテロを受けてフランスの「戦争状態」を宣言、原子力空母「シャルル・ドゴール」を派遣し空爆を3倍にまで拡大するとともに、その後EU条約に規定される相互防衛条項を発動、ドイツの協力も得て、対テロ戦争の強化に前のめりになっている。12月になってシリア空爆にはイギリスも参加を決定した。

 

もっとも、フランスやイギリスだけでは大きな戦力にはならない。アメリカを主軸とするNATOの支援がなければ、フランスはリビアやマリにすら介入できなかったとも指摘されている。EU全体でみれば兵力数はアメリカを上回るが、その軍事予算は半分以下、しかも海外展開できるような能力は極めて乏しい。例えば、フランスが空爆に展開する爆撃機は30機にも満たず、しかもそれが実際に爆撃に及ぶ回数は限られている。

 

空爆の95%はアメリカによるものとされているが、ISを空爆で弱体化させることはできてもテロの根絶にはつながらないことはコンセンサスになっている。それゆえ、フランスを含むEU諸国は、軍事力以上に諜報や情報共有を含むポリシング(治安維持活動)の次元で協力拡大を計画している。

 

例えば、EUは国際刑事警察機構(ICPO)のデータベースとテロ警戒対象者との照合システム構築などを通じて域外国境からの入国管理を強化、また、これまで限定的な期間でしか参照できなかった航空機の乗客情報の参照可能期間の延長などで合意している。EU域内の自由移動を認めるシェンゲン協定の適用除外の対象であるイギリスでも、不法移民の流入やテロが防げているわけではない。そうした意味においても対テロの手段としては、非軍事を中心としたものにならざるを得ない。

 

簡単にいってしまえば、EU諸国はアメリカに比する軍事力もなければ、それが期待されているわけでもなく、この点においても「11.13」と「9.11」は大きく異なっている。

 

 

テロとイスラム移民を結びつける陥穽

 

第二のトピックとして、テロはフランスならびに他の欧州諸国で移民系の市民、とりわけムスリム(イスラム教徒)が、社会で置かれている境遇から起きたものだとする解釈を検討してみよう。日本でも、フランスが移民大国である事実とテロを結びつける視点は従前から根強くあった

 

ここで真っ先に問題にしなければならないのは、このテロ解釈は移民=イスラム=テロという三位一体のまなざしをさらに強化してしまうことだ。なぜなら、この三位一体を印象付けようとするのは、フランスを含む欧州の移民排外運動の目標の実現に与することにつながるからだ。

 

そもそも、現在のフランス国民の約4人に1人(23%)は、祖父母の何れかが移民出身とされている。すなわち「移民系」といっても、出自に関係なくフランス人の多くが「移民系」であるのだから、移民の多さはテロとの因果関係の証明にはならない。「移民系アメリカ人」という言葉がナンセンスであるのと同様に、「移民系フランス人」という解釈もナンセンスであり、それゆえに移民系とテロを結びつける視線もナンセンスである。

 

「移民系」を「ムスリム(イスラム教徒)」に限定してみても、現実はさらに複雑になるだけだ。一般に「ムスリム」といった場合(90年代まで彼らはフランスで単に『アラブ』と呼称されていた)、フランスのそれは文化的なアイデンティティ、宗教、エスニシティの三つとして同心円状に重なっている。すなわち、ムスリムは習慣、信仰、民族の何れでもあって、そのどれに重きが置かれるかは、極めて個人的な次元で差配されている。

 

解かりやすくいえば、飲酒をするムスリムもいれば、イスラム教を信じる「白人」もいるということになる。イスラム系移民であっても、2世から3世世代となって(アメリカのヒスパニックと同様)母国や出身集団とは異なる、独自の文化風習を作り上げているようになっている。フランス社会でムスリムであったとしても、その内実は多様なのである。

 

2011年の世論調査によれば、フランスのムスリムのうち、戒律をきちんと守っているとするのは4割に過ぎず、義務である金曜礼拝を行うとするのは25%に過ぎない。また非ムスリム教徒との結婚や離婚する権利、婚前交渉などについても、圧倒的多数がこれを認めるとしている。

 

フランスのムスリムは、欧州の中でも相対的に最も世俗化された人々であることは、例えば人口統計に詳しいエマニュエル・トッドなども指摘している点だ。しかも、テロ犯の多くは過激思想に染まるまで、特段信仰心の厚い人間ではなかったことが報告されている。それゆえに、イスラム信仰とテロ行為とを直接的に結びつけることにも大きな留保が付けられなければならない。【次ページにつづく】

 

 

 

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