現代民主主義の困窮を希望にすり替える

民主主義がかつてのような輝きを失ってから久しい。2000年代のページがめくられてから、大きな問題として浮上してきたのが、民主主義という政治制度に対する疑念や不信である。冷戦の終焉によって、民主主義は揺るぎない原則となり、世界大に拡大した。その途端に民主主義が苦難を抱えるようになったというのは、皮肉としか言いようがない。

 

例えば、「アラブの春」でチュニジアやエジプトといった国は、絵に描いたかのように、そして多くの民主主義者の理想を体現するかのように、大衆蜂起によって民主化を成し遂げた。しかし、その途端にイスラム主義勢力が台頭し、選挙で多数を占めるような状況を迎えようとしている。民主化は民主主義とイコール、少なくとも世俗的な民主主義のイメージと異なるものを生もうとしているのである。

 

またギリシャでは、EUとIMFによって経済主権がほぼ完璧なまでに取り上げられ、これに対する抗議運動が蔓延する中、頭をもたげたのが極右ポピュリズムである。手間暇のかかる民主主義に対して政治エリートは民衆の「厚生」を掲げて、手続き的な正当性よりも結果による正当性に重きを置く「ガバナンス」に傾注し、これに対して民衆は政治エリートに対する不信から、結果による正当性を考慮せず、飽くまでも民意の表出にこだわる。

 

こうした光景は、多くの先進民主主義国での日常になりつつある。いわば「統治の論理」と「民意の論理」との相克の間で、民主主義は身動きが取れなくなっており、そのこと自体がまた、民主主義に対する、よく言って倦怠感、悪く言って疑念を巻き起こしているように思える。

 

日本の原発(および原発再稼働問題)は、この民主主義の困窮の例外ではないかもしれない。原発をめぐる争点は、人々の安全(ないし安心感)と経済的要請との間を行き来するだけでなく、この中には「決定者は誰なのか」(政府なのか国民なのか)、「範囲は何処までなのか」(国なのか自治体なのか)、「誰の声を聴くべきなのか」(政治家/専門家なのか、利害関係者/潜在的な被害者なのか)という原則論を抜きにしては語れなくなっている。

 

また、原発という「存在」をどうフレーミング・争点化したらよいのか、あるいはその場合の主体は誰なのかという自問や他者非難が続き、それ自体がフラストレーションの種とさえなっているかのように見える。このように、民主主義の在り方と本質、その可能性を模索する時期が再び到来しているのは間違いない。

 

民主主義をめぐる問題を、現代政治理論の文脈に置きなおして捉えて現状を点検するとともに、今一度その潜在力に目を凝らそうとするのが山崎望の『来るべきデモクラシー』(有信堂、2012年)である。この本を貫いている問題意識は明快だ。それは、「第二の近代」(これはベック=ギデンズのいう「再帰的近代」とほぼ等価に用いられている)の特徴である「時間と空間の分離」、「脱埋め込み」、「再帰的秩序化と再秩序化」がリアルなものとなっている現在、どのような民主主義構想が語られ、どのような「来るべき」民主主義が模索されるべきなのか、骨太の現代政治理論を通じて丁寧に検証することにある。

 

著者の山崎望は、20代後半に『思想』に掲載された論文で注目を浴び(「後期近代における政治の変容」2003年)、「第二の近代」における「政治」と「政治的なもの」がどう変化してきたのか/しているのかを、一貫して解明しようとしてきた新進気鋭の政治学者である。政治理論は、日本でもそれほど発信力を確保してきたとは言い難いが、それは内外の政治論の紹介や整理(それ自体に意味があることは論を待たない)や、「空理空論を弄ぶ」とみなされることが多かったからかもしれない。

 

しかし、この本がその種の書籍と大きく異なっているのは、粘り強く現実と向き合い(それは「おわりに」に引用されるウルトラマンAの言葉に象徴されている)、新旧の政治理論の長所を換骨奪胎しながらもその限界を指摘し、「その向こうにある」民主主義論へと想像力をいざなう所にある。それゆえ、平易な文章ではあっても(これはかなりの程度、概念定義を意図的に迂回していることにもよる)、読者は著者の理論的な展開に対しても、粘り強くついていかなければならない。

 

 

 

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