2014.05.28

「ホームレス」は減少しているのか――岐路に立たされるホームレス支援の今後

大西連 NPO法人自立生活サポートセンター・もやい

社会 #ホームレス#もやい#synodos#シノドス#生活困窮者自立支援法#ホームレスの実態に関する全国調査#ホームレス概数調査#ホームレス自立支援法

2014年4月25日、「ホームレスの実態に関する全国調査(目視による概数調査)」の結果が公表された。

調査によれば、2014年1月の時点で「ホームレス」は全国で7,508人であり、昨年と比べて9.2%減と、過去最少の数字となった。

では、この「ホームレス概数調査」があらわすように、はたして日本の「ホームレス」は減っているのだろうか。以下に、いくつかの論点から検証したい。

参照:ホームレスの実態に関する全国調査(目視による概数調査)結果について

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000044589.html

減少する国の定義の「ホームレス」

日本で最初に「ホームレス概数調査」がおこなわれたのは2003年で、その時は25,296人であったが、近年は減少傾向にあり、2014年は7,508人と、3分の1以下になっている。

※「ホームレス概数調査」は最初におこなわれたのが2003年。2度目は2007年で、それ以降は毎年おこなわれている。
※「ホームレス概数調査」は最初におこなわれたのが2003年。2度目は2007年で、それ以降は毎年おこなわれている。(筆者作成)

減少した背景にはさまざまな要因が考えられる。ホームレス自立支援法による施策(多くは就労支援)や生活保護制度などの公的な制度によって支えられることになった人はかなり存在すると思うし、民間の支援団体の取り組みによって支えられている人も多いだろう。

あるいは、場合によってはテントなどで定住していたが、行政機関等によって追い出されて、ホームレス状態であるものの、調査では捕捉されていない状況になった人もいるだろう。しかし、その理由や実態は、正直にいってわかっていないのが現状だ。

国の「平成24年度ホームレスの実態に関する全国調査報告書」によれば、ホームレスの数は減少しているものの、その背後には、

・生活困窮し居住の不安定さを抱える層が存在すること。

・これらの層が何らかの屋根のある場所と路上を行き来している。

と指摘されており、国も「ホームレス概数調査」が「ホームレス状態」の一部しか捕捉していないこと、「ホームレス状態」が多様な拡がりを見せていることを認識している。

参照:平成24年度ホームレスの実態に関する全国調査報告書

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002rdwu-att/2r9852000002re1x.pdf

また、同じく現場レベルのデータを見てみても、例えば、新宿区の「ホームレス」の概数は162人(2013年1月)である一方で、新宿区福祉事務所へのホームレス等の方からの相談は9,133件(2012年)もあるように、国の調査による「ホームレス」が「ホームレス状態の方」のほんの一部でしかないことがわかる。

参照:新宿区生活福祉課統計資料

http://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000041514.pdf

確かに調査対象となっている一部のカテゴリーの人たちは実際に減少している。しかし、それだけで「ホームレスが減少している」と言うことは、あまりにも短絡的で、現実的なものではない。

国の定義の「ホームレス」は「ホームレス状態」の一部にすぎない

さて、「ホームレス」が減少しているのかどうか考えるにあたって、まずこの「ホームレス概数調査」がどういったものかを説明しよう。

「ホームレス概数調査」は、2002年に成立した「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(以下「ホームレス自立支援法」)」に基づいておこなわれている。

この「ホームレス自立支援法」によれば、

「ホームレス」とは、都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場とし、日常生活を営んでいる者(法第2条)

と定義されている。

この法律が成立した2002年は、まだ「ネットカフェ難民」や「派遣切り」(製造業派遣の解禁は2004年)などの言葉は存在しておらず、24時間営業のファストフード店等もまだまだ少なかった時代である。

当時の「ホームレス」と言えば、駅構内に段ボールを敷いて寝泊まりしていたり、河川敷にブルーシートやテントをはって生活している人を想定している。

しかし、現在では、ネットカフェやサウナなどに寝泊まりしている人や、友人宅を転々としている人、そういった一時的な寝場所と路上を行き来している、多様な「ホームレス状態」の人たちの存在が認識されており、「国の定義のホームレス」は「ホームレス状態」の一部でしかない。

調査方法は昼間に目視

また、この「ホームレス概数調査」の調査方法は、基本的に昼間に目視でおこなっている。つまり、例えば、テントをはっていたり、小屋を建てていたりしている「定住しているホームレス」の人でないと捕捉されない。

目視であるがゆえに、2014年の調査でも、例えば「防寒具を着込んだ状態等により性別が確認できない者」が313人もいる。それこそ、服装や身だしなみによって「ホームレス」と誤解されたり、逆に「ホームレス」ではないとカウントされたりと、誤差がある程度発生していることが想定される。

このように、繰り返しになるが、この「概数調査」は、ホームレス状態の人の実態をひも解くには必ずしも十分なものではない。

多様な拡がりを見せる「ホームレス状態」

下記の表は筆者が住まいの状況に応じて(住居の不安定具合に応じて)生活困窮層を区分けしたものだが、国の定義の「ホームレス」は、A群のみがそれに相当する。B~Dに関しては、実態は「ホームレス状態」であっても、統計的にはなかなか捕捉されていない。

graph1

また、A群やB群は、「見えるホームレス(貧困)」、C群~F群は「見えづらいホームレス(貧困)」と言えるだろう。

A群の人は支援者が会いに行くことができるし、B群の人も夜回りや炊き出しなどのアウトリーチの活動で支援につながれるかもしれない。しかし、C群~F群の人は、なかなかその人が「ホームレス状態」にあるかどうか傍目には分からない。もしかしたら、自分自身でもそう思っていない場合があるかもしれない。

「ホームレス」は「状態」であり、可変的なものである。今日A群の人が明日には自分の住居を得る可能性もある。A~Fの区分けは便宜的におこなっただけで、それぞれの区分けはグラデーションであり、そして多くの人がそれぞれを行き来している。

「ホームレス状態」と言っても、一人ひとりの状況は違うし、多様で、一概に定義できるものではない。ただ、明らかに言えることは、国の定義の「ホームレス」が約7000人で、その人たちが「ホームレス状態」の一部であるということは、少なくとも広義の意味での「ホームレス状態」にある人が、全国で数万人以上はいて、しかもその数字を誰も正確に把握できていない、ということである。

「ふとんで年越しプロジェクト」から見えたこと

2013年~2014年の年末年始に、都内のホームレス支援団体、生活困窮者支援団体の有志で「ふとんで年越しプロジェクト(以下「ふとんP」)」を結成し、年末年始の「閉庁期間」(役所がお休みの期間)のホームレス状態の人、生活困窮者への相談支援や、シェルター提供等の活動をおこなった。

ふとんで年越しプロジェクト:http://futon-prj.strikingly.com/

プロジェクト報告会の様子:http://bigissue-online.jp/archives/1000676801.html

詳細は上記を参照してもらいたいが、例えば、シェルター利用者の平均年齢は46.2歳と比較的若く、いわゆる野宿者の平均年齢が59.3歳(平成24年度ホームレスの実態に関する全国調査)であることを考えると、住まいを失った生活困窮者の実情が国の定義の「ホームレス」だけでは不十分であることを如実にあらわしている。

また、相談者の概況としては、

・長期路上層(Ⅰ群)

・路上と支援を行き来している層(Ⅱ群)

・不安定就労&不安定住居層(Ⅲ群)

の3つに大きく分けることができた。

Ⅰ群の「長期路上層」は、病気や障害があって支援につながりづらい人や、行政機関への不信感を強く持っている人など、支援につながることが難しい人たちが含まれる。

Ⅱ群の「路上と支援を行き来している層」に関しては、これも病気や障がいなどにより、支援につながってもうまくいかない、また、個室のシェルターや適切に金銭管理等の支援をおこなえないなど、行政機関の用意できる支援では不十分であることによって「自分で失踪してしまう」と思われてしまう人たち等が当てはまる。

Ⅲ群の「不安定就労&不安定住居層」の人たちは、比較的若い人たちで、就労は可能でも同じく見えづらい病気(難病だったり発達障害だったり)を持っていたり、また、ネットカフェや脱法ハウスなど、不安定な住居で生活しながら、不安定な就労を転々としている人たちである。

このように、「ホームレス状態」にある人のおかれている状況や背景は、現場レベルの聞き取りのなかでは、多様化・複雑化している。

例えば、見えにくい困難さを抱えたⅠ群やⅡ群のような人を、既存の就労支援ありきの「ワークファースト」型の制度のメニューでは支えられないことは明らかである。

そもそもが、就労するのが難しい状況の人も含まれるだろうし、それに制度利用するにしても、既存の公的なシェルターや宿泊施設等は複数人部屋だったり環境がよくないところが多く、精神障害や知的障害を抱えた人などは、利用するのが難しい場合も多い。

また、同じく、Ⅲ群の人たちのように、脱法ハウスや寮付派遣などの不安定住居層・住居喪失予備軍の人たち(E群・F群の人たち)は、既存の支援のメニューでは「自立している」とされ、そもそもが、制度にも捕捉されない可能性も高い。

国の「ホームレス」への方針

2013年「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」によれば、今後、ホームレス支援においては、

・固定・定着化が進む高齢層に対する支援

・再路上化への対応

・若年層に対する支援

が必要とされている。

参照:ホームレスの自立の支援等に関する基本方針

http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/homeless08/pdf/data.pdf

この上記3分類は、「ふとんP」の相談者を3分類したもの(Ⅰ群~Ⅲ群)と合致している。

しかし、基本方針には、

「就業の機会が確保されることが重要であり、併せて、安定した住まいを確保することが必要である。」

とも書かれている。

先ほど見てきたように、Ⅰ群~Ⅲ群の人は、すぐさま就労というよりは、医療福祉的なサポートや、安定した住まいの提供などの支援が、まず優先されるべき状況であることがほとんどだ。

一方で、既存の制度では、例えば、路上生活者のための自立支援センターなどは、そもそもが、就職活動をおこなうための制度となっている。

そして、2015年からスタートする予定の「生活困窮者自立支援法」による各事業も、基本的には稼働できるか/できないかによる「就労ベース」での制度となっている。

参照:新たな支援制度の実態とは――生活困窮者自立支援法の問題点/大西連

https://synodos.jp/welfare/5308

このように、既存の制度は、「就労自立」が前提なっており、国もその方針を変えていない。それは、「ホームレス自立支援法」も「生活困窮者自立支援法」も同じである。

しかし、「就労自立」を前提とした従来の制度で、Ⅰ群~Ⅲ群の「ホームレス状態」の人を支えることができるのだろうか。

いま必要な支援とは

「ホームレス自立支援法」が成立して12年が経つ。社会状況の変化にともない「ホームレス状態」の人たちが既存の定義の枠組みをこえて多様化し、拡がりをみせ、従来型の制度のメニューでは対応しきれなくなっている。

しかし、一方で、これまでの定義の「ホームレス」に関しては3分の1以下に減少した。これをどう評価するかは難しいが、既存の制度の成果は一定程度あったと言っていいだろう。しかし、少し逆説的な言い方をすれば、既存の制度で支えられない状況の人、こぼれてしまう人が路上に残っている、と言うこともできる。

そして、その人たちは、先述したⅠ群の人たちのように、見えづらい困難さ、病気や障がい(精神障がいや知的障がい、アディクションなど)を抱え、より困難な状況におかれている場合が多い。

そんな彼ら・彼女らを、従来型の就労ありきの制度で支えていくことはできるのだろうか。

いや、それは難しいだろう。

いま必要なのは、一人ひとりの状況に応じた医療福祉的サポート、個室のシェルターの設置やアパートへの円滑な入居支援等の転宅支援、そして継続的に地域で生活を維持していくことができるような支援を、柔軟にかつ迅速におこなっていけるような制度を作っていくことだ。

よくこういう提案をすると「お金がかかる」「人手が足りない」といった当事者のニーズを無視した意見や、「怠けている」「本人の頑張りが足りない」などと言った自己責任論に回収されてしまうのだが、そろそろ具体的にどう問題を解決していくか、という視点にたって、真剣に考えなければならない状況になっているのではないだろうか。

ホームレス支援の今後

「ホームレス自立支援法」は恒久法ではなく時限立法(期限つきの法律)であり、もし延長されなければ2017年には切れてしまう可能性がある。そして、2017年といえば、昨年成立した「生活困窮者自立支援法」の施行期日でもある。

もちろん、2017年までに「ホームレス」をとりまく諸課題が解決されていればわからないが、もし解決されていなかったとして、仮に「ホームレス自立支援法」はなくなり、実際の支援のメニューの一部が「生活困窮者自立支援法」に組み込まれることがあるとすると、それはいかがなものだろうかと思う。

既存の「ホームレス自立支援法」も「生活困窮者自立支援法」も「就労自立」を前提にしたものである。であるならば、「ホームレス自立支援法」で支えられなかった人は、同じ前提で動く「生活困窮者自立支援法」でも支えられないのは明らかだ。

これまでやってきたことで支えられないのであれば、やれていなかったことや、新しいことにチャレンジして変えていくしかない。

そういった意味でも、貧困の実態、「ホームレス」の実態について、調査分析を進め、時代にあわせて、実情にあわせたものに、そして何よりも一人ひとりの「ホームレス状態」の当事者の声に耳を傾け、どういった制度を作っていくのか、認識や知見をアップデートしていくことが求められる。

「ホームレス概数調査」によれば、「ホームレス」は減少している。しかし、それは、「ホームレス問題」のフェーズが移行したことを端的にあらわしている。いま路上に残っている人たちをどう支えていったらいいのか。そして、多様化し、見えづらい「ホームレス状態」の人たちをどう支えていけるのか。

2017年に、私たちは「ホームレス問題」を切り捨てるのか、それとも、新しい「ホームレス支援」のフェーズに勇気をもって踏み込んでいくのか。いま、私たちは岐路に立たされているのかもしれない。

参照:

日本のホームレスの現状と課題/もやい・大西連氏インタビュー https://synodos.jp/welfare/3559

2020年東京オリンピック――「ホームレス排除」のない社会を目指して/大西連 https://synodos.jp/society/6263

サムネイル「What’s the point?」kleuske

http://www.flickr.com/photos/kleuske/8004416109

プロフィール

大西連NPO法人自立生活サポートセンター・もやい

1987年東京生まれ。NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わる。東京プロジェクト(世界の医療団)など、各地の活動にもに参加。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言している。初の単著『すぐそばにある「貧困」』(ポプラ社)発売中。

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