2025.04.11

『インフォーマルな政治の探究 政治学はどのような政治を語りうるか』松尾隆佑ほか

吉田徹ヨーロッパ比較政治

インフォーマルな政治の探究 政治学はどのような政治を語りうるか

著者:松尾隆佑ほか
出版社:吉田書店

どんな学問もそうだが、政治学に固有の難しさがある。それは、そもそも「政治って何?」という問いに明確に答えるのが難しいからだ。もちろん、議会、政党、選挙などは分かりやすい対象かもしれないが、ではこの本が対象としているような、外国人問題や社会運動、暴動、ジェンダー、コミュニティ運動などが政治ではないとは誰も言い切れない。

本書はこれまで政治学が等閑視してきたような対象を「インフォーマルな政治」とくくることで、対象やトピック、政策への理解を深めるとともに、それらを貪欲に「政治」として捉えようとする意図に貫かれている。

例えば、市民社会の大きな力としてもはや定着しているNPOだが、ではそのNPO内部の民主主義はどうなっているのか。日産とルノーの企業間関係は、国際政治とどの程度まで類似しているのか。不妊は社会の問題でもあるにもかかわらず、なぜ個人の問題に矮小化されがちなのか。社会運動への参加は様々に議論されるのに対して、そこからの「離脱」はなぜ問題視されないのか。

場合によってはフィールドにも飛び込んで、どれも「尖った」対象と問いから「政治」の外延を広げていこうとする野心的かつ不可欠な研究が並んでいる。

「対象は経験的に変化しうるため、学問分野は対象それ自体ではなく、対象のうちに何を認識しようとするのかという、関心の共通性に支えられる必要がある」――おそらくその「関心の共通性」が維持されれば、政治学固有の難しさは必ず乗り越えられるはずだ。

プロフィール

吉田徹ヨーロッパ比較政治

東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学博士課程修了、博士(学術)。現在、同志社大学政策学部教授。主著として、『居場所なき革命』(みすず書房・2022年)、『くじ引き民主主義』(光文社新書・2021年)、『アフター・リベラル』(講談社現代新書・2020)など。

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