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2020.09.15

全国学力テストの失敗は日本社会の縮図である――専門性軽視が生み出した学力調査の問題点

川口俊明

道徳、この教育し難きもの

神代健彦

懐疑的で楽観的な哲学――プラグマティズム

大賀祐樹

世界の知性は新型コロナウイルスをどう見ているのか

平井和也

誰が、なぜ、どこに基地を隠したか

川名晋史

「空洞」の消滅──現代日本「動物」文学案内(4)

石川義正

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「αシノドス vol.279」をお届けします。

最初にお知らせです。今週19日14時から、伊藤隆太さんをお招きして「シノドス・トークラウンジ」を開催いたします。

・なぜ国家は戦争をするのか?――進化政治学から迫る / 「シノドス・トークラウンジ」02 伊藤隆太 / 橋本努+芹沢一也(聞き手)

さて、今号の最初の記事は、『全国学力テストはなぜ失敗したのか』を刊行した川口俊明さんへのインタビュー「全国学力テストの失敗は日本社会の縮図である――専門性軽視が生み出した学力調査の問題点」です。2007年から実施されている「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)をめぐっては、さまざまな問題点が指摘されていますが、その根本にあるのは、そもそもこのテストを何のために行うかという基本的な理解が不足していることだと川口さんは言います。そして、もっとも大切なのは「アカデミックな専門性を尊重するという姿勢」を確立すること。もすごくシンプルな目標なのですが、途方もなく前途多難なのは、シノドスをやっていて日々感じます。

ついで、神代健彦さんによる「学びなおしの5冊 道徳、この教育し難きもの」です。道徳教育を全肯定することも、あるいは全否定することも不毛でしょう。何らかの道徳教育はどのような共同体でも必要ですし、またそうであるなら、「道徳教育は、まあ必要、でも、教えたからってねらい通りにみんな立派になるわけでもないけどね、ま、ぼちぼちできることをやっていきましょう」というスタンスがちょうどいいところではないでしょうか。こうしたスタンスから神代さんが選ぶ5冊、戦前の陸軍将校の教育にみる内面のコントロールの不可能性から、ひ弱な理性を道徳的設計によって救い出す選択的アーキテクチャまで、どの書籍も必読の5冊になっています。

そして、大賀祐樹さんによる「懐疑的で楽観的な哲学――プラグマティズム」。昨今はどうも人々がそれぞれの正義を主張し合う中、社会がぎすぎすしてきていると多くの人が感じているかと思います。少しでも気にくわないところがあると、誰かや何かを全否定してみたり。しかし、もっと「ゆるく」いながら、希望を失わずにいることも可能ではないでしょうか。そこでぜひ思い起こしてほしいのが、「問題があるのであればそれを解決して、少しずつでも改善していけば良い」とする、プラグマティズム哲学の存在です。絶対的な正義を疑いながらも、相対主義に陥りシニカルになることなく、前に進もうとする希望を決して失わないこと。プラグマティズムはいまの社会にこそ、必要な哲学ではないでしょうか?

ついで平井和也さんの連載、今月は「世界の知性は新型コロナウイルスをどう見ているのか」。今回、世界の知性として取り上げたのは、ポール・クルーグマン、ジャレド・ダイアモンド、ユヴァル・ノア・ハラリの3人です。アメリカのコロナウィルス・パンデミック対応のトランプ政権の失敗を語るクルーグマン、世界が無知であるコロナウィルス・パンデミックに対して、成功例を学ぶことの重要性を説くダイアモンド、人類が直面している世界的危機に、各国政府がどのような決断をするのかが、これからの世界を形成すると述べるハラリ。とくに、ハラリの「全体主義的な監視かそれとも市民の能力強化を選ぶのか、またナショナリストの孤立か世界規模の団結を選ぶのかという二つの重要な決断を迫られている」という言葉は重いですね。

基地問題の重要性については論じるまでもないですが、しかしその歴史的経緯についての知識はあまり共有されているとは言えないでしょう。先日、『基地の消長 1968-1973―日本本土の米軍基地「撤退」政策』を刊行した川名晋史さんに、「誰が、なぜ、どこに基地を隠したか」をお書きいただきました。丹念に歴史的資料を狩猟することで浮かび上がるのは、さまざまな思惑が交錯しながら、沖縄に基地がうつされていく狡猾な過程です。沖縄にある基地を必然的なものとする議論がありますが、「米軍基地は本土の人々の視界から遠ざかり、この問題の中心は本土から沖縄へと移った」この歴史的経緯を読んで、ぜひその是非を考えてみてください。

最後は石川義正さんの連載、「「空洞」の消滅──現代日本「動物」文学案内(4)」です。今回取り上げるのは、2014年に『春の庭』で芥川賞を受賞した柴崎友香さんの新刊『百年と一日』です。“一つの時代の終わり”という感覚を読者に強く触知させるというこの小説、「わたしたちの生の偶然性や空虚さといった感覚が、ここでは祖父母から両親、そして「わたし」自身の存在へ連なる時間と空間の広がりとして知覚されている」と言います。このような感覚を味合うことのできる瞬間というのは、小説が与えてくれる至福の瞬間のひとつですよね。

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