「小さな政府」という誤解

国家介入時代の「資本vs労働」の政策対立

 

こんなことを言うと古くさく聞こえるかもしれませんが、資本主義経済であるかぎり、おおぜいの人を雇って働かせて、機械や工場などをどんどん大きくしていく立場の人と、自分で食べていくための財産が何もなくて、人に雇われて働かされて生きていくほかない人との間の本質的な利害対立は決してなくなることはありません。前者は「資本側」、後者は「労働者側」と呼ばれます。

 

賃金をケチって従業員の安全コストやなんかを削れば削るほど、利潤がもうかって事業を拡大できます。社会全体で見れば、労働者たちの手にする消費財を作るための人手の配分を減らせば、機械や工場の拡大分を生産するために、たくさんの人手をかけることができます。その配分の仕方がスムーズにちょうどいいものになる保証はなにもありません。景気の良いときや悪いときを繰り返す中で、資本側と労働者側がお互い全力で引き合いを続けることで、長い目でならして見て、その時代時代のバランスが実現されるわけです。

 

70年代までの政府介入的な経済システムでは、その上に、政府の介入を自分たちの側に有利なものにしようという、資本側と労働者側の争いがありました。アメリカでは軍需産業の資本家がとっても大きな力を持っていましたから、たくさん軍事支出をしてもらおうと圧力をかけていました。日本の場合は、公共事業でもうけたいと、いろいろな業界団体の資本家が圧力をかけていました。

 

それに対して、西ヨーロッパや北ヨーロッパでは、労働者たちが労働組合に結集して、社会民主主義政党をバックアップして、しばしば選挙に勝って政権につけたりして、政府支出を福祉にまわすように力をかけました。日本では労働組合がバックアップした社会党は結局万年野党第一党で、政権はとれませんでしたが、国会で予算などを話し合うときに交渉して、福祉などへの政府支出をなんとか不十分ながら確保してきました。

 

まあそれぞれの国で、国家介入の振り向け先をめぐって、それなりの力を尽くした労資の引き合いがあって、それなりのバランスを実現していたわけです。

 

 

「転換X」に則した政策路線を打ち出せていない労働側

 

このような体制が崩れて、「転換X」が起きたとしても、資本側と労働者側の対立がなくなるわけではありません。「転換X」後の社会にふさわしいようなやり方が、資本側には資本側で、自分たちに有利な経営方式や政策があるように、労働者側にも自分たちに有利になるような闘い方や政策があるのです。

 

ところが実際には、最初に「転換X」に多少とものっとってとられた政策路線は、新自由主義しかなかったわけです。圧倒的に資本側に有利なやり方ですよね。労働者側である左翼勢力は、「転換X」にのっとった路線を打ち出したわけではなく、この転換そのものに反対してしまったわけです。

 

「転換X」自体は、経済やテクノロジーの上でのどうしても必要な事情がもたらしたものですので、これに逆らっていては資本側に勝てるはずがありません。左派的な政治勢力の衰退とか、労働運動の連敗とか、労働組合の組織率の低下とか、そんなみじめな結末になってしまったのは当然なのです。

 

じゃあ、というわけで、やっぱり世の中の転換はふまえないといけないという反省から、反保守系の政治勢力や既存労働組合リーダーが走ってしまったのが、ブレア・クリントン・日本民主党の路線だったというわけです。そこではやっぱり「転換X=小さな政府」という誤解は変わってなかった。だから、多少マイルドにして、犠牲になる大衆を気にしながら、おずおずとそれを推進するという具合になります。資本側にとっては、「小さな政府」はだいたいは利益になったかもしれませんけど、労働組合側が「小さな政府」と言っちゃったら、自分の首を絞める結果になるのはあたりまえです。

 

かつて新自由主義路線に対しては、社会党や共産党のような旧来の左派勢力が反発しましたけど、負けてしまって衰退しました。そしてブレア・クリントン・日本民主党の路線に対する反発は、今度は、極右ポピュリストを台頭させています。ヨーロッパでも、極右ポピュリスト政党は、最初は新自由主義者のすごいやつとして出てきたのですが、伸びてくるとたいてい内紛を起こして分裂します。人間関係がらみでゴチャゴチャすることもありますが、だいたいは、市場自由化をピュアに推進しようというものと、国家共同体を守ろうという民族主義的なものに分かれることで落ち着き、後者が伸びていきます。北欧の極右政党は、今日では高度福祉国家の擁護派です(*2)。その福祉を自民族に限ろうという点が、旧左翼と違うだけです。

 

(*2)宮本太郎「新しい右翼と福祉ショービニズム──反社会的連帯の理由」、 斉藤純一編『福祉国家/社会的連帯の理由』第2章、ミネルヴァ書房、2004年。

 

これもやはり、「転換X」そのものへの反発です。だから、やっぱりこの人たちが成功するはずはないのですが、その決着がつくまでには、ひと波乱もふた波乱もあって、大きな犠牲がでてしまうかもしれません。

 

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2 3 4
シノドス国際社会動向研究所

vol.256 

・熊坂元大「「道徳教育」はこうすれば良くなる」
・穂鷹知美「終の住処としての外国――スイスの老人ホームにおける 「地中海クラブ」の試み」
・徳山豪「アルゴリズムが社会を動かす」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(1)――シンクタンク創設への思いとその戦い」