「小さな政府」という誤解

「転換X」を見極めることは資本側にとっても重要

 

こんなことにならないためには、「転換X」の正体をはっきり突き止めなければなりません。

 

もちろん私自身にとっては、労働者側に立ちたいという立場性を隠すつもりはありませんので、このことはとりわけ重要です。「転換X」にのっとりながら、なおかつ真に労働者側に立つ政策路線が意識的に打ち出されたことはいままでなかったのですから。

 

しかし別にそんな立場性に立つつもりのない人にとっても、これは大事なことです。新自由主義にしても、「転換X」をばっちりふまえた資本側の政策路線かと言えば、そんなことはまったく言えないからです。やっぱりたくさんの本質的な誤解をしていて、それがいろんな混乱をもたらしてきました。それは資本側にとっても困ったことです。

 

経済やテクノロジーや暮らしのあり方が新しいものに変わったとき、それにばっちりふさわしい政策路線にやがて変わることが運命づけられているのかというと、そんなことはありません。ズレた政策がとられたからといって、人類滅亡するわけでもありません。ただ、混乱や不要な犠牲が起こるだけです。

 

新自由主義もブレア・クリントン路線も、いっぱいズレたことがあるのですが、他に「転換X」をふまえた適当な政策路線がなければ、混乱や不要な犠牲をたくさん生み出しながら、延々持続するでしょう。「ハルマゲドン(大破局)の暁に輝く未来が来る」などと夢想しないことです。

 

だから、「転換X」の正体を見極め、それにもっとフィットした政策路線を打ち出すことは、資本側にとっても労働者側にとっても、混乱や不要な犠牲を少なくする、みんなにとっていいことです。ともに手を取ってこれが実現できたならば、「転換X」後の土俵の上で、すっきりと労資の利害をかけて全力で引き合いすることができます。

 

しかし資本側が現状の新自由主義路線について、時々矛盾に悩まされるけど、総じてこれでトクしているからいいや、などと満足して、これを「転換X」にもっとフィットしたものに変えようとしないならば、あるいはそれどころか、「転換X」以前のやり方に個別利害を感じて、かえって逆行しようとするならば、そのときには、労働者側だけが「転換X」の正体に則した政策路線を打ち出せば、たとえそれが労働者側の利害にかたよったものであっても、他にもっと「転換X」の正体に合致した対案がない以上は、それが最も人々の暮らしを満足させるものとなり、世界に通用する政策として実現されることになります。

 

というわけで、これからこの連載で、この「転換X」の正体を探っていくことになります。そのためには、70年代までの政府介入型のシステムが、なぜ行き詰まってしまったのかを解明しなければなりません。そして、それを解決するための要点が何かを把握しなければなりません。

 

当時これを究明したのが、反ケインズ派の経済学者たちや、ソ連・東欧体制での体制批判派の経済学者たちでした。この人たちの主張が嫌いな読者のみなさんはたくさんいらっしゃると思いますが、この人たちが1970年代までのやり方を批判したときの分析には見るべきものがあります。的を射た分析だったからこそ、言った通りに本当に行き詰まって崩壊したわけですし、その学説がケインズ派などを押しのけて説得力を持って広がったわけです。

 

そして、いまから見てみると、この人たちの言う通りにしたと言っている新自由主義政策自体、実は、この人たちの旧システム批判の要点がそのままあてはまるという、根本的な矛盾を持っていて、そのことがこのかん様々なひどい問題を引き起こしたのだということがわかります。

 

次回からこれを見ていきましょう。

 

(本連載はPHP研究所より書籍化される予定です)

 

連載『リスク・責任・決定、そして自由!』

第一回:「『小さな政府』という誤解

第二回:「ソ連型システム崩壊から何を汲み取るか──コルナイの理論から

第三回:「ハイエクは何を目指したのか ―― 一般的ルールかさじ加減の判断か

第四回:「反ケインズ派マクロ経済学が着目したもの──フリードマンとルーカスと『予想』

第五回:「ゲーム理論による制度分析と「予想」

第六回:「なぜベーシックインカムは賛否両論を巻き起こすのか――「転換X」にのっとる政策その1

第七回:「ケインズ復権とインフレ目標政策──「転換X」にのっとる政策その2

第八回:「新スウェーデンモデルに見る協同組合と政府──「転換X」にのっとる政策その3

 

サムネイル「£10 pound notes」Images Money

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