反ケインズ派マクロ経済学が着目したもの──フリードマンとルーカスと「予想」

合理的期待で予想される「バブル」

 

さてその後、合理的期待や完全予見による将来予想形成を前提することは、市場メカニズム万歳論とは関係なく、それによって市場の不安定性を示すこともできるとする研究が普通に生み出されていくことになります。

 

それがはっきりと示された最初の研究の一つは、「合理的バブル」のモデルだったと思います[*14]。

 

株を持っていたら、その株の会社が利益を上げたらそれが配当としてもらえます。土地を持っていたら、それを誰かに貸して事業に使ってもらったら、地代がもらえます。そしたら、株の価格や土地の価格は、本来だったらどうやって決まるかと言うと、そうやってもらえる配当や地代が、あたかもなんらかの資金を銀行に預けたときにもらえる利子とみなしたときの、その預ける元手の資金額と同じになるように決まります。このような価格を「ファンダメンタルズ」と言います。

 

ところが、株や土地は値上がりすることがあります。値上がりして、買ったときの価格よりも高く売れたら、その差額分は配当や地代にプラスするもうけになります。そうすると、値上がり分もプラスしたもうけを、あたかも利子と見立てた元手の資金額で、株や土地の価格が決まります。これは当然、「ファンダメンタルズ」よりも高くなります。このファンダメンタルズよりも高くなった分が「バブル」と呼ばれます。

 

さてそうすると、人々が株なり土地なりの何らかの資産について、価格がファンダメンタルズを離れて一定率で上昇し続けるという予想を持ったとしましょう。その値上がり分を含めたもうけから計算される毎期の資産価格が、ちょうどこの一定率で上昇する価格の予想とつじつまが合っていたら[*15]どうなるでしょうか。

 

仮に一時的に資産価格がこの予想の価格よりも下がったとしましょう。たとえ自分では、それはファンダメンタルズに近づく正常化の動きだと思っていたとしても、他の人々がいままでどおりの値上がり予想をしていると思うならば、それを売ってしまうことは得策ではありません。人々はその資産を、安値の買いときだと判断するでしょう。同じおカネをかけるならば、銀行に預けるよりそれを買った方がもうかると判断し、自分もそれを買いに走ります。実はみんな同じことを考えて買いに走るので、結局その資産の価格は、もとの予想された価格に戻ります。「バブル」が一種の均衡になるのです。

 

つまり、人々がバブルを予想して、それに基づいて各自自分が最適になるように行動すると、その合成結果が予想通りのバブルを生み出してつじつまが合ってしまい、そこからはずれることができなくなるということです。

 

でも、本来社会的ニーズのあまりない事業だったのに、その会社の株がバブってどんどん値上がりしちゃったら、会社はそれで簡単に資金調達してしまい、労働や生産手段などの生産資源を、本来の社会的ニーズ以上に過剰に吸収してしまうかもしれません。主流派経済学者の好きな言い方で言えば、「資源配分の効率性」が壊れちゃうということです。こんなことはいつまでも続くことはなく、いつかはバブルははじけちゃうのですが、でも誰もそれを止めることができないということになります。

 

私が昔大学院時代に最初に「合理的バブル」という言葉を聞いたときには、「なんちゅうクダラナい概念や」と思ったものです。「バブル」というものは、合理的期待や完全予見で予想されるものではなくて、何かもっと非合理な思い込みだというところに問題点の本質があるように思ったわけです。

 

ところがそれは違ったわけです。単なる非合理な思い込みでバブルが起こるものならば、人々が賢くなってそんな思い込みをしなくなればバブルは起こらないことになります。いざバブルが起こっても、「これはバブルだよー」と経済学者が叫べば、バブルはたちまちストップするはずです。

 

しかし、「合理的バブル」の理論が示しているのは、もっと深刻な事態です。みんなこれはおかしいと思いながら、しかし、自分が少しでもマシになるように、みすみすチャンスを棒に振らないように、冷静合理的に振る舞ったならば、その結果としてバブルを推進するということになる。しかもそれが予想通り当たっているわけだからはずれることができないということです。どんなに頭のいい合理的な人たちであっても、個々人の努力やモラルに任せるかぎりは、ここから逃れることができないという事態です。

 

勘のいい読者はおわかりのとおり、これは、「ゲーム理論」で説明されている事態と同じです。

 

今回は、主に1980年代以降、マクロ経済学の分野で隆盛した、フリードマンやルーカスさんの理論を見ました。その要点は、「予想は大事」ということでした。

 

一方、その同じ1980年代、ミクロ経済学の分野では、「ゲーム理論」と呼ばれる手法が爆発的に発展を始めていました。そしてやがてこの手法によって、制度や慣習など、従来は社会学や法学の分野に扱いがまかされていたようなものが分析されるようになります。

 

そしてここでもキーワードは、「予想は大事」ということになります。次回はこのことを見ていきましょう。

 

[*14]解説は、Brunnermeier, “Bubbles,” The New Palgrave Dictionary of Economics, 2008.http://www.princeton.edu/~markus/research/papers/bubbles_survey.pdf

 

[*15]資産価格(のバブル部分)の上昇率がちょうど利子率に等しければそうなる。これは期待値が利子率に等しければいいので、実現した上昇率が利子率よりも高いことはあり得る。

 

 

連載『リスク・責任・決定、そして自由!』

第一回:「『小さな政府』という誤解

第二回:「ソ連型システム崩壊から何を汲み取るか──コルナイの理論から

第三回:「ハイエクは何を目指したのか ―― 一般的ルールかさじ加減の判断か

第四回:「反ケインズ派マクロ経済学が着目したもの──フリードマンとルーカスと『予想』

第五回:「ゲーム理論による制度分析と「予想」

第六回:「なぜベーシックインカムは賛否両論を巻き起こすのか――「転換X」にのっとる政策その1

第七回:「ケインズ復権とインフレ目標政策──「転換X」にのっとる政策その2

第八回:「新スウェーデンモデルに見る協同組合と政府──「転換X」にのっとる政策その3

 

(本連載はPHP研究所より書籍化される予定です)

 

サムネイル「Milton Friedman for PIFAL」Arturo Espinosa

http://www.flickr.com/photos/espinosa_rosique/8452089632/

 

 

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・打浪文子「知的障害のある人たちと「ことば」」

・照山絢子「発達障害を文化人類学する」
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・戸谷洋志「トランスヒューマニズムと責任ある想像力」
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・山本章子「学びなおしの5冊 「沖縄」とは何か――空間と時間から問いなおす」
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