特定秘密保護法Q&A

Q3.「特定秘密」の対象となる情報はどのようなものですか?

 

「特定秘密」の対象となる情報は、法3条1項によると次の通りです。

 

 

(1)【別表各号該当性】当該行政機関の所掌する事務に係る、別表に掲げる事項に関する情報で[*8]

(2)【非公知性】公になっていないもののうち

(3)【特段の秘匿の必要性】その漏えいが国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあり、特に秘匿することが必要であると、行政機関の長が判断したもの

 

 

「行政機関の長」が必要と判断して特定秘密とできるところ、その判断の妥当性を担保する仕組みがないことに、多くの批判が寄せられました。第三者機関等について、目下、検討が進められています。

 

[*8](1)における「別表に掲げる事項に関する情報」という言い回しについて、防衛秘密については、「別表に掲げる事項」であることに注意を払っておきたいと思います。【逐条解説】でも「事項」でした。それは「事実、情報、知識その他一定の内容の集合体たる無体物」と説明されています。しかし成立した法律では、「事項に関する情報」となったのです。意識的な変更でしょう。「事項」よりも広い範囲が指定の対象となる危険性があると考えられます。

 

 

■別表方式は秘密を限定できるか?

 

別表の概観と簡単な検討をしておきます。

 

別表では、「防衛に関する事項」、「外交に関する事項」、「特定有害活動の防止に関する事項」「テロリズムの防止に関する事項」について、項目が列挙されています。

 

このような「別表方式」は、どのくらい秘密を限定する力を持つでしょうか。

 

別表の「防衛に関する事項」として掲げられている10の項目は、防衛秘密(自衛隊法96条の2)について自衛隊法の別表第4に掲げられている項目と同じです(防衛秘密はそのまま特定秘密に横滑り)。

 

そこで、別表方式が秘密を限定できるかという問題を考えるに当たっては、防衛秘密制度のもとでの防衛秘密の件数・点数の実績が参考になりましょう。

 

防衛秘密は着実に増えてきました。しかも、まったくといってよいほど、解除されてきていないうえに、大量に廃棄されていることが明らかになっています。

 

2013年10月3日のNHK「ニュース7」では、2007年から2011年まで、防衛秘密の指定件数は約55000件であるところ廃棄は34300件であり、過去10年間で解除は1件であると報道されました[*9]。

 

また、秘密の指定と解除について、長妻昭衆議院議員によって提出された、「防衛省の秘密解除後の文書公開と破棄に関する質問主意書」(平成25年11月18日提出)に対する答弁書(2013年11月26日)では、省秘、防衛秘密、特別防衛について、件数(原本の数)及び点数(原本及びその複製物の合計数)、解除された件数・点数等が確認できます。

 

この答弁書のなかから、防衛秘密の件数及び点数、防衛秘密の指定が解除された件数・点数について抜き出すと、次の通りです(平成25年11月26日時点の情報)[*10]。

 

 

2

 

 

以上から、防衛秘密が増えてきていること、解除された例ないに等しいことなどが分かります。「別表で掲げる事項」として秘密を絞っているようでも、その限定する力には疑問が抱かれると理解できるでしょう(→「Q6.どのくらいの期間、秘密指定されるのでしょうか?」)。

 

[*9]このニュース報道の取材に協力した情報公開クリアリングハウス理事長・三木由希子氏ブログ参照 http://johokokai.exblog.jp/20799641/

 

[*10]さらに問題と思われるのは、同答弁書によると秘密指定が解除された文書であっても、「公にすることにより、防衛省の業務の遂行に支障を与え、国の安全が害されるおそれがあるなど、取扱いに注意を要するもの」があり、それらは件数・点数について集計していないという点です。防衛秘密指定が解除されても、なお「秘密」であり続けるものが存在するようです。

 

 

■警察の情報

 

さて本法は、「防衛」・「外交」といった、これまで伝統的に秘密と密接なつながりを持ってきた領域に加えて、「警察」の所管する情報も特定秘密の対象として組み込んでいる点に特徴があります。

 

公安警察が各種の情報収集に本業として携わっていて、そこにはかなりきわどい情報が多数含まれていることは、広く知られています(共産党幹部盗聴事件、ムスリム捜査事件等)。また、後にも触れる「適性評価」について、本人から提出された情報が本当かどうかを確かめるのは、公安警察や情報保全隊の役割になると見られています。その調査対象者の規模は、数万人となるのではないかといわれています(東京新聞2014年1月9日)。

これらを考え合わせると、警察の所管する情報が特定秘密として特別な保護の対象となることは、かなり大きな問題を抱えているといえます。

「特定有害活動の防止に関わる事項」の「特定有害活動」について、定義を確認しておきます。これは、簡単にいえば、スパイ活動です。

 

法12条2項1号は次のとおりです。

 

 

「公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機又はこれらの開発、製造、使用若しくは貯蔵のために用いられるおそれが特に大きいと認められる物を輸出し、又は輸入するための活動その他の活動であって、外国の利益を図る目的で行われ、かつ、我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれのあるものをいう」

 

 

このなかには、現在、外為法(注:経産省所管)によって行われている安全保障目的での輸出入管理に関わる事項が含まれていることに注意を払っておきたいと思います。

 

テロリズムについても、同じく法12条2項1号に定義があります。

 

それによると、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう」です。

 

下線を引いた部分が独立して「テロ」とされる余地があると批判されていたところ、自民党・石破茂幹事長がご自身のブログで、デモでの「絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」として、大きな問題となりました(その後に撤回されています)。

 

 

■都合の悪い情報と秘密

 

ところで、都合の悪い情報ほど秘密に指定されやすく、情報公開の対象にされにくいことを、私たちは経験的に知っています。

 

たとえば自衛隊のイラク派遣について、当初防衛省は活動内容に関する文書の情報公開請求に対して、国の安全が害される恐れがあるとして非開示としていました。

 

しかし2009年9月に、民主党への政権交代の後に開示された文書(『週刊空輸実績』)から、自衛隊の行動の具体的内容が明らかになりました。

 

空輸活動の約7割が、武装米軍兵士の輸送であったのです。

 

これは憲法9条についての政府解釈にも抵触することは明らかでした。

 

なおイラク派遣については、名古屋高等裁判所によって、「政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても」、9条1項違反であると判断されています(名古屋高判平成20・4・17判タ1313号137頁)。

 

官僚組織が、政策の失敗や違憲・違法な行為を隠せないようにするためには、内部告発者の保護制度がきちんと存在することが重要なポイントです。Q4でも述べるような適性評価制度が導入されるのですから、より一層、このことは重要です。しかし、成立した特定秘密保護法は、このような方面への配慮に欠けています。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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