特定秘密保護法Q&A

Q5.秘密を漏えいした場合の罰則について教えてください。

 

罰則については、法7章に規定されています。

 

秘密が明らかになる経路を、刑罰の威嚇によってすべて断とうという、強い意志が感じられます。

 

公務員など特定秘密を取り扱う業務に従事している者や、提供を受けて知得した者等からの秘密の漏えいだけでなく(23条1項、2項)、出版又は報道関係者や市民が秘密を取得するといった行為[*12]についても、罪としています(24条1項)。

 

またこれらの未遂も処罰されます(23条3項、24条2項)。過失によって漏えいしたときも処罰されます(23条4項、5項)。漏えいや取得行為の遂行について、共謀、教唆、又は煽動する行為についても処罰されます(25条1項、2項)。

 

以上のように、秘密保護のための「水も漏らさぬ」罰則規定が設けられているといえます。しかも、法定刑が最高で懲役10年(特定秘密の漏えい・取得行為)と、重い刑罰の威嚇によって、これを確保しようというものです。自衛隊法の防衛秘密漏えい行為について見れば、最高で懲役5年という現状から一気に2倍となるのです。

 

治安を維持するためには、《何か事が起こる前に抑え込む方がよい》という判断になりましょうが、いざそのようなことが完璧に目指されたら、戦前のわが国の治安法制がそうであったように、不可避に自由を制約することとなります。

 

本法が施行されると、すぐに片端から逮捕・起訴されて処罰される例が相次ぐわけではないでしょう。しかし警察、特に公安警察が正当に権限行使しうる領域が大きく広がったのです。報道機関や市民による十二分の監視が必要であることは、いくら強調しても、し足りません。

 

あるいは裁判所に期待する向きもあるかもしれません。しかし警察が動くすべての案件について司法的な判断がなされるわけではないのですし、「秘密」と「公開裁判の原則」は両立しない側面があります。さらに言えば、裁判所も権力機関であり、日本の場合には特に、裁判所が市民的自由の救済に大きな役割を果たすと期待することは、残念ながら難しいところもあります。

 

結局のところ、最終的には私たち市民の「目」や「口」が、恣意的な権力行使を押しとどめる最大の力となります。当面の課題は、広げられた警察権力の裁量の幅について、報道機関も含め、市民がきちんと批判的に検討して、権限を「枠づけする」ことにあるものと考えます。

 

[*12]取得行為について

 

特定秘密行為の取得行為を罰する法24条には、国会での修正により「目的」について絞りがかけられました。「外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的」という文言が加えられたのです。

 

しかしこの限定が捜査権との関係で有効であるのか、疑問です。というのも本文でも述べているように、本法の抱える問題の一つは、適法な捜査権行使の範囲がかなり広げられるところにあります。24条の「目的」の絞り込みは、捜査の違法性が後に裁判所により判断される際に効いてくるかもしれません。しかし捜査当局が「捜査の端緒」を見出す時点で見れば、実効的にこれを抑制するものではないと考えます。

 

 

■罰則についての議論について

 

罰則に関する議論を、これまで出された文書から振り返っておきたいと思います。

 

2000年に出された「秘密保全体制の見直し・強化について」という報告書では、罰則強化について種々の検討を要する法的問題点があるとしていますが、その一つに、「現行の自衛隊法においては、第122条に定める、防衛出動命令を受けた者で、上官の職務上の命令に反抗し、又はこれに服従しない者等に科せられる7年以下の懲役又は禁こが最高となっている」という「自衛隊法における罰則の体系」が挙げられていました。

 

そして、民主党政権下の第4回有識者会議で配布された資料「罰則等に関する考え方(事務局案・論点)」(2011年4月22日)[*13]によれば、特別秘密 (本法にいう特定秘密)漏えいへの最高刑について、防衛秘密漏えい行為に対する最高刑が懲役5年であるため5年とすることが妥当としていました。

 

そしてこの「考え方」ですが、興味深いことに、10年にするという案は、「特に現行の防衛秘密制度との整合性が問題となることから、その必要性や相当性についてさらなる検討が必要」としていたのでした。

 

つまり、わが国の法体系における「相場」としては5年だろうというのが、当初官僚の考えている内容であったらしいと分かります。

 

その「相場」観の形成にあたっては、憲法9条も影響を与えていたことに、留意しておきたいと思います。

 

自衛隊法は、政府解釈によれば、軍隊ではない実力装置、戦力ではない実力であり、軍法は日本にはありません。そこで自衛隊法で刑罰規定を設けることの意味とは何なのかと問われざるをえなかったのでした。

 

国家秘密の中の国家秘密といわれる「軍事機密」を意識した防衛秘密が最高刑5年で保護されてきて、国を揺るがす事件なども起こっていないところ、一気に2倍になったということは、自衛隊の性格にも波及してくる問題であるといえます。

 

なお、この点について【逐条解説】52頁は、次のような説明を試みています。

 

 

プレゼンテーション1

 

 

はたして、この理由づけは説得的でしょうか。「国及び国民の安全の確保」という言葉は有無を言わせぬ公益となりがちであるがゆえに、これを持ち出すのには慎重であるべきです。より説得的な理由づけが必要と考えます。

 

[*13]「罰則等に関する考え方(事務局案・論点)」は、「情報公開クリアリングハウス」による情報公開請求によって得られたものです。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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