特定秘密保護法Q&A

Q4.適正評価制度とはどんな制度ですか?

 

法5章は「適性評価」について規定しています。

 

行政機関の長が、特定秘密を取り扱う人について、取り扱うにふさわしいかどうかを評価し、漏えいするリスクのある人を排除する、というものです。

 

先にも述べたように、本法で導入される前から、法律上の根拠はないままガイドラインに基づいて、同じような内容の「評価」がされていましたが(その内容については後で触れます)、本法の「適性評価」はこれに法律上の根拠を与えるものといえます。

 

さて法12条第2項は、適正評価対象者について、次のような非常に広範な事項を調査することとしています。

 

 

・スパイ活動、テロ活動との関係(家族・同居人の氏名、生年月日、国籍、住所)

・犯罪及び懲戒の経歴

・薬物の濫用及び影響

・精神疾患

・飲酒の節度

・借金

 

 

適性評価は、上に述べた事項について調査がされること、そして調査を行うために必要な範囲内で、知人や関係者に照会されることなどについて(つまり、ウラをとるということ)、予め告知したうえで同意を得て実施されるとされています(12条3項)。また評価対象者が適性評価の結果や適性評価について、行政機関の長に対して苦情の申出をすることができるとされていて(法14条1項)、それによって不利益な取り扱いを受けない(同3項)とされています。

 

告知と同意、苦情申し立てと不利益取り扱いの禁止が実際に機能するためには、評価基準の公開等、一定の透明性が確保されている必要があるでしょう。しかし、それは特定秘密保護法の下で、きわめて困難と思われます。

 

というのも、現在なされている「秘密取扱者適格性確認制度」についても、「評価基準が公開されたら対抗措置がとられてしまうからダメだ」といった考えの下で、どのような制度なのか、秘密のベールに包まれているのです。秘密の保護を徹底して追及している本法が、急にこれまでのありようを改めるとは思われません。

 

内部告発者の保護の手当てもないなかで、「告知と同意」、「苦情の申し出と不利益な取扱いの禁止」が現実的たりうるのか、大いに疑問です。

 

 

■具体的な調査

 

具体的に、どのような調査項目でどのような情報が集められるのか、評価の基準や運用基準は何かについて、本法に詳細は書かれていません。先にも述べたように、現在の「秘密取扱者適格性確認制度」においても、これらは明らかにされていないのでした。

 

それでも、自衛隊の「身上明細書」や防衛産業関連企業の「身上調査書」が漏れ出て、一部の新聞等で報じられるところとなっています[*11]。

 

以下にその一部を書き出すように、実に詳細な調査が行われていることが窺われます。

 

 

・国籍

・学歴

・家族関係

・交友関係(高校同級生、幼なじみ、カラオケ仲間、つり仲間、飲み友達、相談相手など)

・海外渡航

・借金(借金額、借入目的、毎月の返済額など)

・所属団体(親睦団体からスポーツクラブ、その他あらゆる団体)

・病歴(アルコール依存、薬物濫用、治療またはカウンセリング歴)

 ……等

 

 

【逐条解説】を参照するに、「政令で定める調査事項」として、「学歴及び職歴に関する事項」、「国外に保有する資産」、「配偶者、家族及び同居人の氏名、生年月日及び住所並びに国籍に関する事項」が考えられるものとして挙げられています。

 

そして、職業や国籍といった社会的身分に関する項目が入っていることについて、「社会的身分等により特別秘密の取り扱いの可否を分けることが「法の下の平等」(憲法14条)に反するのではないか」、「内心の領域にあるものを調査事項としているのではないか」、という批判が想定されるとして、次のように合憲性を説明しています。

 

 

「適正評価制度では、特定の社会的身分にあることをもってではなく、評価対象者の具体的な行動その他の状況に照らして適性を評価することから、法の下の平等に違反しないと考えられる。」

 

「内心の領域にある信条、思想・良心や信仰そのものを調査事項とはしていないため、信条により差別されることはないことからも法の下の平等に違反しないとともに、内心を告白させることがないことから憲法が要請する思想・良心の自由及び信教の自由を侵害しないと考えられる。」

 

 

しかし考えるに、たとえば所属団体は、その人の抱いている思想や信仰する宗教と、きわめて密接な関係を有するものといえます。日本もレッドパージを経験しましたが、個人がどのような考えをもっているかについて、国家が土足で踏み込むようなことは決してしてはいけないというのが、過去に学ぶ私たちの共通の理解というべきなのではないでしょうか。

 

 戦後憲法学の一時代を築いた芦部信喜先生は、《憲法の保障する思想・良心が不可侵であること》の意味について、次のように説明しています。

 

「思想についての沈黙の自由が保障されること」、「国家権力は、国民が内心で抱いている思想について、直接または間接に訊ねることもゆるされないのである。」

 

国は「宗教と無関係な行政上・司法上の要請によっても、いずれの宗教団体に属するかなど、個人に信仰の証明を要求してはならない」(芦部信喜/高橋和之補訂『憲法(第5版)』(岩波書店、2011年)147―148頁、152頁。)

 

本法の下で予定されているであろう調査の憲法適合性は、極めて疑わしいものと考えています。

 

[*11]「しんぶん赤旗」2013年3月15日、朝日新聞2013年12月10日など。また井上正信「人びとの心の中まで支配する『適性評価制度』」世界2014年1月号129頁以下は、陸自と海自の「身上明細書」を検討しています。

 

 

■妥当性をどうやって確保するか?

 

適性評価の妥当性は、どうやって担保されるのでしょうか。この点で、政府・与党協議により公明党の主張を取り入れ、法18条として、次のような内容が付加されたことが注目されます。

 

 

・「特定秘密の指定と解除」と「適性評価の実施」について、統一的な運用を図るための基準を定めること(1項)

・その基準の設定と変更にあたっては、内閣総理大臣が有識者の意見を聴くこと(2項)

・内閣総理大臣は、毎年、「指定解除」や「適性評価の実施」状況を有識者に報告し、意見を聴くこと(3項)

・内閣総理大臣は、統一的運用基準に基づいて、内閣を代表して行政各部を指揮監督すること(4項)

・内閣総理大臣は、必要のあるときには、行政機関の長に特定秘密を含む資料の提出及び説明を求め、状況を改善すべき旨を指示できること(4項)

 

 

もっとも、これがうまく働くかといえば、大きな困難があるでしょう。

 

すでに、いまある制度について、「評価基準が公開されたら対抗措置がとられてしまうからダメだ」といった考え方が示されているところです。そういう考えが貫徹されるなら、官僚組織の外で実質的な議論がなされることは否定的と思われるからです。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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