福島レポート

2020.03.26

福島の甲状腺検査が学校で行われることの問題点とは?

基礎知識

東京電力福島第一原子力発電所事故の後、福島県は、原発事故当時18歳以下だった全県民を対象に、甲状腺検査を実施しています。

甲状腺検査は、県内在住の小中学生、高校生について、通学している学校で、授業時間の一部を使って行われます(以下「学校検査」)。学校検査は、福島県の県民健康調査検討委員会と甲状腺検査評価部会の委員や、検査の現場を知る福島県立医科大の研究者などにより、問題があると指摘されています。

甲状腺検査を受診する子どもや保護者が「受けなければならない検査である」(強制性のある検査である)と誤解するおそれがあるためです。

学校検査は市町村の教育委員会から要望を受けて実施されています。(https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/295103.pdf 平成30年10月29日第11回甲状腺検査評価部会)。

学校検査は、30万人を超える子どもに対して検査を行う実施側と、検査を受ける子どもや保護者の利便性を考慮したものでした。本来、甲状腺検査は希望者だけが受けるものです。しかし、授業時間を使って検査を行うことにより、子どもや保護者に、「受けなければならない検査である」という誤解を招いています。学校で行われる身体測定など、ほかの健康診断と同じように捉えられてしまうためと考えられます。実際に、学校検査では、およそ9割にのぼる子どもが甲状腺検査を受けています。

甲状腺検査には、過剰診断のリスクが大きいと国内外から指摘されています。リスクのある検査については、受診者がそのリスクをよく理解して納得している必要があります。しかし、福島医大の調査によると「保護者などの8割は甲状腺検査に不利益があることを理解していない」という結果が出ています(https://synodos.jp/fukushima_report/22520)。

つまり、学校検査では、受診率が9割に達する一方で、8割もの保護者らが検査にともなうリスクを理解していないという状況であるということです。

学校検査については、専門家や現場の医師などから、次のような批判の声があがっています。

<第29回「県民健康調査」検討委員会(平成29年12月25日)>

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/262181.pdf

(髙野徹委員)

「授業の合間にされているということで、これは恐らく医学倫理的にいって子どもに強制性を持っているということになるので、これはちょっとやめたほうがいい」

(緑川早苗・福島医大甲状腺検査推進室長)

「学校検査は授業時間中に検査を行っています。多くの学校ではクラス全員を検査会場にお連れして、受けない方もお連れして、受ける方の個人を確認した上で同意書の出ている方に受けていただくという手続をとっていますので、受けないという意思表示をあらかじめされる方は限られた人だけで、学校検査の受診率は90%を超えている状況です。ですので、最初にオプトアウトで受けないという意思表示がなかなかしにくい状況が学校検査ではあるのだろうと思います」

<第36回「県民健康調査」検討委員会(令和元年10月7日)>

https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/360819.pdf

(稲葉俊哉委員)

「特に学校検査を行う場合にはどうしても強制性というものをなかなか完全に拭うわけにはいかない」

(津金昌一郎委員)

「特にやはり学校とか、強制的になる傾向にあるような検査は、何らかやり方を見直すべきではないか」

また、2020年3月12日には、福島県立医大の研究者による、学校検査の問題を指摘した意見投稿が、英科学誌Natureに掲載されました(https://www.nature.com/articles/d41586-020-00695-0)。

研究者は、「災害被災地の人たちは行政や専門家の支援を必要とする。そのような状況では、住民は問題点を十分に理解せずに研究への参加に同意してしまうことがある」と指摘しています。その一例として、福島県の甲状腺検査に触れ、「検査を受診する子供やその保護者は、検査受診の同意書を提出している一方で、過剰診断のリスクを知らない。授業時間中に検査を行うことは、検査が義務であるという印象を与えかねない」と述べています。

福島県の甲状腺検査は、検査の通知が送られ、同意書を提出した人だけが受けるということになっています。そのため、形式的には、積極的な検査ではあっても、「強制性がある」とまでは言えないかもしれません。しかし、多くの子どもや保護者が、甲状腺検査を「受けなければならない」「受けるのは当然である」「わざわざ受けないと意思表示するという発想がない」などと捉えているのが現状です。

県の県民健康調査検討委員会は、学校検査の実態について、学校現場の担当者に聞き取り調査を行う予定です。福島県や福島県立医科大が、今後、学校検査の抱える問題点の解消を図ることが望まれます。