報告4 北朝鮮の「並進路線」と新たな経済政策

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生産を伸ばすためのインセンティブを与える

 

それでは北朝鮮の新たな経済政策の特徴は何でしょうか。これは「社会主義企業責任管理制」の導入を目指している、一言で言うと、「一生懸命働いた人がいっぱい給料もらえるようにしましょう」という目的があります。

 

その目的を達成するために、工業においては、どういう製品を作るのか、どこで売るのか、従業員にどれくらい給料をあげるのかといった毎年の工場の計画を、支配人、日本で言うところの社長に決めさせる。そしてどれだけの額を国に上納するかを約束させて、それを守れなかった社長は首になるというシステムを今年から試験的に導入しています。ちなみに北朝鮮は1972年に税金を廃止しているため、納税とは言いません。ただ実際には上納という形で、法人税のようなものを収めているんですね。

 

また農業においては、金日成時代から続く上からの指令、つまり農場に対して「こういうふうにやりなさい」といったやり方をやめ、各農場に相当の権限を与えるようになりました。生産を伸ばすために、各農場が知恵を絞ってやっていく。そのために4、5人のグループで田んぼなり畑なりを耕させて、出来高で給料の分配を決めるというインセンティブを与える方向に変わっています。

 

ただ不透明なのは市場や自営業、民営企業です。まだ政策の上では取り上げられていない。北朝鮮にとっても頭の痛い問題なんですね。韓国の研究者の中では、北朝鮮の一般の人びとが生活の中で国から与えられたものがどのくらいで、私的な経済活動で手に入れたものがどのくらいなのか、その比率が25~75%で意見が分かれているんです。つまり極端に言えば、75%の人が私的な経済活動で生活をしていると言えるくらい、民間の経済活動も行われているんですね。

 

この点についてはまだ政策に上がっていないので、先行きは分かりません。ただ、いままでブラックだったマーケットがグレーマーケットと変わりつつある。これは今後も続いていくのだろうと思います。

 

 

北朝鮮の経済は開かれつつある

 

続いて当面の北朝鮮の変化の振幅とその限界はどこにあるのかを見ていきましょう。

 

北朝鮮の現政権は、「朝鮮式経済管理方法」を策定し、それを実行しようとしています。この管理方法は中国モデルでもベトナムモデルでもキューバモデルでもない、各国の優れた事例を検討し、自分たちに合ったものを選び、独自のモデルを構築することだ。ただし、いろいろな可能性がある中で、「社会主義」は絶対に守ると北朝鮮は言っている。なぜなら社会主義の崩壊によって、政権が崩壊するかもしれないと考えているからのようです。

 

では一体この「社会主義」って何だ、という話になりますが、2014年10月22日の労働新聞に掲載されていた論文によると、「社会主義の堅持とは、社会主義的所有を守ること、そして集団主義原則を徹底して具現すること」だそうです。つまり「生産手段の社会的所有と朝鮮労働党の指導を外してはならない」ということですね。これを聞くと、中国とそんな変わらないんじゃないかなと私は思うのですがいかがでしょうか。

 

北朝鮮の学者とこれについて討論する中で特に興味深い問題は、社会的所有であるならば、国営ではなく集団的所有に変わるのはありなのか、という点です。つまり、もし一般の従業員や村人が、国営企業の一部門を買い、協同組合を作り、集団主義原則に反しないかたちでビジネスをした場合、許されるのかということですね。これはまだ決められていないのですが、今後徐々に決められていくのでしょう。

 

北朝鮮の人びとは、一人がお金持ちになるのはよくないが、みんなでお金持ちになるのはいいことだと考える人たちですから、おそらく許される方向に進んでいく可能性がある。また日本に対してあまり開かれていないため、いまだに閉じた国というイメージがある北朝鮮ですが、中国やロシアとの経済関係はかなり開かれるようになっています。企業が自由にビジネスをするということは製品を海外に売ったり、外貨で原材料や機械を買ったりするということも、いまの北朝鮮ではありえるのかもしれません。

 

 

相手の痛いところを理解しておく

 

最後に、北朝鮮の核武力建設をどうするかについてお話をします。

 

これから必要なことは、核兵器開発は許せないとしても、近未来の放棄の可能性が低い中で、どうやって核放棄させるかに知恵を使うことです。実際、アメリカも、中東やらなんやらいろいろと対処しなくてはいけない問題が山積みですから、北朝鮮についてはとりあえず拡散をしないように封鎖をして、あとは放っておけばいい。一生懸命向かい合って、放棄させようとはしていないと思うんですね。

 

どうすれば北朝鮮は核を放棄するかを考えるためにも、まずは北朝鮮の論理を研究して、それをただ受け入れるのではなく、批判すべきは批判をしつつ、「日本はこっちの痛いところを分かっている……」と驚かせられるようになっておくことが、東アジアの安定に貢献するのではないかと思います。(「地殻変動する東アジアと日本の役割/新潟県立大学大学院開設記念シンポジウム」より)

 

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vol.269 

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