移民と地元民をつなぐ作物――ガーナにおけるカカオ生産とコーラナッツ交易

【シノドスに参加しよう!】

▶メールマガジン「αシノドス」

 https://synodos.jp/a-synodos

▶セミナー「シノドス・サークル」

 https://synodos.jp/article/20937

▶ファンクラブ「シノドス・ソーシャル」

 https://camp-fire.jp/projects/view/14015

コーラナッツ交易からコーラナッツ・ビジネスへ

 

コーラナッツの長距離交易は、長い時間をかけて西アフリカに巨大な商業ネットワークを形成した。コーラナッツは、各地の交易拠点で人から人へ手渡され、たくさんの民族を介して南部の森林地帯から北部のサバンナ地帯へと輸送された。道路や鉄道が整備される20世紀までは、輸送には一般的にロバが使われ、商人たちは大きな隊商を組んでコーラナッツなどの交易品を運んだ。19世紀の終わりに確認されたコーラナッツ隊商は、大規模なものでコーラナッツを運搬するアシスタントの男性が1,000~1,500人、ロバが2,000頭で構成されていたという(Lovejoy 1980)。

 

現在でもコーラナッツの交易には、消費者であるサバンナ地帯の多くの民族が関わっている。一方で、生産者やコラノキの所有者は、ガーナ南部の森林地帯にもともと暮らすアサンテなどの民族である。異なる気候帯に暮らす異なる民族の連携のもとで、森林地帯からサバンナ地帯へと長い旅路を経てコーラナッツが運ばれていく。しかしながら、20世紀までと現在のコーラナッツ交易では、携帯電話と大型のトレーラーをつかった輸送形態がとられている点が大きく異なっている。

 

20世紀までは、商人がサバンナ地帯から森林地帯に向けて奴隷や家畜などを運び、アシャンティ王国の市場でコーラナッツに交換してサバンナ地帯に戻っていた。商人たちは、家族をともなって数ヶ月かけて交易路を往復していた。一方、現在のコーラナッツ交易では、商人たちは南部の森林地帯に暮らし、農家から直接コーラナッツを買付けている。コーラナッツを買付けた商人は携帯電話でバイヤーに連絡をとり、要請された分のコーラナッツを準備する。準備が整うと輸送業者に依頼して、コーラナッツをバイヤーのもとに送り届ける(桐越 2016)。

 

コラノキにはある程度きまった収穫期があるが、結実の時期に個体差があるため、商人たちは年間を通じてコーラナッツを得ることができる。みずからがコーラナッツを買付け、生産地から動くことなく販売することができるため、商人たちはガーナ南部の農村に移住し、長い年月をそこで過ごすようになった。近年では、コーラナッツ交易は「コーラ・ビジネス」または「コーラナッツ・ビジネス」と呼ばれている。

 

 

コーラナッツは3日かけてガーナから大消費地のナイジェリアやニジェールへと運ばれていく

コーラナッツは3日かけてガーナから大消費地のナイジェリアやニジェールへと運ばれていく

 

 

コーラナッツ商人以外の移民労働者たちは、地主である南部の人びとから土地を貸し与えられ、小作人としてカカオとコーラナッツを一緒に生産する。小作人は、カカオとコーラナッツの収穫の3分の1から2分の1を得ることができ、残りを地代として地主に納める。この契約では土地を借りるための現金が必要ないので、サバンナ地帯から来た人びとは現金の持ち合わせがなくても地主と小作契約をむすぶことができる。

 

またコーラナッツにかぎり、地主や小作人の許可なく地面に落ちたものを拾うことが許されており、サバンナ地帯出身の人びとも森林地帯の人びとも、毎朝村の周りのカカオ畑に入ってコーラナッツを集めてくる。これは、アサンテの人びとがコーラナッツを「神の贈り物」であると考えているためであり、木の下に落ちたコーラナッツは民族に関係なく誰がどの畑から拾ってもかまわない。女性や子どもはカカオ畑で拾ったコーラナッツを少しずつ売って、そのお金で食材や教材を買っている。

 

小作契約で得たコーラナッツや畑に入って拾ったコーラナッツは、サバンナ地帯から森林地帯に移り住んだコーラナッツ商人たちに売却することができる。1袋(約7,000個)のコーラナッツは200ガーナセディ(約50,000円)で取引される。商人は1ヵ月に10~50袋ほどのコーラナッツをサバンナ地帯に向けて送り出す。20世紀までは男性だけが商人として活動していたが、最近ではたくさんの女性がコーラナッツ商人となって活躍している。夫はカカオ生産、妻はコーラナッツ・ビジネスで現金を稼いでいるという世帯も多い。

 

 

女性は集めてきたコーラナッツを少しずつ売って現金を得る

女性は集めてきたコーラナッツを少しずつ売って現金を得る

 

 

移民と地元民をつなぐコーラナッツ・ビジネス

 

ガーナ南部の森林地帯では、サバンナ地帯からの移民労働者がカカオ生産に従事しており、その多くが生産者や商人、輸送業者としてコーラナッツ・ビジネスにも関わっている。しかし、コーラナッツ・ビジネスに従事している移民たちのなかには、「コーラナッツ・ビジネスは副業だ」、「ガーナ南部の森林地帯に移住してきた真の目的はカカオ生産への参入だ」などと語る人が多い。カカオ生産はガーナ経済を支える大きな柱であるがゆえに大量の労働力を必要としており、サバンナ地帯の人たちはそこに目をつけているのだ。

 

サバンナ地帯出身の移民労働者たちは「カカオ産業に参入したいと思ったときは、まずは故郷の市場にいってコーラナッツ商人を探すのが最善の方法だ」と話す。すでに述べてきたように、コーラナッツはカカオとのつながりが深いからだ。カカオ生産に参入したいサバンナ地帯の人びとは市場にいき、コーラナッツ商人にかけあって森林地帯の人びとへの紹介を依頼する。コーラナッツ商人を通じることで、比較的容易にカカオ産業に参入することができるのである。私の調査村でも、移民たちの半数以上が「コーラナッツ商人を通じてガーナ南部に生活の場をみつけ、地主を探しだした」と語る。

 

移民労働者は土地を購入することなく、地主と契約して小作人になることでカカオ生産に参入していく。小作人とはいえ、高値で売れるカカオとコーラナッツの収穫の3分の1から2分の1をもらえるので、自分の生活を維持しつつ故郷の家族に仕送りすることも十分に可能だ。さらにカカオ畑のなかで食料作物のプランテン・バナナやキャッサバ、ココヤムなどを自由に育てることが許されているため、毎日の食事にも困らない。

 

このように、地主と契約さえできてしまえば生活は保障されるのだが、社会的・文化的・宗教的な違いが大きいために、北部のサバンナ地帯の人びとが南部の森林地帯でよい地主をみつけだすには、その土地や人をよく知る仲介者をたてる必要があるのだ。

 

コーラナッツ商人も、森林地帯の人びとと関わらずにビジネスを成立させることはできない。コーラナッツの買付けは、買付け額の前払いが一般的となっている。代金を前払いしたうえで数日後にその分のコーラナッツを受け取るので、支払った分を確実に渡してくれる人と取引をしないと損失が出ることになる。したがってサバンナ地帯の人たちは、取引のなかでその人が信用に足る人かどうかを見極めている。彼らが長く取引していれば、信用できる人であるということになる。こうしてサバンナ地帯出身のコーラナッツ商人たちは、信頼できる地主をコーラナッツ・ビジネスのなかで見つけだし、自分の友人や知人を紹介する。

 

 

%e7%94%bb%e5%83%8f06

サバンナ出身の商人(左)は森林地帯の農家(右)からコーラナッツを買付ける

 

 

ただし、西アフリカのサバンナ地帯の人たちと森林地帯の人たちとの関係をみるとき、奴隷貿易の記憶はいまだに拭いきれない。奴隷貿易時代、森林地帯に成立した強大なアシャンティ王国は、サバンナ地帯の人びとを奴隷としてヨーロッパ諸国に売ることで富を蓄積し、ヨーロッパから輸入した銃などの武器を独占して内陸に領土を拡大させ、武力で周辺の民族を従わせた。さらに、ヨーロッパから輸入した武器は奴隷狩りに利用され、サバンナ地帯で奴隷狩りがますます拡大するという「銃―奴隷サイクル」をつくりだした(Austin 2013)。

 

このように奴隷貿易が一般的だった時代には、隣村に出かけることすら危険をともない、長距離交易の隊商が奴隷狩りに襲撃されることもあった。サバンナ地帯では、成人の男女だけでなく、ときには老人や子どもまでもが奴隷として連れ去られた。奴隷たちは充分な食料を与えられないまま数百キロメートルの道のりを歩かされ、市場では長時間にわたって炎天下にさらされた。買い手がついたとしても、西インド諸島やアメリカ大陸へ売り飛ばされるか、もしくはアサンテの人びとのもとで毎日朝から晩まで働かされる日々を送ったのだ。

 

現在の移民労働者たちが同じ経験をしたわけではないが、それでも厳しい仕打ちを受け、森林地帯の民族のもとで労働させられた「奴隷としての記憶」を今にいたるまで残している。調査中に「これだからアサンテの人は信用できない」という話をきいたり、「森林地帯の人は昔、奴隷であるサバンナ地帯の人をたくさん殺した」と説明されたりと、随所で彼らのなかに残る奴隷としての過去を感じることがある。

 

それでも今は、サバンナ地帯から来た移民労働者たちと森林地帯の人たちとのあいだに大きな衝突はなく、両者は同じ村のなかでともに生活している。コーラナッツ・ビジネスやカカオ生産のなかでお互いに信頼関係を築き、一緒に仕事をしている場面にも立ちあう。

 

「ガーナではサバンナ地帯からの移民と森林地帯の地元民が争うことはないの? コートジボワールやナイジェリアでは内戦にもなったのに」と聞く私に、移民たちは「お互いが必要だからね」と答える。「コーラナッツもカカオも、サバンナと森林の両方の人たちを必要としている。私たちもお互いを必要としている。だからガーナでは紛争なんて起きないよ。どちらかがいなくなったら困るから」と。

 

移民たちのなかでも、とくにコーラナッツ商人たちは「私たちが北部のサバンナ地帯と南部の森林地帯をつないでいるんだ」と鼻高々に語る。古くから続くコーラナッツ交易は、コーラナッツの特殊性ゆえに、数世紀にもわたってサバンナ地帯と森林地帯という異なる地域をつないできた。いまでもなお、サバンナ地帯の人びとは貴重なカカオ生産の労働力として、森林地帯の人びとはコーラナッツの提供者として、コーラナッツ・ビジネスを通じて強くむすびつけられている。

 

 

参考文献

・桐越仁美. 2016.「コーラナッツがつなぐ森とサバンナの人びと―ガーナ・カカオ生産の裏側で」重田眞義・伊谷樹一編『争わないための生業実践―生態資源と人びとの関わり』(アフリカ潜在力シリーズ 太田至 総編集 第4巻)京都大学学術出版会, pp.85-118.

・国際ココア機関(ICCO). 2015.『カカオ統計2014/15第2刊』ICCO.

・佐藤 章. 2015.「コートジボワール農村部に適用される土地政策の変遷―植民地創設から今日まで」武内進一編『アフリカ土地政策史』アジア経済研究所, 147-170.

・武田尚子. 2010.『チョコレートの世界史』中公新書.

 

・Abaka, E. 2005. Kola is God’s Gift: Agricultural Production, Export Initiatives & the Kola Industry of Asante & the Gold Coast c.1820-1950. Accra: Woeli Publishing Services.

・Austin, G. 2013. Commercial Agriculture and the Ending of Slave-Trading and Slavery in West Africa, 1780s-1920s. In Law, R., S. Schwarz and S. Strickrodt. eds., Commercial Agriculture, the Slave Trade & Slavery in Atlantic Africa. New York: James Currey, pp. 243-265.

・Burdock, G. A., I. G.Carabin and C. M. Crincoli. 2009. Safety Assessment of Kola nut Extract as a Food Ingredient. Food and Chemical Toxicology, 47: 1725-1732.

・Candido, M. 2011. Sub-Saharan Africa: Jihads, Slave Trade and Early Colonialism in the Long Eighteenth Century. Journal for Eighteenth-Century Studies, 34: 543-550.

・Ghana Statistical Service. 2013. 2010 Population & Housing Census. Accra: Ghana Statistical Service.

・Lovejoy, P. E. 1980. Caravans of Kola –The Hausa Kola Trade 1700-1900. Zaria: Ahmadu Bello University Press.

・Mitomi, M. 1982. Underdevelopment, Peripheral Capitalism and the Cocoa Industry in Ghana. Japanese Journal of Human Geography, 34: 69-82.

・Organisation for Economic Co-operation and Development. 2009. Regional Atlas on West Africa. West African Studies ser. Paris: OECD Publishing.

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.266 

・山本昭宏「平和意識の現在地――〈静けさ〉と〈無地〉の囲い込み」
・田畑真一「【知の巨人たち】ユルゲン・ハーバーマス」
・吉田徹×西山隆行×石神圭子×河村真実「「みんながマイノリティ」の時代に民主主義は可能か」
・松尾秀哉「【学び直しの5冊】〈現代ヨーロッパ〉」
・木村拓磨「【今月のポジだし】活動を広げよう――不登校支援」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(10)――「シンクタンク2005年・日本」自民党政権喪失後」