イタリアはいかにして社会を精神病院から解放したのか

――本書は、バザーリアの業績集ともいえますが、彼の死後、トリエステの精神保健局長を務め、改革を推進した3人のバザーリアの愛弟子、フランコ・ロテッリ、ペッペ・デッラックア、ロベルト・メッツィーナ、それにバザーリアを病院長に登用して政治的・財政的に支えたトリエステ県代表ミケーレ・ザネッティの証言からなっています。その内容に関しては本書をお読みいただくとして、バザーリアと共に闘い、そして彼の哲学を引き継いで、トリエステの革命精神をイタリア全土に広めた立役者であるこの方たちと大熊さんは直に出会い、日本に招聘して講演会を開いておいでです。大熊さんをそこまで惹きつけるイタリア・トリエステの精神医療改革の醍醐味と言いますか、神髄とは何だとお考えですか?

 

大熊 精神病院を完璧にやめたこと。代わりに、精神病院に全く頼らない地域精神保健サービス網を、世界に先駆けて構築したこと。これに尽きます。重い精神疾患の人々を精神病棟に隔離する道を、完全に断ったのです。WHO(世界保健機構)も、トリエステの精神保健システムを「持続可能な推奨モデル」に認定しました。

これは「精神保健の革命」です。世界の誰もがなくせるとは夢にも思っていなかった精神病院を、世界に先立って完璧に廃止したのですから。世界中の人々が必要悪と考えていた、あの鬱陶しい治療装置を、社会から放逐したのです。ベルリンの壁の崩壊みたいなことが、精神保健の世界で起きたのです。

 

 

――本書には、イタリア国営テレビが制作した3時間の名画『むかしMattoの町があった』のDVD2枚が付いています。大熊さんたちの「180人のMattoの会」は、日本でこの映画の自主上映会を4年間行い、1万7千名もの方が観ているということですが、この映画の魅力と、本書の付録にした意図をお聞かせください。

 

大熊 「Mattoの町」とはトリエステ県立精神病院のことです。映画はバザーリアが1961年に改革を始めてから1980年に他界するまでの19年間をドラマ化したものです。1980年にトリエステ県立精神病院、つまりMattoの町は完全に機能停止し、それから30年がたったのを記念して2010年に映画が作られました。

 

 

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物語は、精神病院の入院者の苦悩と人間として復権していく姿がリアルに描かれています。役者も名演です。監督も俳優たちも精神病院や精神病について何も知らなかったのに、本や精神保健センターの資料、映像資料などから猛勉強しました。しかし一番の教師は、エキストラとして参加していた実際の患者、元患者さんだったと語っていました。

 

イタリアの改革は始まってからざっと半世紀たちましたが、その前半が映画で描かれ、後半が本で語られています。本と映画のDVDは、あの牢屋型治療装置に疑問符をつける人々のバイブルになること、請け合いです。

 

 

精神病院はいらない!: イタリア・バザーリア改革を達成させた愛弟子3人の証言

精神病院はいらない!: イタリア・バザーリア改革を達成させた愛弟子3人の証言書籍

作者大熊 一夫

発行現代書館

発売日2016年9月26日

カテゴリー単行本

ページ数189

ISBN4768435505

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