『環境破壊図鑑』――絶滅危惧の星、地球の今を体感する

融け出す永久凍土、10%も残されていない原生林、溺れ死ぬ10万頭の赤ちゃんアザラシ、レジ袋を食べるアジアゾウ……今、何が起きているのか。人は、何をしてきたのか。

地球温暖化、異常気象、生物多様性の危機、大量絶滅に人口爆発など、地球が抱える様々な課題を総括する1冊が出版された。40年以上地球を撮り続ける日本人の写真家にして、生物ジャーナリストである藤原幸一の目には、どのような光景が映ってきたのだろう。

世界遺産の現状、再生の現場を含む5大陸120カ所のレポートから、こわれゆく地球との向き合い方を考える。環境問題をどう受けとめるか、自然と人間は共存できるのか。『環境破壊図鑑――ぼくたちがつくる地球の未来』(ポプラ社)から一部抜粋し、紹介する。

 

 

オゾンホールと皮膚がん(第3章 南極)

 

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喉やお腹に腫はれものができてしまったアデリーペンギンを発見。2005年、当時イギリスのケンブリッジ大学教授であった、ペンギン研究のエキスパートであるハンター博士へこの写真を送った。すぐに返信があり、紫外線による皮膚がんの可能性が高いとのアドバイスをもらった。オゾンホールを通過して宇宙から降りそそぐ紫外線が遺伝子を損傷させ、発がんの原因となったのだ。ちなみにぼくは、2001年に行われたハンター博士の南極ペンギン調査に40日間にわたって同行し、南極基地に滞在した。

 

 

ホッキョクグマがいなくなる(第4章 北極)

 

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温暖化の影響で海が凍らなくなり、海氷上で子育てや狩りをするホッキョクグマが、エサのアザラシを捕まえるのは困難になった。ホッキョクグマは北極圏周辺に生息し、体長200~250cm、オスでは体重600~700kgにも及ぶ。彼らが生息する最南の地、カナダ北部ハドソン湾では、1980年頃に平均290kgを超えていたオスの成獣の体重が、2004年には230kgまで減った。

 

1980年代後半~1990年代前半に65%あった生後1年のホッキョクグマの生存率も、2005~2010年にかけて43%に激減した。2014年1月発行のイギリスの新聞ガーディアンによると、ハドソン湾では1987年に約1200頭いたホッキョクグマが、2013年には約850頭に減ったという。1986年以降、ハドソン湾では氷のない日が1年に約1日ずつ増えていて、2012年には年間143日となった。氷のない日数が160日になると、ホッキョクグマは生き残れないと言われている。

 

 

象牙目的の密猟と違法輸出、闇取引――毎年3万頭のゾウが殺されている(第5章 アフリカ大陸)

 

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アフリカゾウは、現存する最大の陸上生物で、大きなものでは肩までの高さが4m近く、体重は最大12tにもなる。サバンナにすむサバンナゾウと、森林にすむ小型のシンリンゾウ(マルミミゾウ)に分類されることがある。1920年代には300万~500万頭生息していたが、1980年代になると134万頭にまで減り、現在は47万~ 69万頭とみられている。1989年にCITES(ワシントン条約)で国際取引が禁止されたが、中国やタイなどで象牙は高値で取引されている。

 

アフリカゾウの密猟と密輸がここ数年急増したという報告書を、UNEP(国連環境計画)やIUCN(国際自然保護連合)などのチームが2013年3月にまとめた。生息国で確認されたゾウの死骸のうち、2011年、密猟で殺されたとみられるゾウの比率は2005年の24%から70%にまで上昇。密輸事件の摘発も増えており、ケニア、南アフリカ、タンザニアなどから東南アジア諸国を経て、タイと中国に運ばれるケースが多かった。象牙の供給目的で毎年2万5000~3万頭のアフリカゾウが密猟されている。密猟はアジアゾウにも及んでおり、ゾウの個体数そのものが減少しているのだ。報告書は、需要は縮小傾向にあるとしながらも、日本国内にも象牙市場があると報告している。

 

 

 

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アジアゾウも同じように密猟の被害にあい、田畑を荒らす害獣としても殺されている。

 

 

漁網が絡まったオットセイ(第6章 オセアニア)

 

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アシカやオットセイ、アザラシの繁殖地は世界的に保護されているが、生息数の減少は止まらない。彼らがエサをとる場所が、人間の漁場と重なっているからだ。

 

オーストラリアオットセイは、オスのほうが大きく体長200~220cmで、体重220~360kg。彼らの楽園とでもいうべきタスマニア島の繁殖地を取り囲む海に、思いがけない危機が迫っていた。エサを探して海を潜るオットセイを待ち受けるのは、人間が仕掛けた漁網だ。絡まると抜けられず、溺死してしまうオットセイがあとを絶たない。

 

海から繁殖地まで、奇跡的に生還できたある一頭の姿が、ぼくの目に飛び込んできた。漁網が絡まった首から血をにじませ、うつろな目でこちらをじっとながめていた。全長100kmにも達するロープを使う延縄漁や、底引き網漁による混獲、気候変動や人間の漁業を原因としたエサの減少もあり、生息数は年平均で6%ずつ減っている。

 

 

ゴミ捨て場に集るクマ(第7章 アメリカ大陸)

 

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野生のアメリカグマがゴミ捨て場に群がっている。オスのほうが大きく、体長140~200cm、体重92~270kg。カナダ、アメリカ、メキシコ北部に生息している。森で得られる食べ物より人間の出すゴミのほうが魅力的なのかもしれない。ゴミの中に含まれる人工の甘味料、着色剤、食用油および機械油、化粧品、薬品、ビニールなどに興味を抱いてしまったようなのだ。

 

最悪なのは、ゴミを食べることで汚染物質も体内に取り込んでしまっていることだ。カナダやアメリカでは、毎年4万~ 5万頭がレジャー目的で狩猟されている。生息地も減少しており、このまま農地への転換が続けば、ゴミと同じように農作物の味を覚え、害獣として殺されていくだろう。

 

 

追いやられる日本のカメ(第9章 日本)

 

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公園の池で甲羅干しをするカメたち。よく見ると、彼らも海外からの侵略者だ。カメは長生きのシンボルとして、日本では古くから神社でまつられ大事にされてきた。池の真ん中の石に、カメの大群を発見。ところが、そのほとんどがアメリカ産のミシシッピアカミミガメだった。縁日などで売られている、通称ミドリガメがその正体だ。甲羅の長さ約28cm、体重約2kgになり、日本のイシガメやクサガメよりも大きい。1950年代からペットとして海外から輸入されたものが、飼い主に捨てられ、池や沼で増殖してきたのだ。

 

そのせいで今、危機に瀕しているのが日本のカメだ。上の写真をみると、石の上にたくさんいたカメの中で、クサガメはたった2匹。甲羅干しの縄張り争いでも突き落とされ、大好物のエサもミシシッピアカミミガメに独占されていた。2016年、環境省の調査で、年間約10万匹輸入されるミシシッピアカミミガメは、現在日本国内で790万9000匹が生息し、98万匹いるイシガメの8倍にのぼることがわかった。彼らがハスの芽を食い荒らし、ハスの花が咲かなくなった池もあり、イシガメの卵を食べるなどの被害も深刻だ。

 

 

スリランカの古都ポロンナルワ――地雷を踏んだゾウと人間(第10章 世界遺産)

 

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ポロンナルワはスリランカ中東部にある中世の古都で、1017 ~ 1255年まで首都だった。仏教都市として繁栄を極め、仏教文化の華が開いた。美しい自然に囲まれた環境や、古都の建築などが観光客を集めていて、1982年には世界文化遺産にも登録された。しかし1983年、スリランカでタミル人による独立運動が起き、政府軍との内戦が26年間続いた。ポロンナルワから北が戦場となって、紛争地帯に160万個の地雷が埋められた。地雷で多くの人間が命を落とし、傷ついた。被害は人間だけにとどまらず、森に生息する野生ゾウたちの命も奪っていった。

 

奇跡的に人間によって助けられたゾウがいる。野生のオスの子ゾウが2002年に地雷を踏んでしまい、右前足の先端が吹き飛ばされてしまったのだが、人間に救出され一命をとりとめた。現在も世界中に1億個以上の地雷が埋まっているとされ、今まで地雷で命を落としたアジアゾウが1万頭以上いると言われる。ここには、スリランカ内戦だけでなくベトナム戦争やラオス内戦、カンボジア内戦、ミャンマー内戦で犠牲になったゾウも含まれる。スリランカの地雷を踏んだ子ゾウには「サマ」という名前がつけられた。「希望」という言葉で、戦争がない世界への願いが込められている。

 

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左は地雷で右前足を失った「サマ」、右は同じく地雷で右脚を失った人間。

 

 

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藤原幸一(ふじわら・こういち)

生物ジャーナリスト、写真家、作家

秋田県生まれ。日本とオーストラリアの大学・大学院で生物学を学ぶ。ネイチャーズ・プラネット代表。ガラパゴス自然保護基金(GCFJ)代表、学習院女子大学で特別総合科目「環境問題」講師。現在は、野生生物の生態や環境問題に視点をおいて、世界中を訪れている。大学や専門学校、企業、NGO 等で講演も行う。

日本テレビ『天才!志村どうぶつ園』監修や『動物惑星』ナビゲーター、『世界一受けたい授業』生物先生。NHK『視点論点』、『アーカイブス』、TBS『情熱大陸』、テレビ朝日『素敵な宇宙船地球号』などに出演。

環境写真展を北海道神宮、明治神宮、熱田神宮、出雲大社、金刀比羅宮、太宰府天満宮、九州国立博物館、早稲田大学、金谷美術館などで行う。

主な著書に『南極がこわれる』『ガラパゴスがこわれる』『マダガスカルがこわれる』『アマゾンがこわれる』『ペンギンの歩く街』(以上、ポプラ社)、『きせきのお花畑』『ぞうのなみだ ひとのなみだ』(以上、アリス館)、『こわれる森 ハチドリのねがい』(PHP研究所)、『PENGUINS』(講談社)、『ヒートアイランドの虫たち』(あかね書房)、『ちいさな鳥の地球たび』『ガラパゴスに木を植える』(以上、岩崎書店)、『森の顔さがし』(そうえん社)などがある。

藤原幸一 HP「NATURE’s PLANET MUSEUM」

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・人文・社会科学から自然科学、カルチャーまで、各界の気鋭にじっくりインタビュー
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シノドス国際社会動向研究所

vol.238 特集:尊厳を守るために

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