日系アメリカ人の強制収容所問題と朝鮮学校の無償化除外問題の相似について 

(b)レイシズムと流言が、法的にも軍事的にも妥当性を欠く政治的意思決定を後押ししたこと。

 

北米では19世紀末から黄禍論に代表されるアジア系移民に対するレイシズムが強まり、さまざまな差別が半世紀にわたって常態化していました。そこに、宣戦布告を欠いた奇襲から太平洋戦争が始まったわけです。「日本は何をするかわからない不気味な国だ」という偏見交じりの敵対感情が強制収容の背景にありました。

 

また、潜水艦でやってきた日本軍がアメリカ本土に上陸するのではないかという恐怖は、さまざまな流言を生み出しました。「太平洋沿岸の日系人漁民が日本軍上陸の手引きをしているところを見た」とか、「日本軍上陸後は日系人がスパイとして誘導する手はずになっている暗号文を解読した」といった内容のものです。

 

その結果、レイシズムに起因する日系人隔離論は、あたかも軍事的合理性を持った政策であるかのように語られていったのです。なお、日系人の強制収容に軍事的合理性は一切なかったと証明できたことが、「1988年市民の自由法」を制定するための決定打になったそうです。

 

一方、朝鮮学校の無償化除外はどうでしょうか。朝鮮学校のみを無償化対象から除外することは、少なくとも法的には妥当性のない政策です。日弁連の会長声明が明快に断言したように、法的な観点からは「この差別を正当化する根拠はない」のです。法的に可能であれば、朝鮮学校は無償化の対象外とすることでとうに除外で決着が付いているでしょう。

 

また、外交的観点からも、無償化除外は合理的でありません。なぜなら、北朝鮮に外交的な攻撃の糸口を与えてしまうことになり、日本政府が北朝鮮の人権状況を批判したところで、鼻で哂われて終わりということになりかねません。また、2月末にジュネーブで行われた人種差別撤廃委員会の対日審査で、複数の委員が「差別だ」として無償化除外問題に疑念を表明する一幕もありました。

 

つまり、朝鮮学校を無償化から除外するというのは、法的にも外交的にも、妥当性はないのです。そこに議論の余地はありません。問題はむしろ、妥当性がないにもかかわらず、世論調査では半数ほどの方が朝鮮学校を無償化から除外することを支持しているのはなぜなのか、ということです。

 

理由はいくつも考えられますが、その中に、北朝鮮や在日朝鮮人に対するレイシズムと流言が含まれているとしても、私には不思議ではありません。ネットをごく簡単に検索するだけで、以下のような文章が見つかるはずです。

 

(1)日本の私立高校は完全な無償化にはならないのに、朝鮮学校だけ無償化するなどおかしな話だ。

(2)他の外国人学校は無償化の対象ではないのに、朝鮮学校だけなぜ無償化するのだ。

(3)朝鮮学校は閉鎖的な環境で反日教育を行っている。ちゃんと情報公開して相互理解の努力をしてくれないと、予算の支出は支持できない。

(4)反日教育でテロリストを育成している学校になぜ日本人の血税を支出するのだ。

(5)ここまでして朝鮮学校に私達の税金を投入したいという心理が分からない。利権が絡んでいるのか。

(6) 北朝鮮の国益に直結する心配がある。

 

いずれも、事実に反する粗雑な主張です。順に反論していくと、(1)もちろん「無償化」は単なるレトリックであり、一般の私立高校と同じく、公立高校の授業料相当が支給されます。(2)他の外国人学校は、すでに無償化の対象となっており、朝鮮学校だけが支給を留保されている状態です。(3)朝鮮学校は常時、授業参観を歓迎しており、日本国内のどの学校よりも開放的だといえます。また、政府の公式な調査チームが視察に臨んだにもかかわらず、「反日教育」と呼べるような教育実態はみられませんでした。(4)朝鮮学校出身のテロリストなど、過去半世紀の間に一人として登場していません。(5)在日コリアンも納税しているという当然の事実が視野から脱落しています。(6)朝鮮学校は恒常的な赤字経営で、教員の給料すら滞りがちな状態。北朝鮮に送金するなど完全なファンタジーです。

 

中には(1)(2)のように単純な誤解もありますが、あまりにも基本的な誤解が容易に修正されることなく放置されている状態そのものが、朝鮮学校の置かれた過酷な状況を示唆するものといえるでしょう。(3)は朝鮮学校について情報を知らないにもかかわらず閉鎖的で反日的だと思い込んでいるわけですから、偏見以外の何ものでもありません。そして、そういう状況の中で、(4)から(6)のように意図的に作り出されたとしか思えないデマも流布しているわけです。誤解と偏見とデマ――今の朝鮮学校を取り巻くものは、そう要約できそうです。

 

 

 

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