わたしたちが生きる社会はどのように生まれたのか

社会学はよくわからない学問?

 

―― たしかに「社会学は役に立たない」という批判はよく耳にしますね。

 

その批判は当たっていると思いますが(笑)、長期的にみればいい社会認識ができるという意味で役に立つと思いますよ。ただ、それをどのように示しつづけていくかは、社会学が考えなくてはいけない問題のひとつでしょうね。

 

もし社会学部に入って、実学系の他学部の友だちに「社会学なんて役に立たない」と言われたら、「じゃあきみがやっている学問はどうやって(自分の、ではなく)社会の役に立つの?」と聞き返してみてください。その学問を勉強すればするほど、自信を持って「こう役に立つ!」と答えられる人は少なくなると思います。社会科学のなかでも体系化が一番進んでいるといわれる経済学でも、「どうやったら失業が減るのか」「どういう政策を実施すれば景気が回復するのか」という重要課題については、内部で正反対の主張が聞かれます。

 

社会学のなかでも、対立する見解はたくさんあります。学問の世界はかくも奥深く、それだけにそこからいろんなことを学べるのです。対立する見解があることは、ある意味ではその学問の成熟度の指標でもあります。ヘンな言い方ですが、胸をはって「俺のやっていることは社会に役立つ」なんていえる人のいうことは少し警戒したほうがいい(笑)。

 

そのことを踏まえても、たしかに社会学はよくわからない学問ではあります。日本では学問分野をよく「文系」と「理系」にわけますよね。これは世界の他の地域ではあまり一般的な分け方ではありません。より通用しやすいのは、「サイエンス(科学)」と「ヒューマニティー(人文学)」という分類です。現在の経済学や心理学はどちらかというと科学。哲学や歴史は人文学ですね。社会学はその狭間にあるせいで、なにをやっているのかよくわからないといわれてしまうのだと思います。

 

不幸なことですが、科学と人文学はお互いにその価値を認めていないところがあります。科学者のなかには、科学には社会的な使命があるが、人文学は趣味でしかないと思っている人がいます。人文学者のなかには、数式や数字でいったい世の中のなにがわかるの? と思っている人もいます。

 

社会学者はそのあいだに立っているために、両方から叩かれちゃうんです(笑)。どっちつかずのところがあるので。

 

 

「性別・年齢・学歴・職業」

 

―― 計量社会学的な発想といえばどのようなものがありますか?

 

学生に研究させると、人間の行動を心理学っぽいもの、心の部分に回収させてしまう傾向があるんですよね。それでも研究として成り立つのですが、せっかく社会学を勉強するならば、社会学っぽい研究をしてほしい。そこでぼくは、学生に対する簡単なアドバイスとして、行動を「性別・年齢・学歴・職業」で説明できるかどうかをまず考えてみるように言うことが多いです。これだけで研究が社会学っぽくなるんですよ。

 

たとえばある学生が恋愛について研究をはじめたとします。恋愛というと、いかにも「心」の動きに焦点を当てたくなるものですが、そこで一歩踏みとどまって、「性別と恋愛観には関係があるのか」「学歴によって恋愛行動や恋愛についての考え方は変わるのか」を検証してみる。すると、とたんに社会学っぽい研究になります。それは、「性別・年齢・学歴・職業」が社会全体の構造に結びついているからなんです。

 

結婚について考えてみましょう。いまでも結婚の際に親が口をだしてくることがありますね。1960年代以前の、お見合い結婚が多かった時代ならまだしも、ほとんどが恋愛結婚となっている現在でも、どうして親は結婚に口を出してくるのでしょう? このとき「性別」に注目してデータを調べると、面白いことが見えてきます。

 

じつは、親が結婚に口を出す割合は、息子ではなく娘のほうが高い。「跡取り」である息子のほうが口出しされるような気がするのですが、実際はそうでもないんですね。

 

ここからはデータの解釈になりますが、これはおそらく日本社会のジェンダー格差の反映です。日本ではまだまだ女性が途中で仕事を辞める可能性が高いため、誰と結婚するかが人生の幸福度に大きく関わってくるのは、男性よりも女性においてである。だから親は口出しするんですね。

 

「結婚の際に親が口をだすかどうか」。こういった行動から、社会全体に残るジェンダー格差をあぶり出していくことができる。これが計量社会学的な発想のひとつだと思います。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.277 

・坂口緑「生涯学習論にたどり着くまで──人はいかにして市民になるのか」
・平井和也「ジョージ・フロイド殺害事件から考える米国の人種差別問題」
・野村浩子「日本の女性リーダーたち」
・安達智史「「特殊」を通じて「普遍」を実現する現代イギリスの若者ムスリム」
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