わたしたちが生きる社会はどのように生まれたのか

予想外の結果のつじつまを合わせる

 

―― 筒井先生はどんなところに社会学の面白さを感じますか?

 

データを眺めていると、想定していたものと違う結果がでることがあります。この思いもよらない結果を、うまく説明できたときに面白さを感じますね。

 

またまた例をあげましょう。日本の女性の労働力率をグラフにすると、「M字型」になります。なぜこのようなかたちになるかというと、働いていた女性が結婚や出産で仕事を辞め、子育てが一段落した後、今度はパートで働き始めるから。これは性別分業が強い社会、日本や韓国のようないわゆる儒教文化圏でよくみられます。

 

ということは、儒教文化圏で性別分業意識の強い台湾でも同様の傾向があるのだろうと思いますが、調べてみると実際はそんなことがない。なぜこのような結果になっているのでしょうか。

 

アメリカの社会学者メアリー・ブリントンは、この結果を説明するふたつの理論を考えだしました。ひとつは、台湾は親族ネットワークが強く、親戚が子どもの面倒をみてくれるのではないか、という説。もうひとつは、オリジナリティーの高い考え方ですが、日韓と比べて中小企業従業者の比率が高い台湾では、女性が比較的柔軟な雇用や労働形態の恩恵を被ることができるのではないか、という説。聞いてみると「なるほどな」って思いますよね。

 

このように予想外の結果を、改めて考え直し、つじつまを合わせる研究を見ると、社会学って面白いなあって思います。

 

 

大きな物語の記述

 

―― 計量社会学を研究されているうちに、計量社会学に対する印象は変わられましたか?

 

あまり厳密でなくても、数字を使って面白いことをやる研究に共感を覚えるようになりましたね。

 

ぼくは計量経済学のテキストで計量分析を学びました。ですから、その後に統計データを使った社会学の分析をみたとき、多くの研究が因果関係に興味をもっていないことに気がついて、多少当惑した覚えがあります。

 

最初は計量経済学の手法が唯一正しいと思っていました。ただ、それでは話がどんどん小さくなってしまう。ざっくりとした数字を示しながら、大きな物語を記述していく研究にも独自の面白みがあることがわかった。同時に、「計量」といってもいろいろあるんだなあと思いました。

 

もちろん、厳密な方法もいちおう知っている方がいいと思います。数字の扱い方に慣れていないと無理やり物語をつくってしまうことがある。とはいえ、それだってつづく研究者が少しずつ直していけばいいとも言えます。社会の変化についての物語を誰かが最初にドンと提示してくれないと、それを修正していく作業さえ生まれません。

 

 

データ蓄積のために総合社会調査を続けること

 

―― これからの社会学にはどんな可能性がありますか?

 

いま、データの蓄積がどんどん進んでいます。

 

政府統計はA4サイズ裏表程度の、比較的短い調査票を使って行われますが、社会学者は10〜15ページもの調査票で人々の行動や意識を詳細に調査することが多いです。いわゆる「総合社会調査」ですね。このようなデータの長期的な蓄積が進めば、たとえば「事務職でフルタイムで働く子ども有り有配偶女性の夫の家事負担」が30年間でどのように変化したかなど、変化についての詳細な様子を知ることができます。人々の行動や状態の一部のみを観察する政府統計では、このような分析は難しいです。

 

日本でも2000年前後から詳細なデータの蓄積が急に進んできた。データが溜まれば溜まるほど、計量社会学者が活躍できる場面は増えていくでしょう。

 

大切なことは、このような総合社会調査をやめないこと。いま蓄積しているデータの真価がわかるのは50年後、100年後になります。社会調査には膨大な資金が必要となりますから、調査の意義を訴えていかないといけない。

 

ぼくはいま40歳くらいですから、引退まで20~30年ほど。次の世代の研究者が、このデータを使ってどんな研究をするか楽しみにしています。

 

 

社会の変化を知って納得して進む

 

―― 最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします。

 

いま自分たちが生きている社会がどのような経緯で生まれたのか、どういうふうに変化してきたのかに興味を持ってほしいです。

 

人生には、進学、就職、結婚という大きなイベントがあります。「なんだか結婚しづらいな」「どうして就職できないんだろう」と違和感を覚えたとき、その背景を探ってみてください。

 

もちろん社会の変化の背景がわかったからといって、就職が楽になったり、結婚しやすくなったりするわけではないでしょう。でも背景を知ることができたら、同じ道でも納得して進むことができると思います。知らなくても生きていける。でも知っていた方がいい。

 

長期的な観点から社会の変化や先進国間での社会の違いに興味を持っている人にとって、社会学はひとつの選択肢だと思いますよ。

 

(2013年1月27日 新宿にて)

 

 

社会学がわかる! 高校生のための社会学書3冊

 

 

 

インタビューのなかの「女性の社会進出」についての記述は、ほぼこの本からとってきたものです。それだけではなく、いまわたしたちの家族がおかれている状況がどういった経緯で生じてきているのかについて、非常にわかりやすく説明されています。この本は家族社会学にとってのバイブルだと言えるでしょう。

 

 

進学や就職は高校生のみなさんにとっても重要な関心事だと思いますが、このふたつのライフイベントについて、長期的な変化をすっきりとした視点で説明しているのがこの本です。そういう意味で、わたしはこの本は典型的な計量社会学の研究ではないかと思います。難しい分析方法を駆使しなくても、データを扱うセンスがあればここまでエクサイティングな分析ができるのか、と感じました。

 

 

出版社のステマではないのですが(笑)、「やわらかアカデミズム」のシリーズは、入門には最適です。この本にも社会学のいろんな分野の解説が盛り込んでありますから、興味のあるところだけを拾い読みしてみて、社会学の感触を掴んでみてはどうでしょう。

 

★高校生のための教養入門コーナー記事一覧

https://synodos.jp/intro

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.277 

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