世界は経済で決まる!?

―― どんなときに「経済学って面白い!」と思いますか?

 

「わかった!」という瞬間です。この「わかった!」という瞬間は、前提、論理、結論、予想の4ステップがうまくはまったときに訪れます。どの学問でも同じかと思いますが、ぼくは比較的に経済学にそう思える瞬間が多いと思う。

 

世界史や日本史を暗記するように、経済学史の年表をじっと眺めて覚えることが経済学の面白さではありません。AだからB、BだからC、CだからDという論理のステップを理解すること、その瞬間が訪れたとき「”わかる”ってこういうことなんだ」と思える。皆さんにもぜひ、その瞬間が訪れて欲しいですね。

 

 

―― 飯田先生はどうして経済学を選んだのですか?

 

高校生のころ、世界史や日本史の授業で習った世界大恐慌の話がとても面白かったんです。世界恐慌の処理に失敗したことが第二次世界大戦へのきっかけになっている。特にドイツでは、人々の経済的な不満が高まるにつれて、極端な排外思想がはやるようになっています。ナチスの議席獲得数と失業率が非常に良く連動していた。つまりはナチス・ドイツを生んだのは不況だというわけです。

 

歴史的な事件と経済、なかでも大恐慌はとても関わりが深いんです。これは日本でも例外ではありません。ファシズムへの道を突き進むきっかけとなった2.26事件。なぜ青年将校はあんな事件を起こしたか。陸軍士官学校を卒業し、小隊長として各地に赴任した彼らは、徴兵されてきた東北地方の兵隊の体格の悪さにびっくりします。当時の東北地方は非常に貧しく、ろくなものが食べられなかったんです。隊の親分でもある小隊長はそれが見るに堪えず、「日本は間違っているんじゃないか」と燃え始めて、直接的な行動を起こした。これが2.26事件です。

 

他にもたくさん面白い話はあります。例えばマクドナルド理論。これまでマクドナルドがある2国間での戦争は一度も起こっていません。やっぱりマクドナルドが出店するくらい経済的に発展していると、みんな殺し合いなんてしたくないんですよ。戦争するくらいなら、仕事でお金を稼いで、欲しいものを買ったり美味しいものを食べたりしたいと思うようになるんです。

 

経済が与える影響の大きさに気がついたときに、「経済ヤバい! 経済で世界が決まるんだ!」って興奮した(笑)。

 

さらに言うと、ぼくが高校生の頃にちょうどバブルが崩壊していて。ぼくは日本人が浮かれていた時代が、どんどんぎすぎすしていく様を目の当たりにしているんです。経済が悪くなると世間・社会・世界がぎすぎすしてくる。ということは、経済学を勉強すれば、それを回避することもできるのではないでしょうか。世界恐慌の処理を適切に行えていれば、景気が悪くならなければ、ナチスは「世間から浮いた狂信者集団」のままだったかもしれません。「貧すれば鈍す」「衣食足りて礼節を知る」って言いますよね。

 

景気が良かったころは生活保護へのバッシングなんてほとんどありませんでした。攻撃的な思想が話題になっても、大きな問題になるほど発展しなかった。今の日本はなんだかぎすぎすしていますよね。20年間も不況を続けてきただけはあるなあと思ってしまいます。

 

 

―― 実際に経済学部に入って、抱いていたイメージとのギャップはありましたか?

 

苦手な数学を超使うこと(笑)。

 

でも意外と高校数学と違って楽しかったですよ。ぼくは計算が苦手で数学が好きじゃなかったんですけど、大学は具体的な計算はあまりしないんですよ。論理数学がほとんど。それに計算が苦手でも、大学では計算ソフトにお願いすればいい(笑)。

 

数学が苦手で文系を選んだ人は多いと思いますが、じつは文系で、特に言葉が好きな人が論理数学を勉強してみると、楽しいと感じる人がたまにいるんですよね。経済学に興味はあるけど数学は苦手って人でも、じつは経済学や大学での数学は楽しいと思えるようになるかもしれません。

 

 

―― 経済学にはどんな可能性があるのでしょうか。

 

経済学はいま、大きな転換点に差し掛かっています。というのも、ミクロ経済学、マクロ経済学ともに、人間の合理性を狭く捉えすぎていたんです。

 

これまで経済学は、「人間は経済的な損得を重視して行動している」と考えてモデルを組んできました。このモデルでもかなりの予想力はあるのですが、よくよく考えてみると、別に経済学だからといって経済的な損得に分析を集中させなくてもいいじゃないか、とあるとき気がついたんですね。

 

世の中が豊かになってくると、経済的な損得だけでなく心理的な損得の影響が大きくなってくるんです。それをいかにモデルに組み込むか。行動経済学という分野では、いままさにその研究を行っています。

 

 

―― 最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします。

 

高校までの勉強は、知識を頭に入れるという性格が強いですね。これは考えるために必要な具材を用意している段階なんですね。大学は、その具材をどのように活かすことが出来るか、いわばレシピを勉強するところです。そして大学で覚えたいろいろなレシピを社会で活かしてください。

 

どんなに素晴らしいレシピでも具材が悪ければ、まずい料理ができてしまいます。だからまずは具材を、知識をしっかり習得してください。そして、どんなに素材が良くてもレシピがさっぱりならたいした料理にはならない。だから大学では、大学でしか出来ない勉強をして欲しい。そして、できれば経済学部に入って、経済学の楽しさを知ってもらいたいですね。

 

(2012年12月20日 飯田泰之研究室にて)

 

 

 

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