2021.07.01

異論あり、ファスト映画考――逮捕は悪手である

田中辰雄 計量経済学

文化

1.問題の所在:ファスト映画とは

2021年6月23日、ファスト映画をアップしていた3人が逮捕された。【注1】ファスト映画とは映画を10分程度に短縮し、解説をつけたものである。映画の一部を切り取ってダイジェスト版をつくり、あらすじがナレーションとして入っており、2時間近くかけて映画本体を観なくても、短時間で映画の中身がわかるようになっている。ファスト映画は権利者に許諾を得ずに映画を切り貼りして利用しているため、著作権法違反は明らかである。容疑者も事実関係は認めており、事件としては決着した。

しかし、逮捕が映画業界として最善策であったかどうかには疑問がある。一般にネット上の違法コピーには正規版の売上を減らす代替効果だけでなく、逆に売上を増やす宣伝効果があるからである。YouTubeで音楽ファイルがながれることは、かつては違法行為とされてきたが、現在では宣伝効果が優るため、音楽業界は音楽をYouTubeに積極的に流すようになった。ゲームのプレイ実況動画も当初は違法行為とされて削除されていたが、現在ではゲームの売上を増やす販促として位置付けられ、プレイステーションは本体にプレイ動画のアップ機能をつけるにいたっている。

ファスト映画の場合はどうだろうか。ファスト映画は映画の売上を増やすだろうか、減らすだろうか。ファスト映画が拡大したのはここ半年ほどでこれを判断する材料は乏しいので、以下では簡単な調査によって考察して見よう。結論から述べると、過去の映画作品については売上を伸ばす効果がありえるので、一律禁止は得策ではない。ファスト映画は始まったばかりで知見が乏しく、複数の可能なシナリオが考えられるので、さまざまな試行錯誤を許す実験期間をつくるべきであろう。現時点で逮捕することはそれら試行錯誤を不可能にする点で悪手である。

2.ファスト映画利用者の実態調査

調査概要

調査は2021年6月25日~27日にウェブモニター調査で行った(調査会社はSurveroid社)。対象者の年齢層は映画の主たる顧客である20歳~39歳で、ファスト映画を利用したことのある人518人である。男女と年代はほぼ同数になるようにサンプリングしてある。

まず、ファスト映画の利用度合いを見てみる。これまでに何本ファスト映画を見たかを尋ねた結果が図1である。これを見ると56%の人が10本以下であり、ほとんどの人は数本と思われる。ただ、10本~50本の人が28%、さらに50本以上見たという人が17%おり、少数とはいえヘビー利用者も存在する。

図1

どんな映画が見られているのか――売り出し中の映画か、過去の映画か

次にファスト映画ではどんな映画が見られているのかを見てみよう。ここで重要なのは現時点で売り出し中の映画か、過去の映画かの区別である。海賊版の被害は現在売り出し中の作品に発生しやすい。これは現在売り出し中の作品はすでに十分宣伝が行われているため、海賊版による追加的な宣伝効果が望めないためである。宣伝効果が無ければ、海賊版を見て正規版を買わずに済ますという代替効果が優勢になり、正規版の売上は減少する。

これに対し、過去の作品はもう宣伝されておらず、数も多いために埋もれてしまっているので、海賊版の宣伝効果が効きやすい。たとえば漫画では、連載が完結した過去作品の場合、海賊版が出ると正規版の売上が増えるという報告がある。【注2】特にファスト映画は映画本編ではなく短縮版なので、過去の映画のファスト映画を見てその映画に興味を持ち、正規版を購入して本編を見るという行動が起こりうる。

そこで、見ているのが公開中なのか過去作品なのかを聞いてみた。図2がその結果である。あてはまるものすべて選んでもらう複数回答なので、合計は100%を超えている。公開中の映画を見たことがある人は19%、最近(1年以内)の映画を見た人は34%、1年以上10年未満の映画は45%、10年以上前の映画を見た人は23%であった。

図2

映画の場合は、劇場公開から1年間はDVD・BD販売、新作レンタルなどで宣伝が継続し、売上もこの時期に集中するので、公開から1年以内かどうかで現在作品と過去作品を分けてみよう。すると、どちらもそれなりにファスト映画で見られているが、比較すると過去作品の方が多い。複数回答なので解釈は慎重であるべきだが、単純に足し合わせて比率をとると、(19+34):(45+23)なので、現在作品:過去作品の比率はほぼ5対7になる。すなわちファスト映画で見られているのは、宣伝効果の恩恵が大きい過去作品の方が多い。

ファスト映画を見る理由

次にファスト映画を見る理由を聞いて見た。用意した選択肢からこれも複数回答であてはまるものをすべて答えてもらう。その結果が図3である。回答が多い順に並べてある。

図3

最も多かったのが1の「暇つぶしに見てみた」という理由で、カジュアル利用者はこれを理由に挙げる人が多い。暇つぶしに見た場合、映画の売上を増やすか減らすかは判然としない。

2番目に多いのが「面白い映画を見つけるため」で、3番目に多いのが「見る前にどんな映画か知りたかった」である。この二つは見るべき映画を捜すためにファスト映画を見ていたと解釈できる。いわば一種の探索行動である。

映画は見るまではどんな映画かわからない。予告編やお勧め解説記事などで多少は推測ができるが、見始めたら予想と違ってがっかりしたということはよくあることである。ファスト映画で最初の3分くらい見ればどんな映画か見当がつき、それで気に入れば本編を見るという行動が考えられる。ストーリーが重要でない映画(アクションや美しいシーンが魅力の場合)では10分間の最後まで見てからでも本編を楽しむことができる。この2と3の理由でファスト映画を見た場合、映画の売上を増やす宣伝効果が期待できる。

4の「一度見た映画がなつかしくて」は一度見た映画を反芻していることを意味する。この理由で見た場合、売上を増やすか減らすかは微妙である。ファスト映画で見て懐かしく思って映画本編を再度見ようと思えば売上は増える。逆に懐かしい映画をもう一回全編見ようと思っていたが、ファスト映画で済ませたとすれば売上は減る。影響の方向ははっきりしない。

5の「評判なのでどんな映画か知りたかった」は、探索行動に似ている面があり、その場合は宣伝効果で売上は増える。しかし、評判なので知りたかったということは、映画自体にあまり興味はないが人と話をする時のネタとして知っておきたいとも解釈できる。この場合、ファスト映画が無ければ、その人はネタとして知るために本編を購入して見ていたかもしれない。その意味では売上を下げる代替効果になりうる。

6と7は無料あるいは短時間で見られるからという理由である。いつの世も海賊版を利用する理由で最大のものは無料という点にある。ファスト映画が無ければ有料で、あるいはちゃんと本編を見ていたとすれば、この6、7は売上を減らす要因である。

最後の8は、ファスト映画自体を楽しんでおり、これは売上を増やすか減らすかはっきりしない。

まとめてみると、売上を増やしそうな宣伝要因が2と3、売上を減らしそうな代替要因が5、6、7である。設問の取り方にもよるので単純な比較は難しいが、棒グラフの高さがこれだけ違うと売上を増やす探索要因の方が優勢と考えられる

このことを確かめる一つの比較方法として、2、3の探索行動のどれかを理由に挙げた人と、5、6、7の代替行動をどれかを理由にあげた人のクロス表を作ってみよう。下の表1がそれである。探索行動をした人は263人、代替行動をした人は200人で、探索行動をした人の数の方が多い。また、対角線のところを見ると、探索行動のみの純粋な探索者が158人おり、代替行動だけの純粋な代替者95人より多くなっている。この面でも探索行動の方が優勢である。以上をまとめて、探索行動の方が人数としては優勢と言ってよいであろう

表1 探索行動と代替行動のクロス表(単位、人、n=518)

ファスト映画を見たあと、どうしたか

最後に探索行動と代替行動の頻度を直接に尋ねてみよう。すなわち、ファスト映画を見てから本編を見たことがあるか、逆にファスト映画を見たので本編を見ないことにしたことがあるか、という問いである。

まず、図4はファスト映画を見た後で、映画本編を見たことがあるかを尋ねたものである。これを見ると、ファスト映画を見た後、その映画を映画館で見たことがある人は26%、DVD/BDで購入したことがある人が21%、レンタルしたことがある人が25%、ネット配信で見たことがある人が32%おり、かなりの人がファスト映画で見た後、映画本編をお金を払って見ている。そのような経験が全くない人は25%に過ぎず、75%の人はファスト映画を見た後にその映画本編を見た経験があることになる。

図4

図5は逆に、ファスト映画を見て映画本編を見るのを止めた経験を尋ねた場合である。この場合、止めた理由が、ファスト映画を見てその映画がつまらなそうだったから、というのであれば代替効果ではない。探索行動をしてその映画についての正しい情報に基づいて選択が行われているのであって、厚生上はむしろ望ましい。問題なのは、ファスト映画で満足してしまい、映画本編を見る気が無くなってしまうことである。そこで理由つきで選択してもらった。なお、これも両方の行動をとることがありうるので複数回答で答えてもらっている。

図5

結果を見ると、ファスト映画で満足して映画本編を見るのを止めたことがあると答えた人が42%存在する。これははっきりとした代替効果であり、映画産業の売上を減少させる。映画業界が心配するとおり、ファスト映画を見て映画の売上が減る効果は確かに存在する。

ただし、経験の比率で言えば42%であり、ファスト映画を見た後で映画本編を見た経験の比率75%よりは低い。したがって、単純に経験率を比較すれば、ファスト映画を見たあと映画本編を見る行動の方が優勢であり、代替行動より探索行動の方が優勢である。

調査全体をまとめてみよう。ファスト映画があることで売上が減る面と増える面はともに存在するが、今回の調査ではどちらかといえば増える効果の方が優勢である。見られているファスト映画は宣伝効果が効きやすい過去作品が多く、ファスト映画を見る理由も、面白い映画を見つけようとする探索的行動が多い。実際、ファスト映画を見た人の75%は見た後でその映画全編を有料で見た経験がある。逆にファスト映画を見て満足して映画本編を見るのを止めた人は42%にとどまる。

ただ、今回の調査は設問数が限られた粗い調査で、複数回答が多いため、定量的な評価には限界がある。本来はビデオレンタルや映画配信数等のデータを使って定量分析をすべきところである。現時点で確実に言えるのは、ファスト映画が売上を増やす場合がかなりあるということである。

3.提案と教訓

選択的対応による試行錯誤

以上を踏まえてファスト映画についてどう対処すべきであろうか。売上を増やす効果と減らす効果がある時、有効な方法は作品別に対応を変えることである。映画で言えば劇場公開から一定期間、たとえば1年の間はファスト映画は禁止し、それ以降は黙認するという案が考えられる。公式の宣伝が十分行われて、かつ売上も集中する間は、ファスト映画を無くして代替効果を防ぎ、一定期間が過ぎて過去作品になった映画については、ファスト映画をみとめて宣伝効果を期待する戦略である。ファスト映画がアップされているのはYouTube等の大手の動画サイトで、著作権違反を訴えれば個別の動画ごとに削除できるので、このような選択的な対応は可能なはずである。

このような選択的対応には先例がある。ゲームのプレイ動画実況では、アクションゲームやオープンワールドのようなストーリーが無いゲームはネタばれの恐れが無いため、実況動画が歓迎される。実況動画を見るとどんなゲームかがわかり、それが購入の動機付けになるからである。一方、ストーリー性が大切なアドベンチャー型のゲームや一部のロールプレイングの場合はネタばれするとゲームの趣向をそぐため、プレイ動画は好まれない。プレイ動画実況も当初は削除が相次ぎ、試行錯誤が続いていたが、最終的にジャンルごとにどんな実況ならゆるされるかについて暗黙の了解ができてきた。売上に悪影響を与えず、むしろ売上増やすような形でプレイ動画がアップされるようになり、現在ではゲーム実況はゲームの新たな楽しみ方として業界で認められている。

歴史をさかのぼると、漫画におけるコミケも似たような試行錯誤過程がある。いまは誰からも認められているコミケであるが、かつては著作権者との間に何度かトラブルがあった。そのなかで、グッズは売らない、いくつかの特定会社のキャラは扱わない、基本的に権利者の収益に悪影響をあたえるようなことはしない、などの暗黙のルールができて、権利者との共存が図られてきた。今日ではコミケは新人漫画家のインキュベーターとして誰もが認める価値ある存在になっている。

YouTubeと音楽の関係については言うまでもないだろう。若い人は知らないであろうが、かつては音楽CDの売上を減らすとして、YouTubeから音楽ファイルが削除されていたのである。今日ではYouTubeに載っていない音楽は世界に存在しないも同然であり、その宣伝効果を疑う人はいない。

むろん、今でも代替効果の方が大きいと考える人もいる。ゲームのプレイ動画を一切禁じているゲーム会社もあるし、コミケの二次創作を許さない権利者も存在する。ごく最近までYouTubeにアップすることを拒否する歌い手もいた。個々の権利者の考えはさまざまであり、それぞれの権利行使はもちろん自由である。大切なことは個々の権利者の試行錯誤の結果、双方にとって利益のある望ましい状態が実現していることである。

映画の場合も同じシナリオを考えることができる。ファスト映画については、個々の権利者の対応に任すのである。権利者によって対応はまちまちであろう。作品すべて削除依頼して禁止する権利者もいれば、過去作品については様子を見る権利者もいるだろう。過去作品のファスト映画を放置する権利者がいれば、売上が増えるかどうかをそこで検証することができる。映画のジャンルによっても影響は異なるかもしれない。そのような試行錯誤の結果として均衡点に達することが社会的に望ましい。均衡点では、権利者側は売上を増やすことができ、映画視聴者は多くの映画の中から自分にあった映画を楽しむことができるようになる。

逮捕はこのような試行錯誤過程を奪う悪手である。逮捕されてしまうのなら一切ファスト映画はアップされなくなるからである。すでにファスト映画はネットから消えつつある。逮捕は試行錯誤を経て望ましい均衡に達する道を閉ざす点で悪手と言うほかはない。

歴史的教訓

一般に、権利者は、対価の伴わない作品の利用に、ほとんど反射的に“禁止”の姿勢を取る傾向がある。売り物を対価なしに無料利用するとはけしからん、というのは人間の自然な心理であり、気持ちとしては理解できる。

しかし、エンターティメント産業では、対価なしの無料利用がファンのすそ野を広げ、市場を拡大してきたという歴史がある。YouTubeでの音楽配信がもっとも直近の事例であるが、それ以前にも例はある。

たとえば、アメリカでラジオ放送が始まった時、レコード会社は音楽をラジオで流すことを禁止しようとした。ラジオで無料で聞かれたらレコードが売れないと考えたからである。もちろんこれは誤りであり、試しに流してみたら宣伝になってレコードが売れることに気づき、すぐに逆に流してほしいとDJに頼むようになった。

また、アメリカの野球球団は当初は野球のラジオ中継を拒否した。ラジオで聞いてしまえば球場に来なくなると考えたからである。しかし、中継させてみたところこれまで野球場に来なかった女性・子供までも来るようになり、球団の売上は増加した。

このように対価の伴わない利用に対して拒否の姿勢を取るのは、世の東西を問わず権利者の常であり、またそれが間違うことが多いのも世の常なのである。そしてこの場合、重要なのは、試しにラジオで流してみた、野球中継をさせてみたという試行錯誤が許されたことである。試行錯誤が許されたからこそ宣伝効果の程度がわかり、より売上を伸ばす方向へ舵を切れた。最近で言えばYouTubeでの音楽配信が認められたのも試行錯誤があってのことである。レコード会社の法務部はYouTubeから自社の楽曲を削除しようとしたが、営業が宣伝効果があるとして抵抗する。そのようななかで流してみたところ、むしろ売上が増えることがわかり認められたというのが経緯である。逮捕でファスト映画が一掃されてしまえばこのような試行錯誤はできなくなり、売上増加の機会は失われる。得られたであろう売上増加を失うことは、映画業界にとって損失のはずである。

業界はファスト映画を一掃するつもりと伝えられる。【注3】一掃するためには確かに逮捕は効果的である。ファスト映画を作っていた人たちは震えあがり、もうアップはしなくなるだろう。しかし、それは、コミケの初期の同人即売会の会場に乗り込んで同人作家を逮捕することに等しいのではないだろうか。同人作家は四散し、コミケの芽はそこで潰れる。あるいはゲーム実況の初期に実況動画を上げている人を逮捕することにあたる。ゲーム実況者は一斉に実況を取りやめ、ゲーム実況の文化とそこからの売上は失われる。ゲーム実況もコミケも、そしてYouTubeへの音楽アップも、著作権上合法とは言えない状態から出発し、やがて業界を支える柱の一つに育っていった。ファスト映画の逮捕は、映画業界にとって将来金の卵を生むかもしれないアヒルの首を絞めることになっているのではないだろうか。

ファスト映画の映画売上への影響は、本来は定量調査をすべきことです。これにはビデオレンタルあるいはネット上の映画配信の再生数のデータが必要で、もし利用させてくれる業者の方がおられたらご連絡ください。調べてみたく思います。

【注1】ファスト映画」投稿者が初の逮捕、著作権法違反の疑いで

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2106/24/news078.html

【注2】Tanaka Tatsuo 2019, “The Effects of Internet Book Piracy: Case of Comics”

https://ies.keio.ac.jp/en/publications/12148/

「ファスト映画」投稿急増 映画産業界に危機感 法的措置も

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210620/k10013094761000.html

プロフィール

田中辰雄計量経済学

東京大学経済学部大学院卒、コロンビア大学客員研究員を経て、現在慶應義塾大学経済学部准教授兼国際大学GLOCOM主幹研究員。

編著に『著作権保護期間―延長は文化を振興するか?』、「フェアユース導入はコンテンツ産業にプラスかマイナスか」、「クリエイター側は著作権保護をどうみているか―日米国際比較―」などがある。

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