2017.12.01

もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力

ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー/α-Synodos vol.233

情報 #鈴木啓美#古川江里子#吉田作造#家族#αシノドス#フェアトレード#フーコー#重田園江#阪井裕一郎#ピープルツリー#ジェームズ・ミニー

はじめに

「α-Synodos vol.233」、今回の特集は「公正な社会を切り開く」です。

第1稿目は定番の巻頭特集インタビューです。近年広まりつつある「フェアトレード」。貧困や環境などの問題に、ビジネスの仕組みでアプローチしています。不均衡な取引は、途上国の弱い立場の人々にどのような影響を与えているのか。対策としてのフェアトレードと、その楽しさについて、フェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」の方々にお話しを伺いました。

第2稿は、新シリーズ「『民主』と『自由』――リベラルの再生に向けて――」です。日本におけるリベラル思想の源流と今後の展望を、気鋭の研究者の皆さまにご解説いただきます。第1回は、大正デモクラシーを牽引した吉野作造の試みに焦点をあてます。当時の民主主義運動から、現代に生きる私たちが学ぶべきこととは、何なのでしょうか。

続いての新シリーズは「知の巨人たち」です。歴史上の思想の大家たち。彼らの思想を魅力たっぷりにご解説いただく新企画です。初回の本号では、フランスの思想家、ミシェル・フーコーを取り上げます。現在のさまざまなマイノリティ運動に大きな影響を与えた思想家の哲学に迫ります。

最後はおなじみ連載「学び直しの5冊」です。今回は、家族社会学がご専門の阪井裕一郎氏に、「家族」をテーマにお選びいただきました。

以下は巻頭インタビューの冒頭です。ぜひご覧ください。

ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力

価格での大量生産、大量消費。不均衡な取引により築かれた現代の消費システムは、作り手というもっとも弱い立場に置かれた人々の暮らしを脅かしている。そんな世界の問題に、ビジネスの枠組みをもって取り組むフェアトレード。生産者の顔が見える商品の消費は、納得感と豊かさをもたらしてくれる。既存の消費システムの否定というネガティブな動機だけでなく、もっとお買い物を楽しくするためのポジティブな手段として。大量消費の問題から、フェアトレードの魅力まで、フェアトレードカンパニー株式会社のフェアトレード専門ブランド「ピープルツリー」について幅広くお話いただいた。(聞き手・構成/増田穂)

◇ビジネスの仕組みで貧困問題の解決を目指す

 

――近年徐々に広まりつつある「フェアトレード」ですが、いったいどのようなものなのですか。

鈴木 世の中にはさまざまな問題があり、解決のための多様なアプローチがあります。フェアトレードとは、そうした数ある社会問題の解決策の中で、企業がビジネスとして貧困問題と環境問題に取り組むものです。

フェアトレードと聞くと、「正当な対価を払う」とか、「児童労働をしない」といったイメージを持たれる方が多く、それ自体は間違った認識ではありません。しかし、これらは貧困問題や環境問題を改善するための手段であって、それが全てではありません。寄付やボランティアなど、数ある解決のための手法の中で、ビジネスの仕組みを用いてそうした問題を改善しようとするのが、フェアトレードの本質なのです。

英語で「フェア」な「トレード」と表現されるため、「トレード」つまり貿易に限定して捉えてしまう方がいますが、もっと広く捉えてほしいです。商品を輸入するという貿易の段階をフェアにしても、それ以外の段階で搾取が行われていたら、貧困問題の解決にはつながらないからです。商品の注文から材料調達、生産、販売など、全ての過程でフェアな「やり取り」をすることこそがフェアトレードの根幹です。

ミニー そもそも現在のフェアトレードと言われるものは、1960年代70年代の海外では「オルタナティブ・トレード」と言われていました。当時はトレード=公正という考えが浸透していたので、「フェアトレード」と言っても、「え?トレードはそもそもフェアでしょう?」と言われて、問題意識が持たれなかったのです。消費の中にも広まっていきませんでした。そこで、オルタナティブ・トレードという言葉を使って、トレードのアンフェア、つまり不公正なところを丁寧に説明していくところから始まったのです。

ピープルツリー自由が丘店の店内
ピープルツリー自由が丘店の店内

――トレードの不公正がもとで、どのような問題が起こっていたのでしょうか。

鈴木 この20年、大量消費型のファストファッションによって、人は安価に多様なおしゃれを楽しむことができるようになりました。これはファストファッションの恩恵だったと思います。しかし、こうしたメリットは、あくまで消費する側の立場から考えられたものです。加速する生産や大量の消費のもと、作り手たちがどのような境遇にあるのかが忘れ去られてきました。特に多国籍企業が増加し、生産の過程が無数に分業化されたことで、消費者には生産工程で誰が何をしているのかという情報が届かなくなっています。

でも、生産の過程をちゃんと見てみると、一つのコットン製品でも、綿を紡いで糸にして、それを織って、縫製して、装飾を施してと、ものすごく手間がかかっていることがわかります。最近はTシャツ1枚が500円などで売られていることがありますが、この売り上げで、本当に生産に携わった人たちは暮らしていけるのか。その問題を真剣に考えなければなりません。この問題を見て見ぬふりをしてきた結果が、2013年のラナ・プラザでの事故だと思います。

――ダッカ郊外の商業ビル、ラナ・プラザが崩落して1000人以上の死者を出した事故ですね。ビルの中には縫製工場も入っていたとか……。

鈴木 はい。倒壊の前日にはビルに亀裂などが見つかっていたのですが、オーナーたちはこれを無視して従業員に業務を続行させました。無理な稼働の背景には、価格的にも時間的にも無理のある先進諸国からの発注が背景にあったとして、ファストファッションの問題が世界的に注目されるきっかけになった事故です。

こうした問題に関しては「ザ・トゥルー・コスト~ファストファッションの真の代償~http://amzn.asia/4ry0DkP」というドキュメンタリー映画が示唆的です。弊社の創設者サフィア・ミニーも出演しているのですが、ファストファッションによる無理な生産体制の真のコストとはいったい何で、それは誰が支払っているのだろう、ということを問いかけています。特にファッションに関しては、大量生産、大量消費が大量廃棄にもつながっていて、貧困問題から環境問題まで、悪循環に繋がっているんです。

ミニー 特に化繊は何百年、何千年と埋め立て地の中に残ってしまいます。ファッションの大量廃棄は環境を考える上でも重要な問題です。

――生産という最初の過程から、破棄と言う最後のプロセスまで、フェアトレードの目指すものとは真逆の仕組みになってしまっているんですね。

鈴木 しかも、それが当たり前になってしまっているんです。先ほども言いましたが、分業化の結果として、生産から廃棄に至るまでのプロセスが不可視化されたことで、人々がそれぞれ、自分の利潤をいちばん高くすることに集中するようになってしまいました。利潤を最大限にするには、単純に言えば安くものを仕入れて高く売ることですよね。そのしわ寄せとして、生産者が苦しむことになってしまっている。それが今の消費の構造なのです。

納期を守ってもらうのは、確かに当然のことです。しかし、それは納期に無理がないことが前提です。今の生産体制で納期を守るためには、従業員全員が徹夜で作業しなければならず、それが連日続くような状態になっています。無茶な依頼をして、納期だから守れと無理を強いる産業構造が、ファッション業界には存在する。フェアトレードでは、こうした非人間的な労働を強いることなく、作り手の安全や健康を確保した上で生産できる環境を整えることを目指しています。

――具体的にはどのような対策をとっているのですか。

鈴木 例えばピープルツリーでは、早めの発注を心がけています。来週11月20日には、秋冬物の展示会を行いますが、このコレクション、実は2018年の秋冬物なんです(※インタビュー収録は11月14日)。1年後のコレクションをバイヤーさんにご覧いただき、同時に予約を受け付けます。そうすると、買ってもらうことが前提で作り始めることができるので、長期的にプランを立てて生産できるし、資金繰りもやりやすくなるんです。作り手も安心して生産することができます。注文する側の都合で生産者だけに無理を強いるのではなく、サプライチェーン上のそれぞれが少しずつ協力して持続可能な生産体制を築くことが大切です。

ファストファッションが3か月サイクルで一連の動きをこなしていることを考えると、私たちのスパンの長さがお分かりいただけるかと思います。

◇複層的な問題構造

――作り手の方々はどのような環境で働いているのですか。

鈴木 搾取的な生産を行っている工場をスウェットショップと言うのですが、こうした工場は多くの場合都市近くの郊外に建てられます。働き手の多くは農村地帯からの出稼ぎ労働者です。家族から引き離され、劣悪な環境で働きます。彼らは仕送りのために働いているわけですが、都市部は物価が高く、仕送りのためのお金を残そうとすると、本当に最低限の暮らしになってしまいます。

例えば住居も、狭い部屋に何人もの人がぎゅうぎゅうに詰められて生活していたり、1日に15時間近く働くことになったり、当然休みもありません。また、ラナ・プラザのように就業場所の安全対策が不十分なことも多々あります。火災が起きた時の避難経路が確保されていない、工場に外から鍵をかけられていて、何かあっても逃げることができない、などです。

ミニー 就業場所の安全対策は特に深刻な問題でした。ラナ・プラザ以前にも、毎年何十件もの工場火災やビル倒壊が起こっていたんですよ。ラナ・プラザの事件以後、ようやくこうした問題の深刻さが認識され、その後2015年には、Accord on Fire and Building Safety in Bangladeshという同国でのビルの安全を定める合意が結ばれました。

この合意はラナ・プラザの事故からたった2年で成立したわけですが、これはラナ・プラザ以前にも同様の問題が起こっており、安全状況の改善を求める動きが起こっていたからなのです。合意の枠組みは、技術者や専門家など多くの人が携わって、ラナ・プラザ以前に出来上がっていました。しかし、問題の重要性が認識されておらず、誰も調印していませんでした。ラナ・プラザでの出来事があって、問題に気付いた消費者の不買運動などもあり、ようやく安全対策の必要性が理解され、調印に至ったのです。

鈴木 難しいのは、「バングラデシュの人たち」と一括りにできないところです。同じバングラデシュ人でも、労働者側と工場のオーナー側では利害が一致しません。さらに、工場同士では先進国からの受注をめぐって熾烈な争いが繰り広げられています。オーダーで無理難題を押し付けられても、その条件を飲まなければ依頼が他の工場にいってしまいます。労働条件について、交渉する余地がないのです。工場長は無理をしてでも自分の注文にするために、過酷な条件を受け入れてしまうのです。

加えて、バングラデシュの国会議員の8割くらいは繊維産業で財を成している人たちです。労働者の権利を守る法律は、自分たちの利益を脅かすと解釈され、なかなか法制が整わない背景もあります。重層的な利害関係のせいで、対策は諸外国が指摘するほど単純ではないのです。

ミニー オーナーの中にも、こんなことはしたくないと思っている人はいるんですよ。でも競争があるから、そうせざるを得ない。バングラデシュ国内での競争、さらには国外との競争で生き抜くために、消費者やバイヤーからの無理なノルマ設定を受け入れてしまうんですね。

鈴木 フェアトレードを説明するときに、単に「途上国支援」というと不正確な理由はここにあります。フェアトレードが支援しているのは、途上国の中で、さらに「弱い立場に置かれている人々」なんです。こうした人々に対し、草の根的に直接働きかけることができるのが、フェアトレードの強みです。……つづきはα-Synodos vol.233で!

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2017.12.1 vol.233 特集:公平な社会を切り開く

1.ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

2.【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

3.【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

4.阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」

プロフィール

シノドス編集部

シノドスは、ニュースサイトの運営、電子マガジンの配信、各種イベントの開催、出版活動や取材・研究活動、メディア・コンテンツ制作などを通じ、専門知に裏打ちされた言論を発信しています。気鋭の論者たちによる寄稿。研究者たちによる対話。第一線で活躍する起業家・活動家とのコラボレーション。政策を打ち出した政治家へのインタビュー。さまざまな当事者への取材。理性と信念のささやき声を拡大し、社会に届けるのがわたしたちの使命です。専門性と倫理に裏づけられた提案あふれるこの場に、そしていっときの遭遇から多くの触発を得られるこの場に、ぜひご参加ください。

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