2021.01.28

トランプ氏SNS排除のリスク――いまそこにある危機

田中辰雄 計量経済学

情報

いま緊急の課題は何か

2021年1月、トランプ元大統領のツイッターのアカウントが永久凍結された。フェイスブックも追随し、トランプ氏は大手SNSから排除された

この事件は、さまざまの論評を呼び起こした。デマを流し暴力を煽るアカウントは凍結されてしかるべきという容認論がある一方、言論の自由を奪う危険な措置という批判もある。法的に見て私企業がユーザに自社のサービスの利用を許すかどうかはその企業の自由であるという容認論がある一方、SNSのプラットフォームはすでに世界規模のインフラであり、一企業の範疇ではないという反論もあろう。議論はさまざまの角度から可能であり、今後時間をかけて議論が続けられることだろう。

しかし、それとは別に、より緊急の問題がある。それはSNSの世界が保守とリベラルの二つに分割されてしまう未来が見え始めたことである。トランプ氏も含めた何人かの保守側の論客は新しい独自のSNSへの移行を唱えている。パーラーがその候補であるがそれ以外も取りざたされる。もしトランプに投票した7500万人が別のSNSに移動すれば、アメリカ社会は互いに交流することのない二つに世界に分裂してしまう。これは民主主義にとって非常に良くないシナリオである。

そして、肝に銘ずべきは、これは一度起きてしまうともう取り返しはつかないということである。言論の自由や法律論などの問題は、いくら時間を掛けて議論してもよいが、このSNS分断の問題は時間を掛けることが許されない緊急の課題である。本稿の目的はこの悪夢のシナリオについて警告を発する点にある。

高バイアスニュース

振り返ってみるとこのSNS分裂の芽は昨年から見え隠れしていた。開票後からトランプ氏は選挙は不正であると主張し、彼の支持者から多くの選挙不正を訴えるツイートが出回った。その中にはすぐにねつ造とわかるフェイクニュースもあり、直ちにファクトチェック機関が対応した。ツイッターもフェイスブックも、「このニュースにはファクトチェック機関から疑義が出ている」との警告を発して、フェイクニュースの拡散の抑制に努めた。ここまではフェイクニュース対策として王道であり、比較的順調にことが進んでいた。

変調が生じたのは、選挙不正の声が収まらないことに業を煮やしたのか、大手SNSがフェイク判定の適用範囲を拡大してからである。一般にフェイクニュースには二通りある。ひとつはねつ造写真や日付・場所などが明示されてはっきりとフェイクと示せるニュースである。これは客観判定が可能であるためファクトチェックでけりがつき、フェイク判定された側も受け入れる。

もう一つは一握りの事実を含むが極端な解釈を取るために読者をミスリードするニュース、いわば高バイアスニュースとでも呼ぶべきニュースである。たとえば、郵便投票について、死者が投票した、人数が合わないなどの不整合のニュースがそれである。郵便投票はかつてない規模で行われたため、不正以外でも手続きや作業ミスで不整合は起こりうる。したがって不整合があっても不正のせいかはまだわからない。このとき、郵便投票に不整合があるから選挙は不正でやり直せと訴えるのは極端に過ぎており、高バイアスニュースである。

このような高バイアスニュースは客観的なフェイク判定になじまない。たとえ一握りであっても不整合という事実を含むため、フェイクと言われた側は納得せず、論争になるからである。一握りの事実をどれくらい重く見るかは、事実判定より意見の相違の範疇に入る問題で、フェイクの客観判定は困難である。【1】

【1】高バイアスニュースについては以下を参照されたい。田中辰雄 山口真一 菊地映輝 青木志保子 渡辺智暁,2020「流言は知者に止まる -もうひとつのフェイクニュース抑制策-」DISCUSSION PAPER_No.19(20-005), https://www.glocom.ac.jp/publicity/discussion/5328

ある時点から大手SNSは、このような高バイアスニュースも含めてフェイク判定をするようになった。選挙不正を語るだけでリンクが張れなくなったり、証拠無しと表示されるようにもなったのはこのためだと考えられる。しかし、これはトランプ支持者のSNSへの信頼を大きく損ねることになった。なぜなら、まだ論争の余地があると彼らが考える問題について、SNSが先に結論を出しているように見えるからである。

選挙が不正かどうかを判断して決めるのは個々人であるべきで、プラットフォームが決めるのはおかしい、熱狂的なトランプ支持者だけでなく、穏健な支持者の中からもそう感じる人が出てくるのは避けがたい。かくして、SNSの上で選挙不正について議論する言論の自由は無いのかという絶望感が広がる。自由を求めて他のSNSに移動しようという動きはこのころから(12月ごろ)からささやかれており、SNS分裂の萌芽はすでにあった。これを一挙に加速したのが1月に行われたトランプ氏のアカウント停止である。パーラーへの登録者が激増し、一時はランキングのトップに立った。

パーラーは本稿執筆時点でAppstoreとGooglePlayでのアプリ配信が停止されているが、これで状況が変わることはないだろう。パーラーの配信停止は白人至上主義者など過激団体の発言を許しているからとされる。では過激団体の発言を制限した新しい保守SNSが登場したらどうするのか。配信を拒否する論拠は失われ、AppstoreとGooglePlayにそのアプリが載り、そこにトランプ支持者が移動すればSNSの分裂は完了する。問題の根は、一部の過激派だけでなく、膨大な穏健派がツイッターなどのプラットフォームは不公正だと思っている点にあり、それがある限り流れは止められない。パーラーが消えても、潜在需要がある限り新たなSNSが登場し、分裂へといざない続ける。

SNS分裂の重大さ

SNSの分裂が問題と書くと、ネットはそもそも分断が進んでおり、いまさらSNSが分裂しても騒ぐほどのことか思う人もいるかもしれない。ネットでは自分の近い意見の人だけが集まっては過激化していく現象、いわゆるエコーチェンバー現象が広範に起きており分断はどのみち避けがたい、と。

しかし、そうではない。意外に思えるかもしれないが、ネットはむしろ人々を穏健化して分断を防いできたのである。その大きな証拠は、過激化して分断されているのがネットを使わない中高年であり、ネットを使う若年層ではないことである。【2】ネットのせいで分断が進むならネットを良く使う若年層が過激化して分断されているはずである。ところが、日本でもアメリカでも事態は逆で、過激化しているのは中高年であり、若年層ではない。【3】ネットを使う若年層がむしろ穏健で中庸であるなら、ネットの利用によってむしろ分断は抑制されていることになる。実際、直接的な検証として、ネットを使う前と後を比較すると、ネット利用開始によって人々が穏健化するという調査結果を示すこともできる。

【2】田中辰雄、2020/1/7「ネットは社会を分断しない――ネット草創期の人々の期待は実現しつつある」シノドス、https://synodos.jp/society/23196

【3】アメリカについては次を参照。”Political polarization? Don’t blame the web,”

https://www.sciencedaily.com/releases/2017/09/170919140421.htm

ネットを利用しても分断が進まないのは、人々が保守・リベラル両方の論客の意見に接しているからである。ツイッターでフォローする論客を見ると、自分の政治傾向と反対の論客も多い。平均的に見てフォロー相手のうちの実に4割程度は自分と政治傾向が反対の論客である。【4】すなわち保守の人がフォローする論客の4割はリベラルの人であり、リベラルの人がフォローする相手の4割は保守の論客である。フォロー相手の9割を自分と同じ政治傾向の論客で固めるなどという、いかにもエコーチェンバーを起こしそうな人は1割程度しかいない。大多数の人は保守・リベラルの広い範囲をフォローしており偏ってはいない。これがためにネットは社会の分断をむしろ防いできたのである。

【4】田中辰雄、2020/1/7 シノドス 同上

ただし、容易にわかるように、これには大きな前提条件がある。それは全国民がツイッターというひとつのSNSに所属しているという条件である。保守からリベラルまで、極右から極左まで、広範な人がSNSのなかにいてこそ、人はさまざまの意見の人をフォローし、バランスをとって中庸で穏健な見方を保つことができる。

SNSが分裂すれば、この前提条件が失われる。保守とリベラルの二つのSNSに分かれてしまうと、保守SNSでフォロー可能なのは保守論客ばかり、リベラルSNSでフォローするのはリベラル論客ばかりになる。したがって、いわば国民全体が巨大なエコーチェンバー状態に置かれることになる。その結果、意見は過激化し、分断はさらに加速する。このことの悪影響は強調してし過ぎることはない。行き過ぎた分断は相互理解を不可能にするからである。

民主主義は多数決で事を決するが、この多数決が機能するためには最低限の相互理解が必要である。意見は異なっても、相手の言っていることの趣旨は理解できる必要がある。そのような理解があってこそ、多数決で負けた側は、今回は相手に任せようとして敗北をうけ入れ、決定に従うことができるからである。相手を理解することもできないほど分断が進むともはや多数決に従う気にはなれない。理解不能な相手の言うことをなぜ聞く必要があるのか。その先にあるのは力を持って相手を拒否し、或いは制圧せんとする事実上の内乱状態である。SNSの分裂は相互理解を不可能にし、民主主義を機能不全に導きかねない。

あり得た道、これからの道

このような危惧は私だけのものではない。1月14日、ツイッター社のCEOであるJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は連続ツイートを行い、トランプ氏のアカウント凍結について自身の見解を述べた。【5】そこには社会分断への危惧を見ることができる。

【5】https://twitter.com/jack/status/1349510769268850690

彼は、まず、アカウント凍結は正しかったのかと自問し、目前に迫る暴力行為を防ぐためのやむを得ない措置であり、正しかったと信じると述べる。しかし、同時に、アカウント凍結は、ツイッター社の最終的な目標である「健全な対話(healthy conversation)」にとって失敗だったかもしれないとし、それがもたらす帰結に危惧を表明する。彼は述べる。

Having to take these actions fragment the public conversation. They divide us.

一連の行為により公的な対話はバラバラになる。われわれは分断される。

一連の行為とは、文脈から言ってツイッター社の取った凍結などの対策のことである。fragmentとは断片化のことで、人々がバラバラになって、互いに対話することができなくなってしまうことを意味する。彼が表明しているのは、アカウント凍結でネットでの対話が分断されてしまうことへの危惧である。この危惧は、本稿の問題意識と重なるものである。

ドーシー氏は当初はここまでの騒動になることは予期していなかったようである。彼はツイッターはネット上のひとつのサービスに過ぎず、不満なら他のサービスを使えばよいくらいに考えていた。しかし、ツイッターのアカウント凍結後、フェイスブックが追随するなど、有力なネット企業が一斉に動いたことで、その考えが動揺する。誰でもアクセスできるオープンなインターネットが失われるのではないかという不安にとらわれるのである。

SNSの分裂はその不安が具体的に現れた一つの形と見ることができる。社会が互いに対話することのない二つの世界に分かれてしまうと民主主義は機能しない。民主主義は皆がひとつの船に乗っていてこそ機能する。互いに理解することができない二つの集団に分かれてしまうことは民主主義にとって悪夢である。そして繰り返し述べるように、いったん二つに分かれたSNSを元に戻すことは極めて難しい。それは民主主義にとって取り返しのつかない負債となる。

トランプ氏のアカウントを凍結した人、あるいは高バイアスニュースをフェイク判定した人は、民主主義を守るためにやっていると思っていただろう。民主的手続きで選ばれた人を不正選挙だとして否定し、暴力で阻止しようとすることは民主主義の否定であり、許せない、と。その動機自体は純粋で真摯なものかもしれない。しかし、その行為が、結果としてSNSの分裂を招き、民主主義の危機を引きよせたとすれば皮肉としか言いようがない。

あるいは次のように言っても良い。トランプ支持者の中には、自分たちだけで凝り固まってエコーチェンバーを引き起こし、過激化している人種差別的団体があるとされる。アカウント凍結を支持した人は、凍結によって彼らがSNSから排除できたと拍手を送ってるかもしれない。しかし、凍結したことによって、国民が保守とリベラルのSNSに分割され、巨大なエコーチェンバーが生まれるとすればどう思うだろうか。過激団体の構成員は全国民からすればわずかである。それに対し全国民が分裂してエコーチェンバーを起こした時の弊害は小さな過激団体の比ではない。

今から思えば、分裂を防ぐ別の道はあった。高バイアスニュースとの戦いは、ジャーナリストや放送局、新聞社などに任せ、プラットフォーム事業者は手を出さずにいても良かっただろう。プラットフォーム事業者がみずから高バイアスニュースのフェイク判定をする必要があったかどうかは疑問である。トランプ氏のツイートが就任式前の暴力行為を煽るのが問題なら、トランプ氏のアカウント停止は就任式が終わるまでなど期間限定にすれば良かった。そうすれば、トランプ支持者もSNSに残り、国民は一つの船に乗り続けた。

しかし、実際にはプラットフォーム事業者は、みずから高バイアスニュースのフェイク判定に乗り出し、アカウントを永久凍結した。すでにことは決しており後戻りはできない。下船の準備をする人は荷物をまとめ、SNS分裂の可能性はかつてなく高まっている。たとえば、アメリカの元下院議長ニュート・ギングリッジは、現在のソーシャルメディアは偏向しているので、保守のソーシャルメディアをつくるべきだと公言している。【6】

【6】「SNS排除は言論封殺:ギングリッチ元米下院議長、保守系の新メディア創設を」

https://vpoint.jp/world/usa/189450.html

なんとか分裂を回避するシナリオはないだろうか。ツイッターとフェイスブックがトランプ氏のアカウントを復活させれば元に戻る。SNS分裂は両社にとって顧客が減ることを意味するので、ビジネス的には復活させた方がよく、その面では復活の可能性が無いわけではないだろう。ただ、現状、トランプ氏は米国を分断した悪の象徴とされているので、復活させれば両社は袋叩きにあうのは必至であり、ハードルは高い。

もう一つのシナリオは分裂が不発に終わることである。ここまで分裂のリスクがかつてなく高まっていると述べてきたが分裂が確定したわけではない。トランプ氏とそのグループが新たなSNSを立ち上げても、穏健な保守派がそこに移らずに現在のSNSに残れば、分裂は不発に終わる。ツイッターに保守派の新たなオピニオンリーダーが現れて、穏健なトランプ支持者を引き継ぐというシナリオである。

しかし、そのようにうまくことが運ぶ保証はない。この二つのシナリオが不可能なら、穏健な人まで含めた保守派が新しいSNSに移るという、分裂のシナリオが始まる。繰り返し述べるように、いったん分裂したSNSは元には戻らない。民主主義にとって悪夢のシナリオが現れる。この場合、トランプ氏のアカウント凍結は、悪夢に至る道を開いた分水嶺として歴史に残ることになる。おそらく歴史的な失着として。

どのシナリオが実現するかは現時点ではまったくわからない。いまは注視するしかない。アメリカは安全保障をはじめとして日本と関係の深い国である。アメリカ社会が分断され、機能不全に陥ることは日本にとっても困ることである。われわれ日本人にできることは少なく、SNSが二つの世界に割れぬよう祈るばかりである。

プロフィール

田中辰雄計量経済学

東京大学経済学部大学院卒、コロンビア大学客員研究員を経て、現在慶應義塾大学経済学部准教授兼国際大学GLOCOM主幹研究員。

編著に『著作権保護期間―延長は文化を振興するか?』、「フェアユース導入はコンテンツ産業にプラスかマイナスか」、「クリエイター側は著作権保護をどうみているか―日米国際比較―」などがある。

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