2014.04.12

『いちから聞きたい放射線のほんとう』など――今週のシノドスエディターズチョイス

シノドス編集部

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『いちから聞きたい放射線のほんとう』(筑摩書房)菊池誠・小峰公子(著)おかざき真里(イラスト)

「放射線」「放射性物質」「セシウム」「ベクレル」「シーベルト」……。福島第一原発事故の直後から、見慣れない言葉を多く目にするようになった。科学に日頃触れていない身にとっては、その意味を正確に理解するのは、とても骨の折れる作業である。

しかし、放射線の知識はみんな理解しているよね、と社会はどんどん進んでいってしまう。今さら「放射線ってなんですか」「ベクレルとシーベルトの違いって何」「放射線ってなんで体に悪いの」とは、とてもとても聞けない。そもそも、誰に聞いていいのかもわからない。

『いちから聞きたい放射線のほんとう』は、「放射線が気になる人のための、もっともベーシックでわかりやすい本」を売りにしている。本書では、物理学の専門家である菊池誠氏に、福島県郡山市出身のミュージシャン小峰公子氏が、わからない点をとことん聞いていく。科学が苦手という人も安心して欲しい。小峰氏が気になるところを徹底的に質問してくれるので、よくわからないまま本を読み終わることもない。

第一部「放射線ってなんだろう」の第一章は「みんなつぶつぶでできている――原子と原子核のこと」である。なんと、原子についてのおさらいからはじまる。元素周期表のイラストまでついてくる。基礎中の基礎と言える。しかし、「そんなのもう知ってるよ」とめんどうに思ってはいけない。

原子のしくみから放射線を理解したうえで、「シーベルト」「ベクレル」「内部被ばく」という言葉に触れると、するすると理解できる。一見遠回りに見える道のりも、後の理解に大いに役立つ。そして、知っていたはずのことが、菊池氏の説明だとより生き生きと感じられる。こんな、理科の先生に習いたかったと思う人もいるだろう。

菊池(メガネと長髪のアイコン)「もてあましたエネルギーを外に発散して、別の原子核に変わっちゃう。その時に放出するものが放射線」

小峰(お団子頭のアイコン)「おお。放射線はやるせなさエネルギーの発散なのか!」

二人のやり取りは、軽妙に、丁寧に進んでいく。

第二部では、「DNAが壊れたら必ずがんになるの?」「妊娠中の被ばくをとう考えればいいの?」と素朴な疑問も扱っている。放射線についてほとんど知らない人、そもそも興味がなかった人に、ぜひ手に取って欲しい本。(山本)

著者のひとり、菊池誠氏の記事一覧 → https://synodos.jp/authorcategory/kikuchimakoto

『ヒト、動物に会う コバヤシ教授の動物行動学』(新潮新書)小林朋道

いまとなってはなにがどうしてそんな行動をとっていたのかわからないが、幼い頃に、アリの行列をジーっと眺めたり(往々にしてその後、いま振り返るとその残酷さに戦慄が走るようなことをしたりする)、ビビりながらセミの亡骸をつついてみたりしていた(気がする)。

筆者の小林朋道氏(鳥取環境大学教授)は、そんな少年の気持ちをいつまでも忘れずに、動物行動学者として、ありとあらゆる動物たち(カラスからヘビからイヌからトンビまで!)を、観察し、洞察する。本書はそうした動物たちの行動を綴った11のエッセイが収録されている。

例えばこんな話がある。「ブル」と名付けられたトカゲの一種であるカナヘビの観察を、初夏の休日、午後3時頃からはじめ、夜の8時過ぎまで行うコバヤシ教授。ブルが逃げ出さないように距離を取りながら、ブルが動けば教授も動き、ブルが止まれば教授も止まる……。その日、移動した距離は、だいたい10メートル程度。

カナヘビだって夜になればもちろん寝る。コバヤシ教授も夜になれば夕食を食べる。しかしブルはなかなか寝てくれない。コバヤシ教授は“石や倒木の下の穴”で寝るだろうとイメージしているのだけれど、期待通りの行動はしない。むしろとつぜんクリの木に登り始める。しかも木の幹の隙間で気持ちよさそうに目を閉じてやすみはじめるではないか!

いやいや、このあと地面に降りて、寝床へ向かうに違いない。こうなりゃ意地だ、最後まで付き合ってやろう。……結局、ブルはそのまま夜を過ごした。ああ、カナヘビだって暑い夜は風が当たる場所で寝たいよな。俺もハンモックで寝たくなったよ。

コバヤシ教授の、動物たちに対する眼差しはとても優しい。まるで友だちのことを紹介するように動物たちのことを語ってくれる。だからといって「ほのぼの物語」で読者をほっこりさせてくれるだけではない。動物たちがどのように生きているのか、種別はもちろん、ヒトが個性と呼ぶような、一匹一匹の特徴まで、観察のあり方、洞察、これまでに得られている知見を紹介してくれる。自然を見るときの重要な眼差しも教えててくれるのだ。

さくさくと読み進められる本だ。まずは気軽に、暇つぶしの気分で手に取って欲しい。だが、そこから得られる知見とコバヤシ教授の眼差しは、何気ない日常を少し新鮮に感じさせる。それはもしかしたらちょっとだけ懐かしいものであり、意外と大切なもののような気がする。(カネコ)

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