2026.09.08
「おすすめ」のなかに政治がある――SNSは「対立」をどう扱うのか
SNSを開くと、次々と投稿が流れてきます。
「この投稿」がなぜ表示されたのか、私たちが考えることはまずありません。
タイムラインで目にしたから見る。ただ、それだけです。
しかし、タイムラインの背後では、「レコメンドアルゴリズム」が働いていて、何を見せるかを決めています。
SNSのレコメンドはこれまで、できるだけ長くサービスを使ってもらう方向に設計されてきました。
この人は何をクリックするのか、何に「いいね」を押すのか、何を長く見るのか。
そうした行動を予測し、利用者が反応しそうな投稿を優先して表示してきました。
ところがいま、レコメンドアルゴリズムに、別の役割を持たせようとする試みも現れています。
利用者が何に反応するかだけでなく、人びとのあいだにどのようなやり取りを生み出すかにまで、アルゴリズムが関わりはじめています。
そこで焦点になっているのが、人びとの「対立」です。
人びとの意見が対立したとき、どのような発言を目立たせるのか。
立場の違う人びとの合意を重視するのか、それとも、意見が違ったままでも対話がつづくことを目指すのか。
専門家の判断を信頼するのか、あるいは利用者自身の判断に委ねるのか。
対立への向き合い方は、ひとつではありません。
合意することより、対話をつづけること
2026年8月、ジョナサン・ストレイは、「利用者がコントロールできる初のSNSアルゴリズム――建設的な会話のための設計」という記事を公開しました。
そこで紹介されているのが、GreenEarthという新しいレコメンドシステムです。
このシステムの特徴は、利用者が反応しそうかどうかだけでなく、投稿の「建設性(constructiveness)」も評価する点にあります。
なぜそう考えるのかを説明しているか。
個人的な経験を語っているか。
相手への好奇心や敬意があるか。
逆に、侮辱やアイデンティティへの攻撃、怒りを煽る表現が含まれていないか。
こうした基準をもとに、論争的であっても対話がつづきやすい投稿を上位に表示します。
また、利用者は、タイムラインに表示される投稿について、反応の多さと建設性のどちらを重視するかを自分で決めることもできます。
「利用者がコントロールできる」というのは、このことです。
ストレイが目指しているのは、人びとの意見を一致させることではありません。
意見が違ったままでも、対話をつづけられる情報環境をつくることです。
Xは少し違う方向から、同じ問題に向き合っています。
Xには、利用者同士の評価をもとに投稿へ注釈(Note)を表示する、Community Notesという仕組みがあります。
そこでは、表示するNoteを単純な多数決では決めていません。
重視されるのは、立場の異なる人びとが、同じNoteを「役に立つ」と評価しているかどうかです。
Xはいま、この考え方を通常の投稿の評価にも広げようと、「Got Likes」という実験をしています。
立場の異なる人びとの双方から支持される投稿を、見つけ出そうというものです。
どちらも「よりよいSNS」を目指しているように見えますが、何をよい状態と考えるのかは同じではありません。
誰の判断を信頼するのか
次に議論になるのが、意見が分かれたとき、誰の判断を信頼するのかということです。
Metaは米国で、独立した第三者機関によるファクトチェック制度を採用していました。
しかし2025年4月、その制度を終了し、Xと同様のCommunity Notesへ移行しました。
そこでMetaが掲げたのは、「free expression(表現の自由)」への回帰でした。
ファクトチェックやコンテンツ規制をすると、政治的言論まで抑えかねない。
そう考えて、専門家やプラットフォームによる判断を減らし、利用者同士の評価を重視する方向へ転じたのです。
TikTokも米国で、Footnotesという似た仕組みを導入しています。
ただし、TikTokは専門家によるファクトチェックや既存のモデレーションを残しています。
Footnotesは、利用者による集合知を、新たな判断材料としてそこに加えるものです。
他方、Blueskyは別の答えを出しています。
どのような基準で情報を選び、並べるのかを、ひとつの企業が決める必要はない、という考えです。
Blueskyが掲げる「algorithmic choice」とは、第三者がさまざまなフィードをつくり、利用者がそのなかから選ぶということです。
意見の一致しない社会を、どのようなルールで成り立たせるのか。
GreenEarthは、違いを残したまま対話をつづけることを重視する。
Xは、立場を超えた合意を探す。
Metaは、専門家やプラットフォームが判断する範囲を狭める。
TikTokは、専門家と集合知を組み合わせる。
Blueskyは、どの基準を採用するかという選択そのものを利用者へ返そうとする。
このように、それぞれの仕組みの背後には、異なる「思想」があります。
「正しい」アルゴリズムはない
2026年4月、コペンハーゲン大学などの研究チームが、SNSでどのような投稿を優先して表示するかによって人びとの認識がどう変わるのかを調べた研究を発表しました。
1500人を対象に行った実験の結果は、次のようなものでした。
参加者の好みに合わせて投稿を表示すると、人びとの意見の隔たりが大きくなる。
そして、事実についても、誤った認識を持ちやすくなることが示されました。
一方、立場の異なる人びとから支持される投稿を重視すると、人びとのあいだに合意が生まれやすくなる傾向が見られました。
また、情報の正しさを重視して投稿を選ぶと、事実についてより正確に理解しやすくなる傾向も確認されました。
自分が見たい情報と、人びとのあいだで合意を生みやすい情報、事実を正しく理解するのに役立つ情報は、このように必ずしも重なりません。
しかし、どれかひとつを当然のように優先できるわけでもありません。
個人が見たいものを見ることにも価値がある。
異なる立場の人びとのあいだに合意が生まれることにも価値がある。
正しい情報が広がることにも価値がある。
だから、一企業が情報を選ぶことに問題があるからといって、その判断をすべて個人へ返せばすむわけではない。
中央に権限を集めることにも問題がありますが、完全に分散することにも別の問題があります。
もちろん、集合知も万能ではありません。
2026年に、『Science Advances』に発表された研究では、意見の対立が激しいテーマほど、立場の異なる人びとの双方から支持されるNoteが少なくなり、表示されにくくなることが示されました。
立場を超えた合意を基準にする仕組みは魅力的です。
しかし、意見が激しく分かれているテーマほど、その合意自体が生まれにくい。
どんな対立もうまく処理してくれる仕組みは、ありません。
となると、問題の核心は、どの「思想」を選ぶのかということになります。
政治的な判断が「おすすめ」になる
ここで、もう一度、SNSを開いたときのことを考えてみます。
利用者の目に入るのは、アルゴリズムによる「あなたへのおすすめ」が並んだ、ただのタイムラインです。
そこには議会もなければ、裁判官もいません。
何か政治的な決定が行われているようにも見えません。
しかし、その「おすすめ」の背後では、どのような意見を目立たせるのか、どのような対立を残すのか、どのような合意を価値あるものとするのか、誰の判断を信頼するのかが決められています。
オールドメディアと呼ばれる新聞やテレビにも、もちろん情報を選ぶ判断はありました。
どの出来事を取り上げ、何を大きく扱うのかは、それぞれのメディアが決めていました。
ただ、新聞やテレビでは、そうした情報の選択は「編集」として受け止められていました。
読者や視聴者も、そこにメディアの判断が入っていることを知っていました。
SNSでは、社会の情報環境を左右するこうした判断が、何を表示し、何を目立たせるかという仕組みのなかで実行されるようになっています。
しかも、そこで扱われる問題は、いまや「どの情報を見せるか」だけではありません。
意見が対立したとき、合意を求めるのか。
違いが残ることを認めるのか。
専門家に判断を委ねるのか。
集合知に委ねるのか。
それとも、その選択自体を個人へ返すのか。
こうした問いは、本来、政治や社会制度が長い時間をかけて扱ってきた問いです。
ところがSNSでは、その答えが、政治的な「決定」として提示されるわけではありません。
ある投稿が上に来る。別の投稿が下がる。
あるNoteが表示される。ある立場の意見が目につきやすくなる。
政治的な判断が、政治としてではなく、「おすすめ」として実行されるのです。
そして、その背後では、異なった「思想」がせめぎあっています。
私たちが何気なく眺めているタイムラインは、ただ情報を並べているだけではありません。
どんな社会なら、意見の違う人びとがともに生きていけるのか。
その問いへのひとつの答えが、毎日「おすすめ」として私たちの前に並べられているのです。
プロフィール
芹沢一也
1968年東京都生まれ。株式会社シノドス代表取締役。
言論プラットフォーム「SYNODOS」を立ち上げ、編集・運営に携わる。研究者や専門家とともに、政治、社会、科学技術などの複雑な問題を、社会にひらかれた言葉で伝える活動を続けてきた。
現在は、私たちが生きる世界を新たな視点から捉え直す「SYNODOS Future」を展開。また「シノドス英会話」を主宰し、「分かっているのに話せない」がなぜ起こるのかを起点に、大人のための英語教育にも取り組んでいる。

