2014.10.31

財務省に異議あり! 生活保護削減案に反論する

大西連 NPO法人自立生活サポートセンター・もやい

社会 #財務省#生活保護

10月27日、財政制度等審議会財政制度分科会の資料が公開された。財政制度等審議会は、国の各施策の削減等の論点や案が提示される財務大臣の諮問機関である。この財政制度等審議会での案は、財務省からの提案ということもあり、今後の国の施策の方針に与える影響も決して小さくない。

今日は、ここで提示された資料の中から、生活保護についていくつか論点を取り上げ、財務省の削減案に関して反論をおこないたい。

生活保護における論点

生活保護にかかわる論点については、以下のような資料が提示された。

社会保障②(年金、生活保護、障害福祉)

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia261027/01.pdf

すでに、生活保護等の生活困窮者支援としては、

・生活保護基準の削減

・生活保護法の改正

・生活困窮者自立支援法

などの取り組みがおこなわれている。その問題点については、以下のリンクを参照いただきたい。

【SYNODOS】生活保護の「引き下げ」は何をもたらすのか/大西連

https://synodos.jp/welfare/743

【SYNODOS】生活保護法改正法案、その問題点/大西連

https://synodos.jp/welfare/3984

【SYNODOS】新たな支援制度の実態とは――生活困窮者自立支援法の問題点/大西連

https://synodos.jp/welfare/5308

詳細は下記に述べるが、今回提示された財務省の案は、「最後のセーフティネット」と呼ばれる生活保護や、生活困窮者支援施策への提案としては、あまりにも雑な提案が並んでいる。

具体的には、

・住宅扶助基準(生活保護の住宅費の基準)の引き下げ

・冬季加算の適正化

・「その他の世帯」の保護脱却にむけた制度の見直し

・医療扶助の適正化(後発医薬品ベースへの見直し)

・生活困窮者自立支援法の財源のありかたと体制の規模について

の各論点があげられた。以下、一つ一つ解説と反論をおこなう。

住宅扶助基準の引き下げ

住宅扶助基準の引き下げに関しては、

「住宅扶助の特別基準は、低所得世帯の家賃実態よりも高い水準に設定されているため、均衡が図られる水準までの引き下げが必要ではないか」

と提案されている。

まず、住宅扶助基準とは何かというと、生活保護で支援する住居に関する費用、具体的には生活保護利用者が居住するアパート等の家賃などの基準額(上限額)を示す。

この住宅扶助基準に関しては、現在、社会保障審議会「生活保護基準部会」にて、議論がおこなわれている[*1]。

[*1] 第19回社会保障審議会生活保護基準部会資料

10月21日に公表された「生活保護基準部会検討作業班における作業について[*2]」という資料を参照すると、住宅扶助に関しては、住宅扶助基準と「最低居住面積水準を満たす住宅の家賃水準」とを比較している。

[*2] 生活保護基準部会検討作業班における作業について

ここでは、現行の住宅扶助特別基準(単身・上限額)では、「最低居住面積水準を満たす住宅の家賃水準」をカバーできる住宅は13.1%に過ぎないという調査結果が明らかになった[*2]。

この「最低居住面積水準」とは、2011年3月に閣議決定された「住生活基本計画(全国計画)」において定められたものであり、「健康で文化的な住生活を営む基礎として必要不可欠な住宅の面積」と定義されている水準である。

現行の住宅扶助基準は、国が定めた「最低居住面積水準」を満たしている額とはいえない状態であるのは明らかになっている。

それにもかかわらず、基準を引き下げるというのはナンセンスであり、閣議決定された「最低居住面積水準」を反故にする矛盾した案である。

冬季加算の適正化

次に冬季加算の適正化について説明する。冬季加算とは、寒冷地等での冬季(11月~3月)の暖房代等の出費を考慮して通常の生活保護費に上乗せされて支給される金額のことである。

ここでは財務省は、

「冬季に需要が増加する家計支出品目の冬季増加額の全国的な地域偏差を超過して設定されている冬季加算額分について、骨太の方針を踏まえ来年度から引き下げるべき」

と提案している。

実際に、総務省家計調査(平成25年度)によれば、全国平均の冬季の需要増加傾向と冬季加算の地域別分布をみると、冬季加算額が過剰に支給されているようにみることもできる。

しかし、この「家計調査」に基づいたデータは、光熱費等の「11月~3月分」と「4月~10分」とを比べ、その増加分を見たものである。そもそもが、夏季には冷房等を利用することは一般的であり、冬季に急に光熱費等が増加するとは考えづらく、ミスリードなデータの出し方である。

また、低所得者や生活保護利用者のなかには、燃費の悪い暖房器具を利用していたり、今後の電気代の値上げ、灯油代の値上げ等を考えると、単純に下げればいいというものでもない。

冬季加算に関しては、先述した生活保護基準部会にて今後、実態調査等も検討されているようなので、引き下げありきの前提でなく、実態に合ったデータに基づいて議論するべきである[*3]。

[*3] 冬季加算の検証について

「その他の世帯」の保護脱却にむけた制度の見直し

生活保護利用者は大きく分けて、「高齢世帯」「傷病障害世帯」「母子世帯」「その他の世帯」にわけられ、高齢世帯が45%、傷病障害世帯は30%、母子世帯は7%、その他の世帯は18%となっている(2013年10月速報値)。

この「その他の世帯」は、稼働年齢層ともいわれ、ここでは、

「経済雇用環境はリーマンショック以降改善しているにもかかわらず、「その他の世帯」をみると保護廃止割合がむしろ低下している」

「就労を通じた保護脱却のため・・・(中略)・・・一層の取り組みが必要なのではないか」

と書かれている。

もちろん、「その他の世帯」への就労支援をおこなっていくことは必要なことだ。しかし、これは2009年のデータになるが、「その他世帯」の年齢階級別分布を見てみると、世帯主の平均年齢は55.8歳で、20代は2%、30代は7%、40代は16%、50代は34%、60代は30%となっている。「その他の世帯」の半数以上が50代~60代であり、必ずしも「働き盛りの世帯主」とは言い難い[*4]。

[*4] 2011年4月19日生活保護基準部会資料「生活保護制度の概要について」9ページ

また、2013年5月16日、社会・援護局長通達「就労可能な被保護者の就労・自立支援の基本方針について」により、新規で生活保護を利用する稼働年齢層は、3~6か月以内に「低額でも必ずいったん就労」ということが求められることになっており、全国の自治体では実際に集中的な就労指導がおこなわれている[*5]。

[*5] 2013年生活保護関係全国係長会議資料38ページ

このような非常に就労バイアスが強い生活保護行政であるにもかかわらず、「その他の世帯」の生活保護利用者が減少しないのは、就労支援の不足というよりは、受け入れ先、雇用先がないという問題のほうが大きいのではないだろうか。

平均年齢が55.8歳で、場合によっては病気等をもっていたり家族の介護等に追われている生活保護利用者が再就職をはたし、就労自立をむかえるのは、なかなか困難であろう。

実際に知り合いの生活保護利用者から話を聞くと、100件以上の面接を受けても落ち続けたり、生活保護利用者であることにより履歴書の空白ができて就職の不利になったりと、就労自立への道のりが厳しいことを日々痛感している。

にもかかわらず、財務省によれば、

「生活保護受給の更新期を設定し、毎更新期に就労自立に向けた受給者の努力も勘案しつつ、保護の継続が真に必要か否かの判定を行うような仕組みも検討すべき」

「就労支援を正当な理由なく拒否した場合には、保護の廃止に至る前の段階的な措置として保護費の削減を行えるような仕組みも検討すべき」

と提起している。

「生活保護受給の更新期を設定し……」に関しては、いわゆる生活保護の「有期化」の議論であるが、ここで言う「受給者の努力も勘案じつつ」とは、あまりにも暴論である。

そもそも、努力をどう判断するのか。結果が出なければ努力していないのか、毎日ハローワークに通えば努力しているのか、2日に1日なら努力しているのか、3日に1日ならどうなのか。または、毎日通っていても真面目に就活していないかもしれないし、その「努力」を一体どのように判断するのだろうか。

もし、このような視点で困った時に最後に使える社会保障制度である生活保護制度が、努力しているかどうかで廃止される、しかも、努力しているかどうかを窓口の職員がみて判断するという非常に精神論的な、そして、制度の運用が各自治体や担当者によって解釈の幅がでてしまうような制度に変わってしまう。

それは明らかに、必要な人を保護し、自立の助長をうながすという本来の趣旨から変容してしまうものであり、実態を顧みない提案である。

医療扶助の適正化(後発医薬品ベースへの見直し)

医療扶助の適正化の論点では、後発医薬品ベースへの見直しを考えたい。財務省の「機械的な試算」によれば、生活保護利用者の医薬品をすべて後発医薬品にすると、約490億円の削減が可能とされている。

そして、

「効能は同じ後発医薬品が存在する場合には、先発医薬品ではなく後発医薬品にかかる費用をベースにして医療扶助の基準を設定すべき」

と提案している。

しかし、すでに改正生活保護法34条3項によって、生活保護利用者は原則として後発医薬品の使用が求められている。そして、実際に後発医薬品の使用割合(数量ベース)では、使用率が48%となっており、徐々に後発医薬品の使用が促進されていることがわかる。

しかし、一方で、後発医薬品の金額シェアでの使用割合をみると、2013年で生活保護が10.4%であり、医療保険では10.9%と、生活保護のほうが使用割合が低くなっている[*6]。

[*6] 同財政制度等審議会参考資料社会保障② 25ページ目

しかし、では、実際に生活保護利用者には後発医薬品の使用を義務付けるべきなのだろうか。医学的には影響が全くないという前提の下で仮に義務付けたとして、しかし、それは、金額ベースでは医療保険の10.9%しか普及していないものを強制することでもあり、スティグマ性(恥の意識)を増長させてしまうことにはならないだろうか。

また、生活保護利用者は、先述したように7~8割を高齢世帯や傷病障害世帯が占めることもあり、慢性疾患等で日常的に服薬治療を受けている人も多い。そういった人たちが薬が変わることにより不安や、また、決まった薬しか使用できなくなる(強制的に)スティグマ性を背負わされる可能性がある。

すでに、後発医薬品の使用の促進に関しては施策としても進められており、このような「機械的な試算」によって削減目標とされてしまうことは、そういった現場での取り組みや、利用者の日常を軽視するものである。

もし仮に後発医薬品の義務化を提起するのであれば、当事者や医療機関等へのアンケート等による実態調査をおこなったうえで俎上にあげるべき論点で、このような形で雑に、そして軽率に「○○億削減」と掲げるものではないだろう。

生活困窮者自立支援法の財源のありかたと体制の規模について

生活困窮者自立支援制度は2015年4月より全国で一斉にスタートする新制度である。僕は、生活困窮者支援を国の責任で制度化したことは評価しつつも、その内容や実施体制については批判的な立場をとっている。

しかし、それを前提としたうえでも、財務省からの提案にはこれまでの議論を無視したような視点から論点が出されている。

特に財源のあり方に関しては、

「まずは、制度改正を含めた生活保護の見直しにより財源を捻出すべき」

制度開始時の体制規模にかんしては、

「自治体の準備状況や地域のニーズに応じた相談員等の配置をおこなうべきではないか。全国一律の予算措置では、実態にそぐわない非効率な体制となるおそれ」

と提起している。

前者の財源に関してだが、かねてより「生活保護を削って生活困窮者自立支援法に予算をまわす」ことに対して批判的(そうなることを予期していた)であった。それがまさに現実的な懸念となった。

生活保護基準の段階的な引き下げにより最終的には約600億円が削減されるとの予定だが、2015年4月よりスタートする生活困窮者自立支援制度はまだ予算規模が未確定とはいえ、500億~600億円程度の規模になると考えられている。

しかし、そもそもが、生活保護制度から削って、その費用を就労支援中心の生活困窮者自立支援制度に充てるというのは非常に問題のあることだ。生活保護制度はナショナルミニマムであり、当たり前だが必要な人が申請すれば支給しなければならず、予算の枠組みがあっても実際には経済雇用状況等の影響をうけて、費用負担額は増減する。

それを、あたかも定められた予算の枠組みの中で、生活保護と生活困窮者自立支援制度で分配するような視点は、生活保護の趣旨や制度の性質を鑑みたときに、まったくもって言語道断のことだ。

また、生活困窮者自立支援制度の政策効果を生活保護利用者の減少としている点も非常に問題がある。そもそもが、生活保護利用にいたらない(いたりそうな)状態の人、具体的には生活保護基準以上の生活困窮者を支える制度として生活困窮者自立支援法は誕生しており、生活保護が対象とする稼働が困難な状態にある・稼働する場がない生活保護基準以下の生活困窮者とは、対象とする層が異なる。

であるので、当たり前だが、生活困窮者自立支援制度が機能したところで、生活保護利用者が減るとはかぎらない(先述のように生活保護利用者は高齢世帯、傷病障害世帯が7~8割を占め、近年は高齢世帯の増加が著しい)。

なので、生活困窮者自立支援制度の政策効果を生活保護利用者の減少とすることは、ミスリードであり、法の実態にそぐわない考え方である。

また、制度開始時の体制規模に関しては、確かに僕も、全国一律でスタートすることは現段階では実態にそぐわないことだと考えている。

実際に、2014年9月26日におこなわれた生活困窮者自立支援制度全国担当者会議の資料をみても全国で一斉にスタートするには準備不足な感は否めない[*7]。

[*7] 生活困窮者自立支援制度全国担当者会議について

特に、「モデル事業実施自治体における支援実績について」を見ると、相談実績が96自治体で2013年8月~2014年6月で、新規相談が9428ケース、うち支援決定が1479ケースとなっている。

これは、単純計算して平均すると、1つの自治体で1か月に新規相談が8.9ケース、うち支援決定が1.4ケースだったことになり、閑古鳥が鳴いている状態であると言える[*8]。

[*8] 生活困窮者自立支援制度全国担当者会議「モデル事業実施自治体における支援実績について」

これらの実績を見ると、正直言って、時期尚早に思える。しかし、この制度の目的は全国一律に新しい支援制度を張り巡らせることであり、政策効果を考え、一部の自治体のみでおこなうことを目的としているものではない。

もちろん、現状の実績等が明らかに不足していることは明らかなので、制度としての信頼性や透明性を高めていくためにも第三者委員会的な検証や改善は必要だが、まだ始まったばかりの制度でもあるので、そこは今後に注視する必要があるだろう。

給付より投資が重視される傾向

ここまで、財政制度等審議会財政制度分科会で公表された資料をもとに、生活保護にかかわる論点について、いくつか解説と、財務省の削減案に対する反論をおこなった。

とはいえ、ここで提起された削減案は、あくまで財務省の案であり、これがそのまま施策に反映されるかというと、そうではない。しかし、注意しなければならないのは、財務省は「政策効果」や「適正化(削減)」を念頭にいれて書く事業について見直しを提起しているということだ。

もちろん、不要不急の施策(予算)は見直しや適正化(削減)が必要だろう。だが、社会保障分野は、特に生活保護に関しては、一人一人の生活を支える最後の制度である性質上、単純な(機械的な)見直しや適正化(削減)は、そのまま一人一人の生活を直撃する。

であるが故に、施策の変更や改正等にも慎重を期すべきであり、このような形で一方的に見直しや適正化(削減)が提示されることは、多くの生活保護利用者を不安にさせることであろう。

また、先日、閣議決定された「子どもの貧困対策に関する大綱[*9]」のなかで、「給付型の支援」ではなく、子どもへの学習支援と親への就労支援などの「投資型の支援」が重視されているように、近年、制度において「政策効果」が求められる傾向がみてとれる。

[*9] 子どもの貧困対策に関する大綱

もちろん、学習支援や就労支援など就労自立等につながり貧困層を減らしていくような効果を持つ「投資型の支援」も必要なことは言うまでもない。ただ、当たり前だが、最低限度の生活を保障するための「給付型の支援」が整っていなければ、極端な話、貧困家庭で子どもが無料で塾にいくための支援は利用できるようになったが家に帰っても生活困窮から夕食をたべられない、などのことがおこりかねない。

まず、1階建てとしての「給付型の支援」があって、そのうえで2階建て部分としての「投資型の支援」によって自立に向けて進んでいく、という前提が軽視されている。

2012年に成立した社会保障制度改革推進法の2条に記載された「基本的な考え方」の2項に「給付の重点化及び制度の運営の効率化」と書かれているが、社会保障分野では、政策効果(費用対効果)が必ずしも測れない場合も多く、また、そもそもが、高齢世帯や傷病障害世帯など、「投資型の支援」が不向きな層が多く、こういった財政上の削減を行うことがなじまない。

もちろん、今回の財政制度等審議会で提起された案は、あくまで案に過ぎないが、社会保障制度、特に生活保護にかかわる部分の今後の在り方にかんする議論は、その実態に即した慎重な議論がおこなわれるべきであり、単純に(機械的に)算出したものであるとしても、あまりにも配慮に欠け、制度の背景や歴史性、制度利用者の生活を無視したものである。

正しい知識や生活困窮者の実態にあったデータ分析、専門家や支援団体の知見等を踏まえたうえで、議論がおこなわれることを切に願っている。

サムネイル「!」mpov

https://flic.kr/p/46K3Zx

プロフィール

大西連NPO法人自立生活サポートセンター・もやい

1987年東京生まれ。NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わる。東京プロジェクト(世界の医療団)など、各地の活動にもに参加。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言している。初の単著『すぐそばにある「貧困」』(ポプラ社)発売中。

この執筆者の記事