2020.07.16

肉や卵や乳製品はどのように生産されているのか?――アニマルウェルフェア畜産への転向

岡田千尋 アニマルライツセンター代表理事

社会

肉や卵や乳製品はどのように生産されているのか?

皆さんの食卓に登場する肉や卵や乳製品がどのように生産されているのか、知っているだろうか。知らないのであれば、知っておいたほうが自身を守るためになると私は思う。

まず、それら畜産物にされる動物たちが本来どのような動物なのか、知ってほしい。それは後で説明する適正な飼育=アニマルウェルフェアに配慮した飼育を理解することにつながるからだ。

鶏の朝は早い。日の出の30分ほど前から活動を始め、オスはコケコッコーと雄叫びを上げる。光の角度に応じて行動をしており、夕暮れ30分前に寝床に戻り、止まり木で眠る。

この行動には意味がある。暗くなると夜目の利かない鶏は動きが取れない。そのため、捕食者に襲われがちな夜はできるだけ高いところで眠りたいという欲求があるのだ。1羽あたり15センチ以上の長さの止まり木を与えることで、恐怖感と攻撃性を軽減し、身体の調子を改善することが分かっている(注1)。

同じ理由から、産卵時は無防備になる上、時間もかかるため、巣を作りその中に隠れて卵を産む習性を持つ。巣を求める欲求はとても強く、自分が一番安心でき、快適な巣を求めて産卵の90分前から営巣したり、適切な巣箱を探し回る。27時間の絶食後でさえ、エサよりも巣箱を選ぶ行動が観察されているなど、巣箱を求める欲求は食欲より強いのだ(注2,3)。

鶏は日中の60%の時間、1万回以上を地面等をつついて採食を行う。餌を与えられていて栄養を摂る必要が無い場合でもこの行動は行われる(注4)。探索欲求は動物の強い本能なのだ。

私たちがお風呂に入るように、鶏は砂浴びをして羽毛や皮膚についた寄生虫や汚れを落とす。喉をキューと鳴らして目を細めながら、全身に乾燥した砂を何度も何度も振りかけ、砂浴び終了後には全身をブルブルッと震わせて砂を落とす。さらに日光浴をすることで殺菌し、心身の健康を保つ。どの動物も同じだが、動物たちは自分たちで健康を保つ方法をちゃんと知っている。ちなみにオスはこのときメスたちの安全を確保するためにすっくと立ち、目を光らせ、メスは安心して砂浴びに興じる。

驚かれることも多いが、鶏の知能は、犬、チンパンジー、ゾウ、イルカ、さらに人間のような高度に知能のある種と同等と言われる。100羽の仲間の顔を見分けることができるし、色や形を見分け数を数えることもできる。未来に起こりうることを予測する能力もある。2017年1月2日、科学雑誌Animal Cognitionに掲載された神経科学者のLori Marinoによる論文では、鶏の持つ高い知覚・認知能力があり、たとえば以下のような能力が明らかにされた。

・鶏は数と基本的な算術を理解している。

・鶏は考え、論理的推理をする能力を持っている。たとえば、彼らは演繹(えんえき)という論理的思考を行う能力があり、これは人間が約7歳で発達する能力である。

・鶏は時間間隔を知覚し、将来の出来事を予測できるように見える。

・鶏は人間に似た複雑な方法で社会的スキルとルールを学び、行動的に洗練されている。

ともに暮らすとよく分かるが、鶏のコミュニケーション能力の高さには驚かされる。仲間を思いやったり、お世話したりする行動も見せるし、親友を作ってともに行動する様子も見られる。

現在の日本の卵生産は、これらの本能や能力をすべて奪っている。

日本の卵の99%以上は、バタリーケージという狭い金網のケージで生産される。鶏1羽に与えられる面積は自分の体よりも小さく、ほとんど身動きがとれない。一列に並ぶことも出来ないため、1羽が餌を食べている時、別の鶏は後ろでじっと待機する。体が押さえつけられて身動きがとれないまま長時間も我慢している姿や、仲間に押しつぶされている姿を私たちもよく見かける。羽をばたつかせると金網にぶつかり骨折し、地面を歩かないために長く伸び切った爪が隙間に挟まり足を骨折し、腫れあがり内出血し、もちろん痛い。体が隙間に挟まり、動けなくなったまま餓死する鶏もいる。ケージの中ではやることがなく、自分の足をつついたり、食べていないのに餌をつつき続けたりという異常行動を起こしている。

近年は外の光が入らないウィンドレス鶏舎が増加し、開放鶏舎という外との仕切りはカーテン程度の鶏舎は減少している。それぞれ悪い所がある。ウィンドレス鶏舎の場合、まずその空気のひどさだ。防塵マスクなしでは長くは居られない。糞尿の臭い、鳥たちの脂粉、糞が乾燥したホコリ、ファンのゴーッという音と、何万も詰め込まれている鶏が金網を踏むカチャカチャという音が響き渡る。ちなみにウィンドレスといっても、野生動物や猫、ハエやゴキブリが普通に這い回る。鳥インフルエンザを防ぐと誤解されがちだが、日本の鳥インフルエンザの多くがウィンドレス鶏舎かセミウィンドレス鶏舎で起きている。外気の入らない鶏舎では糞にはウジが湧きやすい。なにより、その密閉された薄暗い空間の異常性は、すべての動物を精神的に追い詰めるだろう。

開放鶏舎の場合はそのケージの狭さがひどい。1羽または2羽ごと収容するためほぼ拘束状態で身動きが取れない。彼女たちは羽根を少しも広げることなく一生を終えるだろう。1羽ごとの場合は仲間との交流もできない。

いずれの鶏舎も、鶏たちは運動ができない。運動ができなければカルシウムが不足したり身体機能は弱る。放牧(屋内と屋外を自由に行き来できる飼育)の鶏と比較すると、ケージの鶏の骨の厚みは2分の1から3分の1まで薄い。私たちが2016年に保護した鶏たちも、骨が薄くなりすぎてレントゲンにほとんど映らなかった。カルシウムが不足する理由はもう一つある。本来鶏は年間10~20個程度しか卵を産まないにも関わらず、品種改変により年間300個も卵を生むようになってしまった。カルシウムと栄養素を毎日奪われつづけ、骨や子宮や卵巣がぼろぼろになる。

これが、日本人が年間平均337個食べている卵生産の実情だ。

OIE(世界動物保健機関)は、動物の利用には、可能な範囲で倫理的責任を果たす義務があることを陸生動物規約の中に明記している。採卵鶏の場合、このバタリーケージは非倫理的であることが明らかであり、世界中が廃止していっている。EU、スイス、ニュージーランド、ブータン、インドなどは法的に禁止を決めている。アメリカの5つの州で、2022~5年以内にケージ飼育の卵を州内で販売してはならないと決定している。大手ファーストフード店やスーパー、加工食品企業など1800社以上がケージフリー宣言をしており、欧米では2025年までにケージ飼育の卵はほとんどなくなっていくだろうと予測される。南米や南アフリカ、中国や韓国、シンガポールやタイなどの企業がこれに続いている。日本でもこの数年間でケージ飼育をやめ平飼いに切り替えることを宣言している企業が複数出てきた。ヒルトンやインターコンチネンタル、コストコ、スターバックス、その他日本のホテルなどだ(注5)。

肉用の鶏はどうか。

基本的に肉用鶏は平飼いだが、超過密だ。日本での過密度合いは、EUの平均1.4倍、最大1.78倍であり、日本がたくさんの鶏肉を輸入しているブラジルと比較すると平均1.64倍、最大1.88倍に及ぶ。過密だと、日に日に足元の砂が糞尿でどろどろになっていき、砂浴びができなくなり、少し動こうとしても仲間がどかなくては動けないという状態になる。足元が糞尿であると足の裏が焼けただれる。生後40日、50日の赤ちゃんの足の裏と膝関節部分が炎症で焼けただれ真っ黒になっているのだ。

品種改変でも苦しんでいる。本来鶏は150日ほどかけて大きくなる動物だが、50日で大きくなるように品種改変させられてきた。骨と肉だけが急激に成長し、体を支えることができない。ブロイラーたちはポテポテと不器用に歩き、どてっと尻餅をつくように座り込む。歩行困難、腹水症、心臓疾患などになりやすいことが指摘されている。イギリスの研究では、ブロイラーの30%近くは体を支えることが難しく歩行困難になり、3%はほとんど歩行不能となり、100羽に1羽は心臓疾患で死亡することが報告されている。「ブロイラーの1/4は、一生の1/3を慢性的な疼痛の中で生きているだろう」という研究者もいる(注6)。50日で屠殺されるが、そのとき鶏たちは体だけが大きい赤ちゃんであり、まだぴよぴよと鳴いている。

欧米、タイなどを中心に、改善が進んでいる。ベターチキンコミットメントという、飼育密度を大幅に改善し、品種改変が進みすぎない多少自然な品種を選択し、とまり木などエンリッチメントを入れ、自然光を入れ、屠殺方法も現在最も人道的と言われるガスで気絶させる方法をとるという基準を、企業が約束するようになっている。北米のバーガーキングや英国などのKFCなど290社(2020年4月時点)がそれを2026年までに達成すると約束している。

日本も一部の地鶏などはこれらの基準をすべてではないがクリアできる。しかし、日本産の鶏肉のほとんどはそうではない。

豚はどうだろうか。

子豚を生む機械として扱われる母豚の飼育が世界的な課題である。彼女たちは自分の体の大きさと同じ大きさの鉄の柵=妊娠ストールに入れられ、身動きがとれない状態で飼育される。この妊娠ストールを使用している養豚場が90%に及び、この割合が日本では増加している。顔を動かせるのは左右45度づつ程度のみで、真横を向くことすら出来ない。豚は日中の75%を探索し遊び泥浴びをし活発に動き回る動物であるにも関わらず、この妊娠ストールの中では何一つやることがない。彼女たちにできることは、時々落ちてくる餌を食べること、水を飲むこと、目の前の鉄棒をガリガリと噛みつづけることと、食べ物がないのに口をもぐもぐと動かし続けることだけだ。口を動かし続ける豚の口の周りには白いよだれの泡が溜まる。しかもできるだけ少量の餌で済まそうとする生産農家は、この環境の豚にとって唯一の楽しみであろう餌を制限するところも多い。

妊娠期間中を妊娠ストールで過ごした豚は、出産前日に分娩ストールという同じように身動きが取れない拘束檻に移動させられる。拘束されたまま出産し子育てをさせられるのだ。これは、目の前で自分の子どもたちが人間に掴まれ、無麻酔で尻尾と尖った歯を切られ、腹を切られて去勢されて恐怖と苦痛で悲鳴を上げる様子をただ見守るという苦悩も伴う。子豚たちの動きが鈍り、時には死んでしまうのを、ただなにも出来ずに見守らなくてはならない。必死で抗議の声をあげたり、飲み水を飛ばしたりするが、子供を守ることは出来ない。自分の子を自分で踏み潰すこともあるが、自分ではどうしようもない状態だ。3週間動けないまま我が子にお乳を与えた後、子どもたちには二度と会えなくなる。そしてまた、妊娠ストールに戻され、人工授精をされ、子を孕ませられる。

妊娠ストール飼育は世界中で廃止の方向に向かっている。欧米の食肉企業だけでなく、中国やタイの大手食肉企業も廃止を宣言し、より自然に動き回ることができ、仲間も一緒に暮らす群れ飼育に移行している。妊娠ストールは、廃止しても生産成績に影響を与えないことが実証されている。むしろ、経済性はより良くなることがわかっているのだ。

にもかかわらず、消費者の声も、生産者の知識も足りない日本では、拘束飼育がいまだに増加傾向にあるのだ。

牛はどうか。

日本の酪農場の73%(注7)が搾乳牛に一切の運動をさせず、短い鎖等でつないだまま牛乳を搾り取っている。スタンチョンという器具で繋がれていることもあり、ほとんど身動きはとれず、たとえば自分の下半身を身繕いするために後ろを振り返ることなどはできない。その73%のなかでもひどい農場がある。それは出産直前の乾乳期(60日程度の牛乳がでない期間)もつなぎっぱなしにしている45.5%(注8)の酪農場だ。つまりその45.5%の牛たちは死ぬまでずっとつながれっぱなしである可能性が高い。私たちが内部告発を受けた農場は、生まれた子牛をすぐに短いロープでつなぎ、屠殺場に送るまでの10年以上まったく歩かせない、自由を与えないという飼育をしていた。

牛は横たわる時間が多いが、じっとしているわけではなく、寝返りをしょっちゅう打つ。ほぼ自由を奪われている彼女たちはひたすら立ちすくし、寝返りを打ち続けて過ごす。牛は毛づくろいを仲間同士で行うが、当然それはできない。本来草や土の上にいる牛にとって、薄いマットや少量のワラが敷いてあっても、コンクリートの上に居続けることは難しい。関節が硬い床に当たり擦り傷ができ、細菌に感染して腫れ、化膿し、腫瘍化し、壊死し、寝起きを何度も繰り返すたびひどくなる。

牛舎内だけで飼育される牛たちは足腰の筋力は衰えている。コンクリートの床で滑って股関節を脱臼し股が開いてしまい立ち上がれなくなることも多い。これを予防するためとして足かせで後ろ足をしばり、股が開かないようにする。牛の糞尿の量は人間の164人分と多いため、狭い牛舎内はすぐに糞尿だらけになり、牛たちはたいてい糞尿にまみれている。蹄の間に菌が入り込み蹄病にかかり、蹄の裏から出血したり、足を引きずって歩く跛行になる。跛行は虐待的飼育とも言われるほど苦痛とストレスを伴う。

また、現在は、本来の8倍~12倍の量の牛乳を搾り取るため、カルシウム不足や第4胃変異や乳房炎などの病気になりやすい。繋いでいようといまいと、牛舎内だけで1本の足に140Kgもの体重がかかる巨大な牛を飼育し、異常な量のミルクを絞り続けることには無理があるのだ。

海外ではこのつなぎ飼いはほとんど姿を消している。日本の現状を海外の人に話すと、「何のメリットがあってつなぐのか、信じられない」と驚かれる。実際にこのつなぎ飼いには何のメリットもない。経済的にも、生産性も、労働の負担も劣っているのだ。ただ、古い旧式の飼育方法をやめられずにいる、それだけだ。日本でも成功していたり、代替わりしている農家の多くはつなぎ飼いをやめ、放牧や、放牧が難しくてもフリーバーンやフリーストールという牛舎内で自由に動ける飼育を採用するところが多い。

アニマルウェルフェア畜産への転向

今、世界は畜産動物のアニマルウェルフェア(動物福祉)向上を急速に進めている。

一番最初に改善されるべきとされ、具体的に進んでいるのが、屠殺方法の改善、そして次にこれら拘束飼育、過密飼育といった極端な集約的畜産だ。

アニマルウェルフェアの基本は観察であると、農林水産省や畜産関係者は述べることがある。しかし、身動きが取れずに拘束されている動物や過密であまりに多い動物が密集している状態を観察することは、真の観察にはならない。動物が健康かどうか、異常がないか、そもそも動けるのか、拘束されていてはわからない。だからこそ、バタリーケージや過密飼育や拘束飼育はまずなくさなくてはならないといえるだろう。

アニマルウェルフェアが最低限守られている状態は、下記の5つの自由が担保されている状態をいう。

1.飢えと渇きからの自由

2.不快からの自由

3.痛みや、怪我、病気からの自由

4.自然な行動をすることの自由:

5.恐怖や苦痛からの自由

これらの自由を満たすことは、苦痛と乏しい福祉を防ぐために不可欠である。また、動物がより良い福祉を得るためには、愛情や楽しさを感じたりできる前向きでポジティブな感情を抱くことは重要である。そのため、現在は6つ目の自由=前向きな経験をする自由も考慮されるべきである。

アニマルウェルフェアの肝は、4番目の自然な行動ができる自由だ。冒頭に説明した鶏の習性が発揮できることが、動物のストレスを軽減し、健康を保ち、免疫を高く保ち、アニマルウェルフェアの状態を良くするのだ。

アニマルウェルフェアに配慮することは、決して経済的なマイナスを意味するものではない。OIEが「農場でのアニマルウェルフェアの向上は、しばしば生産性および食品安全を向上させることができ、したがって経済的利益に繋がる。」と明記している通りだ。動物の習性を利用し、人も動物も健康に、畜産をするというスタイルなのだ。戦後、世界が一時的に集約的畜産に傾いたが、今は急速にアニマルウェルフェア畜産に転換していっている。たとえば屠殺の方法はより人道的な方法を採用し、多くの国で意識あるまま首を切り血抜きをすることは違法になっていっている。残念ながら日本はそうではない。

さらに、動物がストレスなく、運動でき、太陽の光を浴びることもでき、その動物の自然な行動を発現できる状態で飼育される放牧飼育などでは、抗生物質やワクチンや殺虫剤の使用量が大幅に減る。逆に集約的畜産では、抗生物質やワクチンや殺虫剤がないと動物が生き残れないという状況だ。抗生物質の薬剤耐性菌は、かくして動物の中で作られ、人間にも影響を及ぼしている。抗生物質の約3分の2は畜産動物と水産動物に使用される。この量を減らし、かつ適正な使用に変えなければ、薬剤耐性菌は今後もどんどん増え続けるだろう。すでに市販の国産の鶏肉の半分以上から薬剤耐性菌が検出され、その割合は外国産の鶏肉よりも高いことが厚生労働省の調査により明らかにされている。

薬剤耐性菌により、2050年には世界で年間1000万人の命を奪われると予測されており、現在緊急事態に陥っているCOVID-19よりも多くの人々の命が脅かされる課題となりうるのだ。すでに日本国内でも2種類の薬剤耐性菌だけで年間8000人が死亡していることがわかっている。より多くの薬剤耐性菌を調査すればより多くの死亡があぶり出されることであろう。このことが、FAOやOIE、また世界中の国々が、アニマルウェルフェア向上に取り組む大きな理由の一つだ。

行き過ぎた搾取は、よい結果を生むことはない。動物たちは自然の姿を失い、薬なしで生きられず、薬剤耐性菌を体内に持つようになっている。毎日動物が死ぬ現場において、倫理的な課題は後をたたない。動物を焼き殺してみたり、首つりで時間をかけて殺したり、餓死させるなどが横行する現場となり、2019年の動物愛護法改正の付帯決議には、動物愛護法の遵守徹底の対策をするようにと明記されるに至った。

世界のよい流れから取り残されて経済的に有利に働くということはありえない。アニマルウェルフェアに配慮していない企業には投資しないとする機関投資会社も増えてきている。運用資産残高総額が2190兆の投資家が参加する投資家イニシアチブFAIRRは、アニマルウェルフェアを含めて集約的畜産のリスクに警鐘を鳴らしている。このFAIRRの評価で日本の大手食肉企業がハイリスク企業としてマークされているし、アニマルウェルフェアを評価するBBFAWという団体の評価でも評価対象となった日本を代表するグローバル企業がすべて最下位にランク付けされている。

オリンピックの選手村や会場で提供される卵は、ロンドン大会でもリオ大会でもケージフリーでなくてはならなかった。しかしロンドン大会から9年後に行われる東京大会では、世界中が廃止していっているバタリーケージの卵が使われる予定だ。残念ながらオリンピックという素晴らしいチャンスを日本は逃しつつあり、さらには日本のアニマルウェルフェアの遅れを世界に知らしめつつある。負のレガシーを残して日本企業がダメージを受けないためにできることは、企業が努力し、その取り組みを公表していくことだ。

2030年、今のまま鶏や豚や牛を苦しめる畜産を続け、日本だけがその畜産物を食べ続けるという社会でよいのか、消費者も、企業も、生産者も考えなくてはならない。ケージフリーやベターチキン、ストールフリーなどの具体的な目標を定め努力する企業や生産者を、消費者は選んでお金を使うという、エシカル消費を日常に取り入れなくてはならない。企業は、消費者によい判断ができるように情報と商品を届ける役割を持っている。

毎日の食事の素材の話なのだから、みんなに関係ある話だ。みんながそれぞれの立場でできることを取り組むことにより、間違いなく生産者のよい取り組みを後押しし、持続可能な社会づくりに貢献することになるだろう。

(注1)Donaldson, C.J. and O’Connell, N.E., (2012) The influence of access to aerial perches on fearfulness, social behaviour and production parameters in free‐range laying hens. Applied Animal Behaviour Science. 142:51‐60.

(注2)Nicol and Dawkins, 1990 , Behavioural needs, priorities and preferences of laying hens

(注3)Cooper, J. J. and Appleby, M. C,2003 , The value of environmental resources to domestic hens: a comparison of the work‐rate for food and for nests as a function of time, Animal Welfare, 12: 39‐52

(注4)Nicol and Dawkins, 1990 , Behavioural needs, priorities and preferences of laying hens

(注5)https://www.hopeforanimals.org/cagefree-or-eggsmart/

(注6)2009「動物への配慮の科学」

(注7)一般社団法人畜産技術協会 2014年調査データより

(注8)一般社団法人畜産技術協会 2006年調査データより

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岡田千尋アニマルライツセンター代表理事

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