2021.08.18

新型コロナの(インフルエンザ並みへの)分類変更は検討に値するのか?

田中辰雄 計量経済学

社会

(1)分類枠の問題

新型コロナ対策に行き詰まり感があるなか、対策の一つとして、コロナの分類を2類から5類に変更するという案がある。【注1】感染症は5段階に分類されており、2類というのはSARS、MERS、あるいは結核といった致死性の高い感染症が含まれ、入院と隔離が義務付けられる。5類は致死性の低いインフルエンザなどの枠で入院は必須ではない。

新型コロナは現在は2類に分類されているため、隔離ができる大病院でしか扱うことができず、これが医療に大きな負担をかけている。ワクチンの普及により新型コロナの死亡率は急激に低下しつつあるので、新型コロナをインフルエンザ並みの5類に下げ、普通の病院でも診られるようにすれば、医療の負担は軽減するというわけである。

たしかに、インフルエンザは毎年のように百万人単位で流行するが、それで医療崩壊することはない。医療崩壊しないのなら緊急事態宣言の必要性は薄れる。そもそもインフルエンザと同じなら、極端に恐れる必要はなく、生活を正常化させる道も開けてくる。こんなうまい話はないように思える。

しかし、この話は本当であろうか。コロナに関する医療情報は極端に振れやすく、怪しいことも多い。ある医療従事者が注目に値する発言をした場合、それが例外的な一握りの人の暴論なのか、それとも一定の支持のある検討に値する見解なのかは、専門外の人にはわからない。では、どうするか。暴論なのかどうか確かめるには、多くの専門家、すなわち多くの医療従事者の意見を聞けばよい。今回これをアンケート調査のかたちで試みたので報告する。

結論から述べると、2類から5類に分類変更するという案は、ごく一部の人の暴論ではない。多数派ではないものの、医療従事者のかなりの部分の支持を集めている案である。賛成派は3割、反対派は3割強で、反対派がやや多いものの、賛否はほぼ拮抗する。暴論がこれだけの支持を集めることはない。あれほどまでに怖さを喧伝されてきた新型コロナをインフルエンザ並みの扱いにするというのは、あまりに急激な方針転換で有り、信じられないかもしれない。しかし、この調査から見ると、分類変更は医療従事者に一定の支持があり、検討に値する案の一つのようである。

(2)分類枠変更への賛否

調査対象者は調査会社Surveroid社のモニター登録者のうち、職業分類が医療業にあたる人1764人である。サンプル収集の際には「新型コロナに関するアンケート」で募集をかけた。医療業と言っても、病院の事務職員など、医療従事者とは言えない人も入っている可能性がある。そこで、「医者」、「看護師」、「その他医療従事者」の三つのどれかに当てはまるかどうかを尋ねて、どれかにあてはまる人だけに絞った。

これによって500人が除かれ、さらに矛盾回答をしていた4人を除いて、1260人が対象者となる。内訳は、医者が64人、看護師が417人、その他医療従事者が779人である。その他医療従事者には、検査技師や薬剤師等が含まれると思われる。調査時点は2021年8月10日である。

彼らに対し、まず、2類から5類への分類変更に賛成か反対かを尋ねた。図1がその結果である。賛成が32.7%、反対が37.5%であった。驚くべきことに賛否は拮抗する。言い換えると、反対者と同じくらいの賛成者がいる。これだけ賛成する人がいれば、分類変更は極端な人の暴論ではなく、一定の支持を得た検討に値する案と見てよいであろう。

図1 インフルエンザ並みへの分類変更への賛否

医者、看護師、その他医療従事者に分けたらどうなるだろうか。図2がそれである。医者の場合、分類変更に慎重な人が増え、賛否を明らかにした人の中で、2対1の比率で賛成派は少数派になる。しかしそれでも半分は賛成である。看護師では賛成が3割で反対が4割程度、そしてその他医療従事者の場合は賛否がほぼ拮抗する。全体として分類変更は多数意見ではないものの、多数意見に迫る程度には存在している。

図2 分類変更への賛否(職務別)

インフルエンザ並みへの変更に賛成する人がかなりいるとしても、それはその医療従事者が新型コロナの実態をよく知らないからということはないだろうか。医療従事者と言っても新型コロナの患者に接していない人も多い。また、医療と言っても範囲は広く、感染症にまったく関わらない人もいるだろう。さらに感染が深刻で緊急事態宣言下にある都市部とそうではない地方では感じ方が異なるかもしれない。そこで回答者をコロナへの関わりの度合いで分けて見た。図3がその結果である。

図3の左は職場でコロナ患者を扱っていると答えた人178人に限った時、中央は感染症の専門家あるいは感染症患者をみたことがあると答えた91人に限った時、そして右は緊急事態宣言下にある東京、神奈川、千葉、埼玉、そして大阪の居住者427人に限った場合である。多少、値は変わるが大勢は変わらないことがわかる。2類から5類への分類変更に一定の支持があるのは、コロナへの関わり度合いに関わらず観察される頑健な結果である。

図3 分類変更への賛否(コロナへの関わり度別)

(3)分類変更の理由、回答者のプロフィール

インフルエンザ並みへの分類変更に賛成する理由は何だろうか。分類変更に賛成する人に対し、いくつか候補をあげて複数候補で聞いて見た。図4がその結果である。一番多く選ばれたのは、2)の分類変更で医療への過剰な負担が減るという項目である。現在、新型コロナになると減圧措置や、完全消毒、隔離などの措置が必要で医療に負担がかかる。その結果、3)の他の医療活動ができないという状態が生まれてきている。

新型コロナの致死率が高い時はともかく、1)に見るように死亡率が低下傾向であるなら、分類を変更して、医療崩壊を防いだ方が、より多くの医療サービスを国民に提供して国民の健康と生命を守れると考えている、と解釈できる。

図4 インフル並みへの分類変更案に賛成する理由

しかし、新型コロナをインフルエンザ並みに分類し直すということは、新型コロナを風邪の一種と見なすことを意味する。これはテレビなどでコロナの恐ろしさと最大限の自粛を説く医療関係者の発言と矛盾するように見える。このアンケート調査のサンプルはおかしいのではないかという疑問がでるかもしれない。新型コロナについては当初からコロナはただの風邪と言い切る極端な人たちがいた。このアンケート調査の回答者はたまたまそのような極端な人、いわばトンデモな人に偏っているのではないか、と。

しかし、そうではない。回答者は新型コロナの恐ろしさを十分に自覚している人たちである。図5は、回答者に対し、新型コロナについて「A:怖い病気であり、自粛を維持・拡大すべき」、と「B:今やそれほど怖い怖い病気ではなく、自粛はゆるめていくべき」の二つの意見を見せて、どちらの意見に近いかを聞いた結果である。8割以上の人はAを選んでおり、コロナは怖い病気であり、自粛の維持・強化が必要と考えている(ちなみに医療従事者ではない一般の人ではAを選ぶ人は6割程度にとどまる)。

回答者は医療現場の逼迫した状況を良く知っており、けしてコロナは風邪と片付けるようなトンデモな人たちではない。それでもなお、2類から5類への変更を、すなわちインフルエンザ並みへの分類変更を支持する人がかなりの程度存在する。我々は、このことの重みを受け止める必要がある。5類への変更は、(最終的には否定するとしても)まじめに検討するに値する案と見るべきである。 

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最後にまとめの意味で、どんな人が5類への変更に賛成あるいは反対なのかを回帰(ロジット回帰)で見ておく。表1がその結果である。(1)列が賛成を、(2)が反対を被説明変数にした回帰である。表の係数は限界効果で、どれくらい賛成あるいは反対の人が増えるかを表す。たとえば(2)の医者の0.132は、医者であると5類への変更に反対の人が13.2%ポイント増えると言うことを意味する。*印は統計的に有意であることを示す。

これを見ると、「3:職場へのコロナ患者受け入れ」、「4:感染症を扱った経験」、「5:緊急事態宣言下の都市圏居住」の3つはいずれも*印がなく、統計的に有意ではない。すなわち、これら3要因は賛否に影響を与えていない。これはここまでの知見(図2)と一致する結果である。

興味深いことに、圧倒的に有意な変数がひとつあって、それは7の小さい病院に勤めている人である。賛成への回帰ではマイナス(-0.12)、反対への回帰ではプラス(0.095)であるので、小規模病院に勤めている人では分類変更への賛成が減り、反対が増える。すなわち小病院に勤めている人は、インフルエンザ並みへの変更に反対である。

0.12と0.095を足し合わせるとほぼ0.2なので、小規模病院に勤める人はそうでない人より20%ポイント反対の方が多くなる。影響としてかなり大きい。これは5類への変更がなされると、小規模病院でも新型コロナの患者の治療をすることなるので、そのことへの警戒感があるからであろう。小規模病院に勤める人が、新型コロナの治療を行えと言われて難色を示すのはいかにもありそうなことである。

もうひとつ興味深いのは(1)列の賛成のケースで、8の年齢が有意なことである(0.021)。値は正なので、年齢の高い人ほど、インフルエンザ並みへの変更に賛成していることになる。この理由は回答者に聞いて見ないとわからない。ただ、仮説として考えるなら、高齢の医療従事者はインフルエンザの大流行の時代を伝え聞いているためかもしれない。インフルエンザの大流行は1960年代~70年代であり、1980年以降は落ち着いている(最近は少し増加)。インフルエンザの大流行時代を多少なりとも知っていれば、現在をそれになぞらえて理解することができるが、それができるのは当時のことを伝え聞いている高齢世代であるということである。

表1 分類変更への賛否:ロジット回帰結果

(4)まとめ

新型コロナの分類枠をインフルエンザ並みに変更するというのは、多数意見ではないが、ある程度の医療関係者の支持を得ており、検討に値する案のようである。これにより医療への過剰な負担が減り、今より多くの医療サービスが国民に提供できることが期待される。医療崩壊が回避されるなら、コロナ対策に余裕が生まれ、喜ばしい。

ただし、この変更には国民からの抵抗が大きいだろう。昨日までコロナの恐ろしさを述べて多くの生活上の犠牲を強いてきた政府あるいは医療関係者が、明日からはインフルエンザ並みの対応に切り替えますと述べれば、手のひら返しに聞こえるからである。これまでコロナ危険性を喧伝してきたワイドショーなどは論調の転換が難しく、インフル並みへの変更は国民を見捨てる棄民政策だ、と攻撃をしてくるかもしれない。

しかし、それでもコロナの最前線で戦う医療従事者のなかで、かなりの程度の人が分類変更を支持している事実は重要である。彼らは国民を見捨てるのではなく、国民を救うためにこそ分類変更が望ましいと考えているはずだからである。コロナ対策に手詰まり感があるなかで、取りうる選択肢の一つとして、分類変更は検討する価値はあるように思える。

【注1】「コロナの5類相当への引き下げを行わない限り、日本は今の状況から抜け出せない」厚労省の元医系技官が訴えhttps://news.yahoo.co.jp/articles/37411018314c1abc1096c28d9d34ed8230c2d261

プロフィール

田中辰雄計量経済学

東京大学経済学部大学院卒、コロンビア大学客員研究員を経て、現在慶應義塾大学経済学部准教授兼国際大学GLOCOM主幹研究員。

編著に『著作権保護期間―延長は文化を振興するか?』、「フェアユース導入はコンテンツ産業にプラスかマイナスか」、「クリエイター側は著作権保護をどうみているか―日米国際比較―」などがある。

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