どのエネルギーをどれだけ選ぶ?――これからのエネルギー政策を考える

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自然エネルギーについて

 

第三に、自然エネルギーについてです。風力、太陽光、小水力、地熱、バイオマスのそれぞれが今後も継続的に導入されていくための支援政策を、各政党や政治家がどのように考えているのかを読み解くことが重要な参照ポイントになります。

 

民主党政権下で閣議決定され、与野党の協議のもとでつくられた「固定価格買取制度」が2012年からはじまり、国内の自然エネルギー発電設備は年々増加しています。(図2)

 

 

図2

図2. 日本国内の自然エネルギー発電設備の累積設備容量 出典:自然エネルギー白書2015

 

 

この図からも一目瞭然ですが、ここ数年の間に太陽光発電の普及が爆発的に進みました。これにより、国内でも太陽光発電のコストが下がり、さらに普及が進むという状況が生まれた一方で、全国各地で次々とメガソーラー事業(大規模太陽光発電事業)の開発が進み、トラブルが生じる事例も現れてきています。

 

参考

環境エネルギー政策研究所 研究報告「メガソーラー開発に伴うトラブル事例と制度的対応策について」(2016年3月1日)

 

こうしたトラブルが生じるのは、太陽光発電の技術的側面というよりも、事業者、自治体、地域といったさまざまな関係者の間で、事業計画や進め方に関する意見の一致を丁寧にはかっていないという社会的側面の問題が背景にあります。

 

そのため、「トラブルが起きているから太陽光発電には問題がある」といった短絡的な思考ではなく、問題の背景にある要因を踏まえた上で、より地域社会と協調した太陽光発電の開発が進むように、支援政策を展開していくことが重要となります。

 

このような合意形成にかかわる課題は、風力発電、小水力発電、地熱、バイオマスなど、他の自然エネルギーについても当てはまる点が多く(土地や資源利用の権利にかかわる調整、生態系保全との関係など)、それぞれのエネルギー種毎に丁寧な支援政策が必要となります。

 

参考

丸山康司『再生可能エネルギーの社会化 – 社会的受容性から問いなおす』(有斐閣)

 

次に、自然エネルギーの導入を拡大するために、従来の大規模集中型のシステムから、自然エネルギーの特性にあった小規模分散型のシステムへと「電力システム改革」を着実に進めていくのかどうかが重要となります。

 

2013年4月に閣議決定された「電力システムに関する改革方針」にもとづいた電気事業法改正案が国会で成立し、3段階に分けて必要な改革を進めていくことが決まっています。具体的には、

 

(1)広域系統運用の拡大

(2)小売及び発電の全面自由化

(3)法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保

 

という3のステップがあり、現時点では(2)までが実施されています。

 

なぜ、小規模分散型のシステムが望ましいのでしょうか。従来の大規模集中型の電力システムは、地域独占の電力会社が発電と送配電を一体的に所有し、運営を担ってきました。「垂直統合」といわれるこの体制では、当然、電力会社は自社電源を優先して他社電源を阻もうとするため、新規参入の自然エネルギー事業者は高い接続費用を払わざるをえなくなったり、小売事業者は送電線を利用するための料金(託送料金)を不透明に高く請求されたりといったことが起こります。

 

そのため、発電部門での新規参入を促し、公平な競争環境をつくる上では、送配電部門が電力会社から切り離され、中立的に運用されることがもっとも重要となります(発送電分離)。

 

本来は、既存の電力会社との資本関係まで切り離す「所有権分離」が望ましいのですが、上記の改革方針では資本関係を残したまま別会社として切り離す「法的分離」の方式がとられることとなり、第3弾の法改正のもと、2020年から発送電分離が実施されることが決まっています。(東京電力については先行して今年4月から別会社化が実施済み)

 

このように、3.11後の電力システム改革はすでに一定程度進んでいて、法改正もなされているため、政党や政治家の政策資料などで言及されることはないのかもしれませんが、「悪魔は細部に宿る」とも言われるように、2020年までに改革の動きが緩められたり、止められたりする可能性もないとは言えません。そういったことも踏まえ、各政党や政治家の電力システム改革に対する姿勢を確認しておくことが重要です。

 

なお、自然エネルギーの導入拡大には送電網の運用を「ベースロード」中心の考え方から、変動を予測して対応する「柔軟性」中心の考え方へと変えていく必要があるのですが、この点については本稿の範囲を超えるため、安田陽さんの論考をご参照下さい。

 

参考

安田陽「ベースロード電源は21世紀にふさわしいか?」(2015年5月30日)

安田陽「なぜベースロード電源は消滅しつつあるのか?―「メリットオーダー」の観点から」(2015年6月16日)

安田陽「何が再生可能エネルギー大量導入を阻害しているのか?―日欧の政策比較から見えること」(2015年6月24日)

 

自然エネルギーを促進していく上で考えなければならないことはまだまだ無数にあるのですが、特に重要なポイントとしては、電力だけでなく、自然エネルギーの熱利用(太陽熱温水器、地中熱利用、バイオマスボイラー・ストーブ)についての支援政策をつくることが非常に重要です。これについて、民進党が「分散型エネルギー社会推進4法案」のひとつ、「熱エネルギー利用促進法案」として作成している点は注目に値すると言えます。

 

 

エネルギー政策のガバナンスについて

 

第四のポイントは、エネルギー政策のガバナンスについてです。「ガバナンス」という言葉は聞きなれないかもしれませんが、ここでは、「政策を議論して、決定していく方法」だと思ってください。

 

ここまで述べてきたような、エネルギー政策について、どのような体制で議論し、決定し、実行していくのか。政策の中身だけでなく、その決め方の方法について、各政党や政治家がどのように考えているのかを読み解くことが重要な参照ポイントになります。

 

冒頭で述べたように、エネルギーは私たちの生活に不可欠であり、法律として定められるエネルギー政策は、誰もが影響を受けることになります。そのため、エネルギー政策を議論するプロセスには、自ずと「参加と透明性」が重要になります。

 

もちろん、ここまで述べてきたように、エネルギー政策の論点は多岐にわたり、専門的な用語や概念が数多く使われるため、すべての国民がすべての議論に参加することは不可能です。しかし、少なくとも、ここで紹介してきたような特に重要な論点については、一部のステークホルダーの声だけでなく、広く国民の声を反映させるような体制とプロセスをつくることが必要です。

 

この点について、民主党政権下では「国民的議論」を掲げ、2030年に向けた日本のエネルギー政策について、基本的な前提を説明した上で3つのシナリオを提示し、国民に望ましいと考える方向性を問いかけました。

 

全国10ヵ所で意見聴取会を開催し、討論型世論調査も実施した上で、寄せられたパブリックコメントは約8万9,000件にのぼり、その87%が2030年に原発ゼロを選んでいたことがわかりました。

 

参考

国家戦略室「話そう”エネルギーと環境のみらい”

 

一方、政権交代後に自民党政権下で先述の「エネルギー基本計画」をつくるプロセスでは、委員会の議論のもとで作成された素案をそのままパブリックコメントにかけるというかたちで、参加型の方法はとられませんでした。また、多くの人々がもっとも関心をもっていた原発への賛否の割合については、分類・集計されませんでした。

 

そこで、朝日新聞の小森敦司さんが自らコピーをとり、分類・集計したところ、寄せられた1万8,711件うち、「脱原発」が1万7,665件(94.4%)、「原発維持・推進」が213件(1.1%)、「その他」が833件(4.5%)だったことがわかりました。

 

参考

小森敦司「原発賛否で安倍内閣・経産省が秘密にしておきたいこと」(2015年1月8日)

 

しかし、先述の通り、エネルギー基本計画では2030年に原子力20〜22%という数字が盛り込まれています。さて、みなさんはここに民意が反映されていると感じますか? 考えてみてください。

 

一方で、パブリックコメントは、もともとその問題に関心があり、予備知識をもった人が意見を述べるという傾向があるため、これが的確に民意を反映させる方法であるというわけでもありません。

 

いずれにしろ、意見聴取会や討論型世論調査といった前例もふまえながら、エネルギー政策形成プロセスの「参加と透明性」を高め、人々がエネルギーと社会のあり方について考え、学び続けていくための工夫が必要であり、政党や政治家がこの点を理解しているかどうかを見極めることが重要です。

 

最後に、自治体のエネルギー政策について、各政党や政治家がどのように考えているのかを読み解くことが重要な参照ポイントになります。

 

というのも、これからは、全国各地に分散型で自然エネルギーの普及が進むことが考えられます。そのとき、重要になってくるのは、都道府県、市区町村といった自治体の役割です。

 

一方、エネルギー政策はこれまで自治体で取り組むものではなかったため、「エネルギー関連の仕事をしろ」と突然に言ってもなかなかうまくいきません。そのため、「エネルギー自治」に向けた中長期的な移行政策が必要になります。エネルギー政策のどの部分を国が担い、どの部分を自治体が担うのか、規制や市場環境の変化を踏まえた役割分担を明確にしていくことが重要になります。

 

参考

高橋洋「「エネルギー自治」の理論的射程

 

 

おわりに

 

ここまで、エネルギー政策についての基本的な視点と特に重要な論点を見てきました。ひとつひとつの論点にさまざまな背景があり、専門的な概念や用語が使われるため、専門家であったとしても、完全に理解することが難しいこともあります。

 

しかし、私たちの日々の生活を支えるエネルギーについて、それがどういったルール(法律)で規定され、それはどのように議論され、決められているのかを選挙の機会に考えることは、エネルギーの民主化にとって非常に重要なことです。本稿が少しでもその参考になれば幸いです。

 

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シノドス国際社会動向研究所

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