「分裂」と「統一」のジレンマを克服する――野党勢の「オープン・プライマリ」という選択

代替案を用意しておくこと

 

ただ、何れの場合においても野党の果たす機能は共通している。それは、行政府の監視やチェックを通じて、政権与党のアジェンダや争点設定を点検し、それらとは異なるものを掲げて民主政治の多元性を実現していくことにある。その結果、短期的には、与党との軋轢を生み、世論の支持や反対を集めることになる。

 

しかしそれ以上に重要なのは、政党政治におけるオルターナティブが確保されることで、有権者の民主政治に対する信頼を高め、民主政治で均衡と安定が達成されるという、長期的な利益の方である。また、与党と異なる政策資源や政策論理を準備しておくことは、時の政権が選択した政策や方針が破綻した場合の代替案としても重要だ。政治での多様性の確保は民主政の維持と発展のための条件であり、野党はそのために重要な役割を担うのである。個別的な政策の反対や賛成はさておき、そのような競争や多元性を阻害してしまうゆえに、政権与党の一強体制は望ましくないのである。

 

 

オープン・プライマリ(公開予備選)という選択肢

 

先の問いに戻ろう。野党間の対立を回避しつつ、無理に統一もしないままに、どのようにして強力な野党を作り上げるか――その具体的な方法として野党勢力による「オープン・プライマリ(公開予備選)」(以下O.P)の実現を提案してみたいと思う。

 

「オープン・プライマリ(公開予備選)」というと、アメリカの大統領選が想起されるかもしれないが、基本精神は一緒だ。アメリカの大統領候補者は、共和党・民主党ともに、まずは自党による指名を得なければならない。そのため、有権者たちの前で1年に渡って候補者同士が競争を繰り広げる。そして、最終的に有権者の投票でもって誰を大統領候補とするかが決せられるのである(投票権を誰が持つかは州で異なるが、一般的に市民権を持つ者であれば投票に参加するのは難しくない)。ちなみに「クローズド・プライマリ」と言った場合、それは党員のみが投票に参加する選挙のこととなる。

 

まずは本選の前に予選を行うのがO.Pの基本である。これを日本に置き換えるとどうなるか――第一に各野党の党首間で数週間から1年に渡って自党の基本方針や政策討論を公開の場で行い、その上で最終的に有権者投票によって野党勢力の代表を選ぶというのが基本イメージとなる。落選した他の野党党首は、この統一候補を支える側に回り、選挙や公約作成に協力する。こうした立場を取りまとめた野党の統一候補が、本選(総選挙)で与党党首と対峙することになる。場合によっては、他党党首がO.Pで得た票数に比例した閣僚名簿を準備して本選に臨んでも良いだろう。

 

こうした政党政治でイノヴェーションは果たして荒唐無稽なものだろうか。少なくとも、他国の事例をみる限り、そうとはいえない。

 

2006年にイタリア首相に選出されたプローディ氏は、中道左派の諸政党の形成する連合体「オリーブの木」の後継「ルニオーネ(連合)」が実施したO.Pの勝者だった。この際、6名の候補者が競い合い、プローディは450万票(有権者総数の10分の1)もの得票を得て、代表の座を獲得、下院選で現職ベルルスコーニ首相率いる与党連合に競り勝った。政権交代を果たした後にルニオーネは消滅したものの、その主たる構成党の民主党(それ自体2つの政党から構成)は2007年、2009年、2012年と継続してO.Pを実施、参加する政党を得て、左派中道勢力の代表を一般有権者の参加によって選んでいる。

 

こうしたイタリアの事例に触発されて、フランスでは2012年の大統領選に向けて初めて最大野党・社会党でO.Pが実施された。これは本来、二大政党の一角を占める社会党の大統領候補を指名するための選挙だったが、これに左派急進党(PRG)が参加、中道左派の代表者としての性格が強まった。計6名の候補者が約1ヶ月に渡って4回に渡る公開討論を行い、決選投票で勝ち残ったオランド候補は翌年現職のサルコジ大統領を破ることになった。このO.Pには総有権者の10%以上の述べ600万人弱が投票所に足を運んだ。こうした人々はまた本選でもやはり野党候補者に投票する。

 

O.Pの事例は、何も欧米だけに留まらない。韓国では複数政党間のO.Pはないが、2002年大統領選から「国民競選選挙人団制度」なる公開予備選制度が導入されるようになり、セヌリ党と民主党統合党で大統領選および選挙区候補者の選出に一般有権者が関与するような制度が導入されている。特に民主統合党は、インターネット・スマートフォンを利用した投票を実現しており、これは若年層を含む有権者の政治参加の鳥羽口を広げる手段ともなりうるだろう。

 

現在の日本では民主党の「サポーター」による党首選での投票がO.Pに最も近いが、以前のエントリー(「民主党が失ったもの」https://synodos.jp/politics/2770)で指摘したように、腰砕けに終わってしまっている。O.P実施のハードルをクリアするのは簡単ではないが、それでも分裂と対立を際限なく繰り返し野党勢の間でどのようにフェアな競争環境を実現するのか――O.Pが有力な選択肢であることは間違いない。

 

 

まずは基本形に賛同できるか

 

もちろん、実際にO.Pを実現するとなれば、数々の法的・物理的ハードルをクリアしなければならない。しかし日本の法体系は政党のことを「結社」とみなすのが一般的だから、野党勢力が自前でO.Pを実施すること自体は法的な問題とはなりえない。また具体的な選挙戦の運営は、公職選挙法に準じた形で実施すればよい。その上での詳細は各政党の代理人が集う第三者委員会で取り決めればよいだろう。

 

最大の問題は投票所の準備だろう。一般有権者がO.Pに参加、投票する資格を持つのであれば、投票の機会が平等に確保されていることは圧倒的に重要である。そのためには伊「ルニオーネ」の事例のように少ないボランティアなども必要になるだろう。ただし、韓国のようにネットを利用することで、投票権行使はより容易になるはずだ。いわゆる「なりすまし」対策を含め、技術的にいってネット投票は十分に可能になっている。

 

いずれにせよ、実際には様々なハードルが予想される。しかし、だからといってO.Pをやるべきではないという論理にはならない。その運営は漸進主義・改良主義的に行っていけばよいのであって、まずはO.Pというアイディアに賛同できるかどうか――野党再編を政治家同士の「野合」に任せず、競争力のある野党を作り出して民主政治でオルターナティブを実現していきたいのであれば、その基本コンセプトには賛同できるのではないだろうか。

 

サムネイル「a dilemma」Julia Manzerova

https://www.flickr.com/photos/julia_manzerova/2757851927/

 

 

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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