財務省に異議あり! 生活保護削減案に反論する

10月27日、財政制度等審議会財政制度分科会の資料が公開された。財政制度等審議会は、国の各施策の削減等の論点や案が提示される財務大臣の諮問機関である。この財政制度等審議会での案は、財務省からの提案ということもあり、今後の国の施策の方針に与える影響も決して小さくない。

 

今日は、ここで提示された資料の中から、生活保護についていくつか論点を取り上げ、財務省の削減案に関して反論をおこないたい。

 

 

生活保護における論点

 

生活保護にかかわる論点については、以下のような資料が提示された。

 

 

社会保障②(年金、生活保護、障害福祉)

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia261027/01.pdf

 

 

すでに、生活保護等の生活困窮者支援としては、

 

 

・生活保護基準の削減

・生活保護法の改正

・生活困窮者自立支援法

 

 

などの取り組みがおこなわれている。その問題点については、以下のリンクを参照いただきたい。

 

 

【SYNODOS】生活保護の「引き下げ」は何をもたらすのか/大西連

https://synodos.jp/welfare/743

 

【SYNODOS】生活保護法改正法案、その問題点/大西連

https://synodos.jp/welfare/3984

 

【SYNODOS】新たな支援制度の実態とは――生活困窮者自立支援法の問題点/大西連

https://synodos.jp/welfare/5308

 

 

詳細は下記に述べるが、今回提示された財務省の案は、「最後のセーフティネット」と呼ばれる生活保護や、生活困窮者支援施策への提案としては、あまりにも雑な提案が並んでいる。

 

具体的には、

 

 

・住宅扶助基準(生活保護の住宅費の基準)の引き下げ

・冬季加算の適正化

・「その他の世帯」の保護脱却にむけた制度の見直し

・医療扶助の適正化(後発医薬品ベースへの見直し)

・生活困窮者自立支援法の財源のありかたと体制の規模について

 

 

の各論点があげられた。以下、一つ一つ解説と反論をおこなう。

 

 

住宅扶助基準の引き下げ

 

住宅扶助基準の引き下げに関しては、

 

 

「住宅扶助の特別基準は、低所得世帯の家賃実態よりも高い水準に設定されているため、均衡が図られる水準までの引き下げが必要ではないか」

 

 

と提案されている。

 

まず、住宅扶助基準とは何かというと、生活保護で支援する住居に関する費用、具体的には生活保護利用者が居住するアパート等の家賃などの基準額(上限額)を示す。

 

この住宅扶助基準に関しては、現在、社会保障審議会「生活保護基準部会」にて、議論がおこなわれている[*1]。

 

[*1] 第19回社会保障審議会生活保護基準部会資料

 

10月21日に公表された「生活保護基準部会検討作業班における作業について[*2]」という資料を参照すると、住宅扶助に関しては、住宅扶助基準と「最低居住面積水準を満たす住宅の家賃水準」とを比較している。

 

[*2] 生活保護基準部会検討作業班における作業について

 

ここでは、現行の住宅扶助特別基準(単身・上限額)では、「最低居住面積水準を満たす住宅の家賃水準」をカバーできる住宅は13.1%に過ぎないという調査結果が明らかになった[*2]。

 

この「最低居住面積水準」とは、2011年3月に閣議決定された「住生活基本計画(全国計画)」において定められたものであり、「健康で文化的な住生活を営む基礎として必要不可欠な住宅の面積」と定義されている水準である。

 

現行の住宅扶助基準は、国が定めた「最低居住面積水準」を満たしている額とはいえない状態であるのは明らかになっている。

 

それにもかかわらず、基準を引き下げるというのはナンセンスであり、閣議決定された「最低居住面積水準」を反故にする矛盾した案である。

 

 

冬季加算の適正化

 

次に冬季加算の適正化について説明する。冬季加算とは、寒冷地等での冬季(11月~3月)の暖房代等の出費を考慮して通常の生活保護費に上乗せされて支給される金額のことである。

 

ここでは財務省は、

 

 

「冬季に需要が増加する家計支出品目の冬季増加額の全国的な地域偏差を超過して設定されている冬季加算額分について、骨太の方針を踏まえ来年度から引き下げるべき」

 

 

と提案している。

 

実際に、総務省家計調査(平成25年度)によれば、全国平均の冬季の需要増加傾向と冬季加算の地域別分布をみると、冬季加算額が過剰に支給されているようにみることもできる。

 

しかし、この「家計調査」に基づいたデータは、光熱費等の「11月~3月分」と「4月~10分」とを比べ、その増加分を見たものである。そもそもが、夏季には冷房等を利用することは一般的であり、冬季に急に光熱費等が増加するとは考えづらく、ミスリードなデータの出し方である。

 

また、低所得者や生活保護利用者のなかには、燃費の悪い暖房器具を利用していたり、今後の電気代の値上げ、灯油代の値上げ等を考えると、単純に下げればいいというものでもない。

 

冬季加算に関しては、先述した生活保護基準部会にて今後、実態調査等も検討されているようなので、引き下げありきの前提でなく、実態に合ったデータに基づいて議論するべきである[*3]。

 

[*3] 冬季加算の検証について

 

 

「その他の世帯」の保護脱却にむけた制度の見直し

 

生活保護利用者は大きく分けて、「高齢世帯」「傷病障害世帯」「母子世帯」「その他の世帯」にわけられ、高齢世帯が45%、傷病障害世帯は30%、母子世帯は7%、その他の世帯は18%となっている(2013年10月速報値)。

 

この「その他の世帯」は、稼働年齢層ともいわれ、ここでは、

 

 

「経済雇用環境はリーマンショック以降改善しているにもかかわらず、「その他の世帯」をみると保護廃止割合がむしろ低下している」

「就労を通じた保護脱却のため・・・(中略)・・・一層の取り組みが必要なのではないか」

 

 

と書かれている。

 

もちろん、「その他の世帯」への就労支援をおこなっていくことは必要なことだ。しかし、これは2009年のデータになるが、「その他世帯」の年齢階級別分布を見てみると、世帯主の平均年齢は55.8歳で、20代は2%、30代は7%、40代は16%、50代は34%、60代は30%となっている。「その他の世帯」の半数以上が50代~60代であり、必ずしも「働き盛りの世帯主」とは言い難い[*4]。

 

[*4] 2011年4月19日生活保護基準部会資料「生活保護制度の概要について」9ページ

 

また、2013年5月16日、社会・援護局長通達「就労可能な被保護者の就労・自立支援の基本方針について」により、新規で生活保護を利用する稼働年齢層は、3~6か月以内に「低額でも必ずいったん就労」ということが求められることになっており、全国の自治体では実際に集中的な就労指導がおこなわれている[*5]。

 

[*5] 2013年生活保護関係全国係長会議資料38ページ

 

このような非常に就労バイアスが強い生活保護行政であるにもかかわらず、「その他の世帯」の生活保護利用者が減少しないのは、就労支援の不足というよりは、受け入れ先、雇用先がないという問題のほうが大きいのではないだろうか。

 

平均年齢が55.8歳で、場合によっては病気等をもっていたり家族の介護等に追われている生活保護利用者が再就職をはたし、就労自立をむかえるのは、なかなか困難であろう。

 

実際に知り合いの生活保護利用者から話を聞くと、100件以上の面接を受けても落ち続けたり、生活保護利用者であることにより履歴書の空白ができて就職の不利になったりと、就労自立への道のりが厳しいことを日々痛感している。

 

にもかかわらず、財務省によれば、

 

 

「生活保護受給の更新期を設定し、毎更新期に就労自立に向けた受給者の努力も勘案しつつ、保護の継続が真に必要か否かの判定を行うような仕組みも検討すべき」

「就労支援を正当な理由なく拒否した場合には、保護の廃止に至る前の段階的な措置として保護費の削減を行えるような仕組みも検討すべき」

 

 

と提起している。

 

「生活保護受給の更新期を設定し……」に関しては、いわゆる生活保護の「有期化」の議論であるが、ここで言う「受給者の努力も勘案じつつ」とは、あまりにも暴論である。

 

そもそも、努力をどう判断するのか。結果が出なければ努力していないのか、毎日ハローワークに通えば努力しているのか、2日に1日なら努力しているのか、3日に1日ならどうなのか。または、毎日通っていても真面目に就活していないかもしれないし、その「努力」を一体どのように判断するのだろうか。

 

もし、このような視点で困った時に最後に使える社会保障制度である生活保護制度が、努力しているかどうかで廃止される、しかも、努力しているかどうかを窓口の職員がみて判断するという非常に精神論的な、そして、制度の運用が各自治体や担当者によって解釈の幅がでてしまうような制度に変わってしまう。

 

それは明らかに、必要な人を保護し、自立の助長をうながすという本来の趣旨から変容してしまうものであり、実態を顧みない提案である。【次ページにつづく】

 

 

 

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