新しい「ことば」の学び方――「一身にして二生を経る」時代を生き抜くために

■今、どんな時代なのか

 

最後、直近の2016年です。日本の割合はさらに小さくなって、名目GDPの構成比率で6.5%です。中国はさらに大きくなって14.8%ですから、大きな差がついています。しかし、この間、日本は手をこまねいていたわけではありません。労働力人口維持に向けた取り組みを始めています。

 

日本はいま人口がどんどん減っています。人口が減ると、当然ながら働ける人も減ります。働ける人が減ると、産業は縮小し、国の規模も小さくなります。なんとかしないといけません。国によっては移民を受け入れるという判断をしたところもあります。ドイツなど西ヨーロッパの国々では中東からの移民を受け入れ、労働力として活用していますが、その反面、国内で摩擦や対立が起きています。EU各国において、移民への排斥運動が今も続いていることはみなさんもご存知かと思います。

 

日本は今のところ、単純労働力としての移民を受け入れるという選択はしていません。日本の入管行政は、政策的な意図ではなく、難民として認定するかどうかは個別の要件に基づいて判断する、あえて門戸を広げたり狭めたりしない、という政策を採用しています。もちろん、技能実習生制度等を通じて、中国やベトナムなどから若年層が来日していますが、それはまた別の話で、政策として単純労働力としての移民を受け入れるということはやっていません。

 

しかしそうはいっても、人口が減少し、労働力が減っていく中で、日本はどうすればいいのでしょうか。

 

政府が行っているのは、女性や高齢者の就業促進です。女性が結婚しても子どもを産んでも働き続けることによって、これまで日本に欠けていたピースを補完できる。優秀な女性たちがこれまで参画していなかったところで働くことで、日本の労働力人口をなんとか維持することができるのではないか。いま安倍政権が女性の活躍の推進をアピールしている背景には、こういった側面があると指摘する声もあります。女性活躍を社会政策、すなわち、女性が潜在能力を発揮できるようにすることで両性にとって望ましい社会の実現を目指すという文脈だけでなく、経済政策、すなわち、女性が活躍できる社会のほうがみなさんも日本全体も経済的に豊かになるから望ましいという視座も加味したのが、現政権の大きな特色のひとつだと分析する見方もあります。

 

それから「働き方改革」です。みなさんもこの言葉を最近耳にすることがあると思います。

 

これまでのように、お父さんが外で働き、残業も苦にせず、土日も出勤する反面、お母さんが家の中にいて子どもを育てる、という働き方や家族のあり方はもう止めませんか。それよりも生産性、つまり働いた時間毎に得られる成果を重要視しませんか、というのが働き方改革です。男性の育児休業の取得促進もこの一環に入ると思います。現在、安倍政権は、2020年までに、男性国家公務員の13%が育児休業を取得することを数値目標として掲げています。

 

私事になりますが、私も2年前に娘が生まれたときに、育児休業等を取得して職場を5週間ほど離れました。15年前、いや10年前でさえ、男性が職場で育児休業を取得するのはまだまだ考えられない雰囲気だったというのが正直なところだと思います。もちろん、制度上、取得は可能であっても、育児休業を取得した男性の先輩は実際には見たことがありませんでした。

 

しかし、今はそういう雰囲気が変わってきています。男性が育児休業を取得することが、男女での育児の分担を進め、女性だけに育児の負担がのしかかる、いわゆる「ワンオペ」を是正することになるという話でもあるのと同時に、そうでもして女性がちゃんと働けるようにしないとこの国が持ちませんよ、という非常に大きな危機感の現れでもあります。国全体で人口が減っていく中、みんなで知恵をしぼっている時代でもあるわけです。

 

次に、人材獲得競争の激化です。

 

さきほど、日本は単純労働力としての移民を受け入れない、という話をしましたが、その一方で、高度技能人材の導入を積極的に行っています。これは一般的な単純労働力ではなく、能力のある海外の人はどんどん来てください、永住権もすぐに出します、という政府の姿勢を示しています。

 

同時に、一般労働者のコモディティ化も進んでいます。「コモディティ」というのは、どこにでも売られていて、付加価値が全くないもの、という意味です。海外から優れた人材が来るようになると、みなさんが今後就職活動を始めるとき、会社側からすると、日本人を雇わなくてはいけない、という状況では必ずしもなくなっていきます。中国、ベトナム、韓国など、非常に多様な国籍の中から、能力の高い人をよりどりみどり選ぶことができるとしたら、あえて新卒だから、という理由で日本人だけを選ぶ理由はどんどん減っていきます。特段取り柄のない日本人というだけの人は、就業機会が以前より少なくなる可能性があります。

 

さらに、SNSの急速な普及です。グローバル化とタコツボ化の同時進行という問題も見られます。

 

みなさんもLINE、FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSをやっているでしょう。一見すると、SNSを利用することによって世界が広がるように思えます。もちろん、SNSによって世界中で起きていることがリアルタイムで分かるようになったことは事実です。例えば、トランプタワーで煙が出たとして、これまでだと半日くらいのタイムラグがあって日本だとNHKが報道したでしょうが、今は、誰かがSNSにその様子をまずアップロードし、メディアがその人に取材する、という時代になっています。遠くのことがリアルタイムに、しかも日本だけでなく世界各地のことがすぐに分かるという点で、グローバル化の時代に沿った現象です。

 

その反面、SNSの普及によって「タコツボ化」も同時に進んでいます。「タコツボ化」というのは、自分たちの身の回りだけで固まって、その中ですべて完結してしまうことです。SNSを友達同士でやっていると実感がある人もいると思います。SNSは似たタイプの人が集まりやすい傾向があります。自分と同じような属性の人たちがつるんで、長い時間を過ごす。すると全く違う考えの人たちとの間では諍(いさか)いが起こりやすい。SNSはそういう危険なツールでもあります。

 

今の時代でSNSを使いこなすことは、そうしたリスクと隣り合わせであることを意味します。私自身、学生の頃にTwitterがなくて本当に良かったと思っています。当時Twitterがあったら、いいか悪いかという判断能力がないまま、何でもアップロードしてしまって、炎上していたかもしれません。そういう意味でみなさんは、以前より厳しい時代を生きていることになります。

 

ここまでは、日本をめぐる過去50年間の変化を話してきました。これからはみなさんの大学卒業後に起きることを予想してみたいと思います。

 

 

■君たちはどう生きるか

 

1つ目は、「過去の「常識」があっという間に変わっていく」ということです。

 

さきほど、育児休業の話をしました。1980年代、90年代に男性で育児休業を取る人は、よほどの変わり者扱いされたでしょう。しかし今、2018年では、むしろ政府が旗を振って男性に育児休業をとりなさい、という時代になっています。私自身、育児は父親の本来的な仕事だと思っているので、個人的に「イクメン」という言葉は好きではないのですが、この言葉がもてはやされるくらい、男性の育児休業にプラスの側面があるとみなされるようになりました。これが20年前だったら、「こいつは職場への責任がない奴だ。仕事よりも家庭を優先する人間には出世の道はない」と評価されていたかもしれません。当時はそれが「常識」でしたが、わずか20年、10年でガラッと変わりました。

 

2つ目は、「新興国の優秀な人材との競争にさらされる」ということです。みなさんの競争相手は日本国内だけに限定されません。例えば中国には、ものすごく勉強していて、日本語が堪能で、英語もできる若者がゴマンといます。そういう人たちと就職活動の場で比べられることになります。そうすると、経営者からすると、労働者としてどっちを採るかを考える際に、中国、ベトナム、韓国から採用するという選択肢が出てきたということです。

 

 

浅羽07

 

 

3つ目は、「これまで全く知らなかった分野への順応が急に求められる」ということです。みなさんは、アメリカのとある有名なユーチューバーが最近起こした事件を知っているかもしれません。このユーチューバーは、日本訪問中に不適切な言動を繰り返すビデオをアップロードした結果、インターネット上で大炎上しましたが、おそらく本人は何の悪気もなくやっていたんだと想像します。面白い映像をアップロードするほうがページビューをもっと稼げるし、収入も得られる。その人は倫理観を学ぶ時間がなかったのでしょう。確かその人は20代前半ですから、みなさんと世代はそれほど変わらないと思います。お金儲けの前に守らないといけない倫理観があるということを知らずに行動すると、著名でなくても大炎上してしまう可能性がみなさんにも十分にあります。

 

今まで中学や高校で、SNSの使い方や炎上対策などについて授業でまとめて教えられることはなかったと思います。しかし今、これらは生きていくための必須スキルのひとつになっています。このように勉強してこなかったこと、学校で教えてくれなかったことがいきなりスタンダードとなって、必ず順応しないといけないということが今後の人生で何度も起きると思います。【次ページにつづく】

 

 

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無題

 

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